九段下で経営していた中華料理店の人気メニューをアレンジ
京急川崎駅から徒歩4分、JR川崎駅東口からだと徒歩8分ほどの『麻婆まぜそば 麻ぜろう』。九段下の靖国神社南門前で営業していた「上海酒家 水澪」の店主・前田藤郎さんが、2017年10月に麻婆まぜそば・担々麺・塩そばの3本柱で展開するラーメン店をオープンした。
「実家はかつて世田谷区駒沢で中華料理店を経営していて、そこで働いていた中華の名店出身のシェフから料理の基礎を教えてもらいました。社長の息子としてではなく、見習いからはじめて5年間ほど修業していたのですが、料理を始めた頃から自分の店を持ちたいと思っていたので、父の店は継がずに独立しました」。
その店が「上海酒家 水澪」。前田さんは、師匠たちに習った基礎にオリジナリティさを加え、日本人の口に合う上海料理を次々に編み出していった。その料理は国内外で中華を食べ尽くした美食家たちに愛され、「そんなふうに評価されたことは自信にもつながった」という。
やがて前田さんは「お客様がもっと気軽に食べられるメニューを」と考えるようになる。「うちの看板メニューだった土鍋の麻婆豆腐を、当時流行していた台湾まぜそばをヒントにアレンジしたものを提供したら好評だったんです」。
こうして生まれた麻婆まぜそばは、他所では提供していないようだったので「これはヒットするかも」と、九段下の店を閉めて、川崎でラーメン店を開くことにした。
駅前からは少し離れているのにも関わらず、ランチタイムは行列ができる。地元だけでなく地方からもこの店を目指してやってくるファンが多数。なぜか大阪からやってくるお客さんが多いというのはナゾだが、前田さんもその理由を知らないらしい。なんでだろ、不思議だ。
麺にもこだわる、刺激だけじゃない旨辛の麻婆まぜそば
前田さんからメニューの誕生エピソードを聞かされたら麻婆まぜそば1050円を食べずにはいられない。ぜひ食べてみたいです!
早速調理にかかった前田さんが、まぜそば用の麺をとりだして見せてくれた。「麺が短いことによって2分30秒で茹であがりますし、麻婆豆腐に麺がよく絡むんです」。
麺をゆでると同時に麻婆豆腐も作り始める。自家製の甜麺醤&ラー油を入れた真っ赤なベースのスープを中華鍋で熱し始める。あ、あれ? 豆腐はほんの少ししか入れないんですね?
「そうなんです。どうしても豆腐から水が出てしまうので、味が薄まらないようにと考えたら、この量がベストなんです」。
ギンギンに焼けた中華鍋に麻婆豆腐のスープを加えた途端、気化した辛味が目や鼻を刺激してくる。こりゃやばいぞ、目はショボショボ、喉はイガイガで咳が出る。コレが食べられるかな……。怯んだ筆者を横目にイラズラっぽく笑う前田さんは、おたまで細かく豆腐を砕きながら水溶き片栗粉を少しずつ入れてかき混ぜるのを繰り返す。
「豆腐が大きいと最後にそれだけ残っちゃうけど、崩すと麺に絡んだ時に一緒に食べられる」。つまり豆腐と辛味の部分をソースにしているのだ。
ここまできたらあとは手際よくトッピング。五香粉を満遍なくかけて、温玉、チャーシュー、蒸し鶏、長ネギを乗せる。仕上げに花山椒をかけ糸唐辛子をアクセントに置いたら完成だ。
食べる時は箸とスプーンを使って全部よーく混ぜて麻婆と麺をなじませる。麻婆がけっこう濃厚なので麺が重い。筆者の癖でつい「よおいしょっ!」とか言っちゃう。
調理中は目や喉に刺激があったしどれだけ辛いのだろうと思っていたのだけど、予想以上にマイルドでフワンと香る中国スパイスたちが鼻に抜けていった。豆腐こそ粒状になっているけど、この味は紛れもなく本格派の麻婆豆腐。もっちりとした麺は、1本1本に麻婆豆腐を纏わせている。これは素晴らしい発明品だ!
トッピングの低温調理の蒸し鶏やチャーシューも、それぞれ食感や肉の旨味がいい味出してる。このメニューに欠かせない存在だ。あれ!? 最初はなんてマイルドなんだと思っていたけど、食べ進めるうちに汗が吹き出して口の中が痺れている。でも、箸はノンストップで動かし続け、背中から吹きつける扇風機の風に感謝しながら完食。やっぱり辛かった、でも旨かった!
麻婆まぜそばは、プラス50円で自家製の極辣油を足して食べる人が多いというから、次はオーダーしてみようかな。
クリーミーで濃厚なごまが香る担々麺、黒胡椒を利かせたもやしで味が引き立つ塩そば
麻婆まぜそばが看板メニューだが、担々麺と塩そばにも「それしか食べない」熱狂的なファンがいる。
「担々麺は中華を習ったコックさんたちに教えてもらった作り方をベースに自分なりに仕上げたレシピで、「上海酒家 水澪」でも人気のメニューでした。自分の好きな練りごまを2種混ぜ合わせたものと、醤油だれ、自家製辣油を合わせて作っていて、以前のレシピをグレードアップさせた感じですね」。
スープがクリーミーで飲み切ってしまいたくなるそうだ。うーん、おいしそう!
一方、辛いものが苦手な人でも食べられるようにとオープンに合わせて生み出したメニューが塩そばだ。
「いわゆる海老タンメンのような、あんかけ麺をベースにしました。いろんなところで塩のラーメンを食べさせていただいたんですけど、ものすごくスープにこだわっていたとしても途中で飽きちゃう。最後までおいしく食べてほしいからアクセントになるものをと考え、辿り着いたのがこのもやしなんです」と前田さん。
あっさりした塩そばの上に胡麻油と黒胡椒で味付けたもやしがたっぷり乗ってくる。これが、食べ進めるうちに溶け出して徐々に味が変わるという。黒胡椒がいいアクセントになって、最後まで飽きないそうだ。ムムム、これは黒胡椒好きにはたまらないぞ!
ほかにもサイドメニューの焼き餃子、水餃子のほか、自家製の醬が決め手の辣醬餃子、それと自家製だれをかけたよだれ鶏がある。友達と一緒に出掛けてフルコースで楽しみたい。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢