鳩ヶ谷で50年以上営業しているおでん種専門店『港屋』

埼玉高速鉄道線(埼玉スタジアム線)の鳩ヶ谷駅は、東京メトロ南北線から直通で向かうことができる。赤羽岩淵駅から8分ほどで到着するアクセスしやすいエリアだ。

今回の目的地である『港屋』は鳩ヶ谷駅から6分ほどの距離にある。『港屋』のある坂下町商店会という商店街には個性あふれるお店がいくつかあり、おでんを販売する『星野商店』という豆腐店も営業している。

『港屋』は昭和47年(1972)に創業し、鳩ヶ谷で50年以上営業しているおでん種専門店だ。もともとは本町3丁目にあったが、営業開始から16年経った頃に坂下町へ移ってきたという。

おでん種の種類が豊富で、なかでも揚げ蒲鉾は20種類以上もある。ひと口サイズのスタミナ揚、紅しょうが、えだ豆などがセットになったおつまみ揚も販売しており、食卓に一品加えたいときに重宝する。

さて、今回のお目当てであるできたておでんはお店の向かって左手で調理されている。夏季も販売しているが、やはり寒い時期が売れ行きがよいという。

メニューには24種類が記載されているが、実際はそれ以上のおでん種が揃っている。記載されていないものは揚げ蒲鉾がほとんどなので、店主に「練り物は何がありますか」と質問すればやさしく丁寧に教えてくれる。

以前は出汁をとっていたが、現在は『チヨダ』のものをベースにしているという。店主も高齢になり、調理の最適化を行っているのだという。それでも、さまざまな種類のおでん種からうまみが溶け合って、まろやかで奥深い味わいとなる。家庭ではなかなか再現できない、おでん種専門店ならではの調理法だ。

店主にお話をうかがいながら、いくつか注文していると「形が悪いから」と大根をひとつおまけしていただいた。その心遣いがうれしく個人商店ならではのぬくもりを感じるが、サービスしてもらって当たり前と思わないように謙虚な気持ちでいたいものだ。

『港屋』で買い物したら、お隣の『おかずや』も覗いてみよう。お弁当やお総菜を取り扱っており、豊富な品揃えが魅力のお店だ。

店内には天ぷらやアジフライなどの揚げ物、甘露煮や南蛮漬けなどのお総菜、生姜焼きやメンチカツなどのお弁当が所狭しと並べられている。

今回はレバニラ炒めとふきの煮物を購入した。レバニラ炒めは甘辛のタレがしっかりとしていて、レバーやもやしに非常によく合う。一方、ふきの煮物は出汁の上品なうまみが心地よく、ふんわり漂うふきの香りも素晴らしかった。自宅の近くにあったら毎日通いたいお店だと思った。

『港屋』のできたておでん

自宅に戻ったら、早速おでんを調理しよう。今回『港屋』で購入したのは、揚げ蒲鉾以外のおでん種を中心に選んでみた。

時計回りに12時から、大根、はんぺん、牛すじ、ちくわぶ、チーズ巻、魚のすじ、いか入り、ロールキャベツ(中央左)玉子(中央右)、フランク(中央下)。

購入するとポリ袋に入れてくれ、匂いや汁がこぼれないように輪ゴムでしっかり縛ってくれる。また、希望すればからしを付けてくれる。

調理は温めるだけでいい。ただし、玉子がある場合は爆発するため電子レンジは使用しないほうがいい。弱火でおでん種の芯まで火が通ったら器に盛り付けよう。

大根は仕込みに時間をかけてじっくり煮ているという。芯まで味が染み込んでいながらもフレッシュな食感を残しており、やさしい汁のうまみが心地よい。

玉子はぷりんとした食感となめらかな黄身の舌触りを楽しめる。ほどよい染み加減となっており、やさしい味わいとなっている。

イカ入りの揚げ蒲鉾はソフトでありながら弾力のある魚のすり身は味わい深く、うまみをきちんととどめている。イカのくにくにとした食感がよいアクセントとなっている。

チーズ巻はチーズがとろりとあふれ出て、見た目だけでもおいしさを感じ取れる。チーズが魚のすり身をよりまろやかにし、口の中でじんわりと溶けていく。

はんぺんはふんわり空気を含み、口に入れるとじんわり溶けていく。その瞬間にうまみとおでん汁の味わいが広がり、空を浮遊しているような心地よい幸福を感じることができるだろう。

魚のすじはサメ肉を用いた東京ローカルの練り物だ。おでん汁でほろほろになり、ねっとりとした食感を楽しめる。通常の魚のすり身とは異なる味わいを楽しんでほしい。

フランクは2種類あり、今回はピリ辛のものをチョイスした。圧倒的なボリュームで、満足感この上ない。ほどよい辛さとなっており、ほのかにスパイスの香りも感じられる。

ロールキャベツは挽肉がぎゅっと詰まっており、肉汁もたっぷり含んでいる。ジューシーなキャベツの味わいも格別だが、食べやすい大きさになっているのでお腹が膨れる心配がない。

牛すじはくにくにとした食感が心地よく、ほのかに牛独特の豊かな甘みが感じられる。購入する際は串のままか、串から外すかを選べる。

ちくわぶはくたくたになりすぎず、小麦のうまみを感じられるちょうどよい煮加減となっている。そのままで物足りない方はからしをつけてアクセントにしてもいいだろう。

『港屋』は50年以上の歴史を持ち、店主がひとつひとつ丁寧におでん種を作り続けてきた。できたておでんは気をてらわずスタンダードな味つけとなっているが、真面目な店主の丁寧な職人技が反映されていると思う。また、やさしい店主の性格が反映されたぬくもりのある味わいだった。

鳩ヶ谷は東京からほど近い距離にあるので、散策ついでに『港屋』にぜひ訪れてほしい。

『港屋』(鳩ヶ谷)の基本情報

『港屋』
〒334-0003 埼玉県川口市坂下町2-3-16 信栄ビル
048-284-2152
定休日:日・祝
営業時間:9:00~19:30

取材・文・撮影=東京おでんだね