「最初はジャズではなく『ワシントン広場の夜はふけて』という当時のヒット曲をソノシートで聴いて、純粋に音を再生する機械に興味をもった」と語る。
オーディオ調整のためにクラシックやジャズを聴くようになったある日、セロニアス・モンクの『ミステリオーソ』を耳にする。「最初は、わからなかった。でも、皮膚から匂いがするようなこの感覚はなんだろうと興味が湧きました」。
わからなさゆえにどんどん引きつけられたという須納瀬さん。「クラシックが“神”という一つの方向に収斂する形で捧げられる音楽だとすると、ジャズっていうのは、いろんな個性が放つ“私小説”みたいなものが無限に増え続け、自由に広がる音楽なんだと思います」
ジャズの虜とりこになって以来、ジャズ喫茶をどう持続させるかを考えてきた。須納瀬さんはあえて大きな店を構え、レストラン経営も兼ねて15人ほどのスタッフを抱え、一時代を築いた。現在は喫茶中心に、特に鹿児島名物のかき氷・しろくま作りにも精を出す。
「年3、4回開催するライブも夏は我慢して、かき氷屋みたいになっています」。盤石な意志に貫かれた愛すべき店だ。
【店主が選ぶ一枚】Sonny Chris “SATURDAY MORNING”
やっぱりジャズが好きだと自覚した究極の名盤
「本当にジャズが好きなのか自問していた頃、ソニー・クリスの『クライ・ミー・ア・リバー』をたまたま聴いて、やっぱりジャズが好きだと自覚したんです。そしてこれがクリスの究極の名盤だと思います」。須納瀬さんが選んでくれた一枚は、バップ全盛期を過ぎてもなお歯切れよく猛烈にハード・バッパーを貫いた、ソニー・クリスの『サタデイ・モーニング』(1975)。武田和命や片山広明など、日本のサックス奏者のアルバムも多く所蔵している。
取材・文=常田カオル 撮影=谷川真紀子
散歩の達人POCKET『日本ジャズ地図』より