金沢おでんの代表的なおでん種、蟹面

石川県はカニの名産地であり、加能ガニや香箱ガニが有名だ。加能ガニはオスのズワイガニであり、甲羅の幅が9cm以上の個体に付けられるブランドガニだ。一方、香箱ガニはズワイガニのメスとなり、小ぶりながらも内子(卵巣)と外子(卵)が詰まっており、濃厚な味を堪能できる。

金沢おでんの種として有名な蟹面は香箱ガニを使用する。胴体や脚の身をすべて甲羅に詰め込んで盛り付けた贅沢な一品だ。なお、蟹面の読み方は「かにめん」と「かにづら」の両方の説がある。

都内の鮮魚店では北海道産や鳥取県産など各地で獲れたズワイガニが出回っている。メスは「セコガニ」や「セイコガニ」という名で流通している。石川県産の香箱ガニにこだわる場合は通販を利用してもいいだろう。

ふんどしの部分には外子と呼ばれる卵がぎっしり詰まっており、黒い色をしているもの(黒子)が熟しているといわれている。写真のように鮮やかな橙色のものは未熟とされるが、これでも十分おいしい。

選ぶ基準は大きく重いもの、卵が黒いものとなるが、価格も異なる。お財布と相談しながら選ぶといい。

蟹面の調理方法

ここからは蟹面の作り方を紹介しよう。茹で、分解、盛り付け、おでん汁で温める、というシンプルな工程だが、慣れていないと時間を要するので、調理時間は余裕をもっておきたい。

まず、蟹の表面を軽く水とたわしで洗う。塩を3%加えた水を蟹がかぶるくらい鍋に入れて沸騰させる。弱火にしたら蟹を甲羅を下にした状態でそっと入れ、10分ほど茹でる。卵が流れ出さないように丁寧に作業しよう。

茹で上がったら蟹を取り出し、熱が取れるまで置いておく。この状態でかぶりついても十分おいしいが、じっと我慢する。

冷めたら解体をしていこう。脚の付け根を包丁で切断するか、手でもいでいく。硬くて滑りやすいので、包丁の扱いには細心の注意を払おう。

ふんどしを手で剥がし、こぼれた卵を集める。付け根部分に内子が入っているので、捨てないように甲羅にまとめておこう。

胴体の解体は両側の脚の付け根をつかんで中央にたたむようにするといい。腹側が真っ二つに割れて作業がしやすくなる。次に口を掴んで甲羅から剥がし、蟹味噌や身をかき出す。

腹側はさらにふたつに割り、菜箸や竹串などで身をほぐしながらかき出していく。両脇にある黒いエラは食べられないので捨ててしまおう。殻はおいしい出汁が取れるので取っておくといい。

かき出した身やミソ、内子を甲羅に集めていく。非常に地道な作業だが、おいしい蟹面を味わうためにじっと我慢しよう。

脚の部分は関節部分をすりこぎで叩いて身を絞り出していく。付け根部分を手で外した場合は、抜けやすいように包丁で口を開けておく。ある程度出てきたら、慎重に指で引き抜いていく。

脚から取り出した身を綺麗に並べれば盛り付けは完了だ。かなりの労力を要するので、面倒だと思った方はあらかじめ盛り付けられているものを購入してもいい。値段は2〜3倍ほど割高になるが、時間の節約になるだろう。

蟹面が崩れないようにそっとおでん汁に入れ、弱火で温める。塩で茹でてあるので煮込まなくても十分おいしい。外子も同様に汁に流れないようにそっと温めるか、甲羅の上にかぶせて一緒に煮てもいい。

通常のおでんに合わせてもおいしいが、せっかくなので金沢おでんの具材を加えてみよう。北陸名産の蒲鉾である赤巻や車麩などを合わせてみる。

見た目も華やかな蟹面のおでんが完成した。正直、蟹の身をほぐして盛り付けていく作業は大変なのだが、このゴージャス感と達成感はクセになる。年に一度くらいなら労力を惜しまず作ってみるのもいいだろう。

身はぎゅっとうまみが詰まっており、蟹味噌と内子の濃厚な味わいが絡んで贅沢な味わいとなっている。また、外子のぷちぷちとした食感も心地よい。

ズワイガニのメスは11月から年末までが旬となる。鮮魚店で見かけたら、ぜひ手に入れて蟹面に挑戦してみていただきたい。労力を伴うが、それに見合うだけの素晴らしい味わいを楽しめるだろう。

取材・文・撮影=東京おでんだね