パクチーレモンサワーと今日は冒険だ!

新宿の路地にかわいいピンクの看板が浮かぶタイ料理屋『モモタイ』、ここが今回教えてくれた店だ。店名は店長・桃子さんのお名前から来ている。

店に入るとテーブルも同じ色のピンク! とりあえず飲み物を、とパリッコさんが注文したのは『モモタイ』では必ずこれ、という「パクチーレモンサワー」。

生パクチーがのった、パクチーレモンサワー 530円。
生パクチーがのった、パクチーレモンサワー 530円。

さっそく乾杯して飲んでもらったのだが、ここで、パリッコさんやっぱりプロなんだと。表情か? 酒の持ち方? 角度? わかんないけど、なんかすっごいおいしそうなんですよ。

なんでしょうね、普通に飲んでるんだけど……。
なんでしょうね、普通に飲んでるんだけど……。
パリッコさんが飲んでると妙においしそうだ!
パリッコさんが飲んでると妙においしそうだ!

食事についても毎回同じものを食べるそうで「最初に来たときおいしかったものをずっと頼んじゃうんですよねえ、カオマンガイとかトムヤムクンとか。今日は食べたことないもの頼んでみようかな」というので、冒険に乗っかろう。

冒険、といってもメニューを見るととにかくリーズナブル! だいたいが500円未満、どれを頼んだって1000円には収まってしまう衝撃価格に「パリッコさんの食べたいものどれでも行っちゃいましょう!」と気持ちが大きくなるのだった。

なんだか無限に食べられる気になってきます。
なんだか無限に食べられる気になってきます。

すべての料理が“モモタイ風”だからいい

パリッコさんが『モモタイ』にはじめて訪れたのは2018年頃のこと。彼がメディアで紹介したことで大きな反響があり、そこからお店との付き合いが続いている。

「うわさで聞いて来たらすごくいいお店だったんで、これまでに記事とかテレビでも紹介させてもらって。ほかにもイベントに出店してもらったり本当にお世話になってますね」

「“行きつけ”なんて恐れ多いんですけどね」
「“行きつけ”なんて恐れ多いんですけどね」

さて、すぐに出てきたのはシェフ手作りの「ネーム(発酵生ソーセージ)」。豚肉、豚の皮、にんにくが使われており、発酵ならではの酸味がクセになる感じ。「おいしい! 普段食べないもの、頼んでみるべきですね」とパリッコさん。

ネーム(発酵生ソーセージ)420円。
ネーム(発酵生ソーセージ)420円。

つづいて「その日の青菜炒め」、この日は小松菜だ。タイ風ではあるがやや甘めの味付けでなんとなく馴染みもありぱくぱく食べ進む。

その日の青菜炒め 440円。
その日の青菜炒め 440円。

「ここの料理って本格タイ風でも日本人向けでもなく“モモタイ風”なんですよね。その味がほんとに、いいんですよ」

おいしい! おいしい! とうれしそうに頬張る。
おいしい! おいしい! とうれしそうに頬張る。

店長・桃子さんに聞くと「私がすきな味に調整してるんです。シェフからは、こんなのタイの味じゃない! って言われちゃうんですけどね」と笑った。

とにかくやり続けるとなんかなる!

ここでひとつ気になっていたことを聞いてみた。飲食店について書く人はたくさんいるけれど、パリッコさんはなかでも注目を集めている……答えにくいのは承知ですが、それってなぜだと思いますか?

「いやあ……自分でも不思議ですよね。謎でしかない(笑)。ただ例えばWEB連載でも、ある程度記事の本数があって、本を作りたいなって思ってる編集者さんの目に止まれば、それをまとめて本にしませんか?ってこともあったりするから、数なのかもしれませんね」

「次、メコンってやつ飲んでみようかな」
「次、メコンってやつ飲んでみようかな」

たしかにパリッコさんは、はたから見てもとにかく圧倒的な量の記事を書いている。しかし自分でいっぱい書くぞ、と決めているのではなく「言われるがままに……」とのこと。

「でもやっぱり嫌いじゃないっていうのはあると思います。20代は音楽やってたんですけど、昔から文章とか絵に限らずとにかく作ることが好きだったんで、それをずっとやってる感じかもしれないですね。この間も誰に頼まれたわけでもないのに自分で酒のつまみを描いた画集を作ったり」

酒のアテのおいしい質感が余すところなく描かれた『パリッコ画集 いかとか』(後日撮影)。
酒のアテのおいしい質感が余すところなく描かれた『パリッコ画集 いかとか』(後日撮影)。

「ライターをはじめる前、友だちに誘われて趣味のサイトで『大衆酒場ベスト1000』っていう連載をやってたら楽しくなって……100回続いたあたりで人の目に止まって別の仕事をもらえるようになったんです。そこで気づいた感じありますよ、とにかくやり続けるとなんかなる! みたいな。1年でも100回でも、とにかくやめないことが次につながる」

メコンに初挑戦。「独特な味! これは現地に思いを馳せられますねえ」
メコンに初挑戦。「独特な味! これは現地に思いを馳せられますねえ」

ものづくりをする人たち、励まされますね。酒をぐびりと飲んで、パリッコさんがほがらかに放つ「好きだから続けている」のシンプルな哲学を、私もそのままぐびりと飲み込んだ。

タイのウイスキー「メコン」のハイボール 530円。
タイのウイスキー「メコン」のハイボール 530円。

パリッコさんの新定番「クンオップウンセン」

さて追加で届いたのは、パリッコさんが「いちばん高いやつ行っちゃいます?」と目を輝かせて注文した鍋料理「クンオップウンセン」。

クンオップウンセン(頭付エビの春雨蒸し)990円。
クンオップウンセン(頭付エビの春雨蒸し)990円。

うわあ、すごい! これは高級料理だー! とふたりではしゃいだ。そのはしゃぎっぷりはこの写真を見ると伝わるのではないでしょうか。

満面の笑みで撮影するパリッコさん。
満面の笑みで撮影するパリッコさん。

これはもう絶対にはじめて食べる料理。エビの下に春雨、貝、セロリ、しょうが、にんにくなどがふんだんに入っていて元気になれる味! エビのエキスが春雨に染み出して、とってもおいしい。

「あー、うまっ! 下の春雨が超うまい! たまんないなこれ」
「あー、うまっ! 下の春雨が超うまい! たまんないなこれ」

「クンオップウンセン、今度から定番になるかも」とかなり気に入ったみたいだ。いやあ最高級メニューで990円、ありがたい!

続いて、先ほどの「ネーム」同様、発酵させた鶏軟骨を揚げた「エンガィトード」。居酒屋で定番の軟骨唐揚げとは一味違い、やわらかく酸味があってあとを引く。

エンガィトード(タイ風鶏軟骨揚)430円。
エンガィトード(タイ風鶏軟骨揚)430円。

添えてあるピーナッツ、しょうが、キャベツの細切りもいいアクセントだ。店長・桃子さんによれば「タイでは定番のつけあわせ」とのこと。私は今日食べたメニューの中でこれが一番気に入った。次に来たときはパリッコさんおすすめのカオマンガイも食べたいな。

また行きたいと思える、パワースポット

酒場ライターとして十数年、これまでに飲みにでかけた店はもう数え切れない。

「一時期はいろんなところに行きまくって、ピークのときは、5軒はしご企画で下調べ・取材・お礼でそれぞれの店に3回くらい飲みに行ってましたね」

各店に下調べとお礼もしていたらたしかに、大変な回数になってしまう。取材のための取材だけで終わらせないのは「酒場がすき」という気持ちが彼を動かしているからではないか。やっぱりすごいなこの人は……。

「でも最近は、何軒もはしごして飲むような仕事は体力的にもう無理って感じになってきてます。お店選びして許可とって取材して執筆って負荷が大きすぎて。今は酒場にわざわざ行って取材する仕事は月1-2件くらい」

今いろんな酒場を回るのは体力的にきびしい、と感じるなかでパリッコさんがそれでもまた行きたいな、と思えるのってどういう店ですか。

「味や値段はもちろんあるんだけど、それ以上にやっぱりお店の人と波長が合うっていうか。そういう店に来ると、仲のいい友達と遊んで楽しいな、っていう小学生の頃に近い感覚があったりして、元気になる。そんなパワースポットみたいな店がいくつかあって『モモタイ』もそのひとつですね」

最後はパクチーレモンサワーに戻る。
最後はパクチーレモンサワーに戻る。

『モモタイ』は朝5時から営業しており、開店直後は深夜の仕事を終えた人びとでにぎわうという。また「ニュウマン新宿」に弁当も納品しているため、ランチタイムまでお店の方は大忙しだ。

ただ比較的空いている午後の時間帯には、店長・桃子さんや広報・大門さんがちょうどいい温度で接してくれる心地いい店。

帰りがけ、店長・桃子さん(右)と広報・大門さん(中央)と雑談。
帰りがけ、店長・桃子さん(右)と広報・大門さん(中央)と雑談。

実は取材当日ちょっと風邪気味だったのだが、たしかに来たときより心と身体が元気になっている気がする。

「でしょう? やっぱりいい気が充満してるんですよ、この店」とパリッコさんが言い、この店がパワースポットであることを私も確信したのだった。もうまた行きたい!

住所:東京都新宿区新宿2-16-3 第三宏和ビル 1F/営業時間:5:00~23:30(月は5:00〜14:00 ※月が祝の場合は~23:30、火が~14:00)/定休日:無/アクセス:地下鉄新宿三丁目駅から徒歩3分

取材・文・撮影=サトーカンナ