ちょっと足を延ばせば名店があるのです

さすが、年間300万人の登山者が訪れるという高尾山。秋の景色も最高だった。下山後の疲れた体にはクイっと一杯流し込みたいところだが、高尾駅前にグッとくる居酒屋は見当たらない。しかし、ちょっと足を延ばせば名店があるのです。一人でも、大勢でも、美しい紅葉を思い出しながら一杯飲むしかないでしょう。

熱狂的な埼玉西武ライオンズファンで、この日も試合観戦帰りだという店主・久保達郎さんが営むのは『味はる』。以前、西八王子で営業していた居酒屋をコロナ禍で閉めている時期は高尾山のガイドをしていたこともあるそうだ。

店のこだわりは燗酒。温めることでうまみが引き立つ純米酒を日本全国から取り寄せている。カウンター席で燗酒をちびちびやりながら店主との会話を楽しめるお店だ。

「日本酒は元々付き合いのある鳥取の『山枡酒店』から主に仕入れています。山陰はお燗に合う味を目指して酒造りをしている蔵も多いですね」

燗酒に合わせるのは大山鶏をメインの焼き鳥。ジューシーで柔らかい鶏肉も絶品だが、トマトやブロッコリーなどの野菜を豚肉で巻いた串もおいしい。自家製のキムチに甘めの梅干しを和えた一品も燗酒が進む。

一人で余韻に浸っても、仲間とねぎらいあってもよし

一方で、100種類以上の焼酎が棚に並ぶのは『蓮華茶屋』。テーブル席で登山仲間とワイワイ話しながら好みの焼酎を選べる。店主は、焼酎の魅力に惚れ込んで全国各地から取り寄せている下會所(しもかいしょ)麦さん。

「言い方はちょっと悪いですが、焼酎は日本酒と比べてあまり繊細に造っていないところがあると思います。でも、お酒自身の強さがあるので、それでちょうどいいんですよ」

棚に収まるボトルには1本1本に店主のコメントが添えられている。これを見ながら気分や好みに合った銘柄を選べるのがうれしい。

さらに、高尾にちなんだ料理にも注目。商標登録も取った「高尾ハンバーグ(R)」は挽きの粗さを3段階で変えた牛肉と豚肉を練る。丸い形は「肉を感じてほしいから」だという。揚げ出し豆腐は高尾山系の地下水を使って作られた「するさしのとうふ」を使用。豆腐の味が濃厚で驚いた。

登山後の疲れた体を燗酒で温めるか、本格焼酎で心身をスッキリさせるか。いやー、これはどちらも譲れませんね。

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『味はる』カウンターでしみじみと飲むなら「燗酒」でしょう!

群馬泉山廃酛純米900円、串焼きおまかせ5本(左からハツ、ねぎま、皮、トマト豚巻き、ブロッコリー豚巻き)1150円、梅干しキムチ380円。
群馬泉山廃酛純米900円、串焼きおまかせ5本(左からハツ、ねぎま、皮、トマト豚巻き、ブロッコリー豚巻き)1150円、梅干しキムチ380円。
常連客と燗酒トーク。
常連客と燗酒トーク。
一つ一つ適正温度で浸ける。
一つ一つ適正温度で浸ける。
閉店したスナック跡地で店名を変えずに営業。
閉店したスナック跡地で店名を変えずに営業。

西八王子の人気店、「燗鶏道(カントリーロード)」が2022年に装いと店名を変えて高尾にオープン。こだわりは「燗酒マニア」の店主が厳選した、湯煎して一年中提供するする燗酒だ。平盃に記された「酒は純米・燗ならなお良し」という文言は、燗酒の魅力を広めた酒造技術者の上原浩氏による直筆メッセージ。焼き鳥は築地の老舗鶏肉卸し業者から仕入れた新鮮な鶏肉を使用、最近は野菜の豚巻きメニューも増やしている。

・JR中央線高尾駅から徒歩5分
・17:00~22:30LO、日休。
・☎042-690-9992

『蓮華茶屋』自分の好みに合う焼酎を探せるお店!

バーテンダーだった店主が2016年にオープン。
バーテンダーだった店主が2016年にオープン。
厳選された焼酎がずらりと並ぶ。
厳選された焼酎がずらりと並ぶ。
1本1本に味やおすすめの飲み方などに関するコメント付き。
1本1本に味やおすすめの飲み方などに関するコメント付き。
注目の女性杜氏が仕込む芋焼酎、麗しBlack600円、高尾ハンバーグ1480円、あげだし豆腐640円。
注目の女性杜氏が仕込む芋焼酎、麗しBlack600円、高尾ハンバーグ1480円、あげだし豆腐640円。

何と言っても圧巻は棚に並んだ100種類以上の本格焼酎。それぞれに添えられた店主のコメントを読みながら、ロック、水割り、ソーダ割りと飲み方を考えつつ今日の一杯を選ぶのが楽しい。早い時間帯は高尾山帰りの登山客、遅めの時間帯は地元の常連客でにぎわう。BGMは懐かしの昭和ポップスで、店主いわく「焼酎に合うんですよ」。焼酎に合う絶品の料理メニューも豊富。不定期で店内ライブも開催している。

・JR中央線高尾駅から徒歩5分。11:00~14:30(土・日・祝のみ)、17:00~23:00、無休。
・☎042-641-2681

取材・文=石原たきび 撮影=高野尚人
『散歩の達人』2023年11月号より