以前は観光地に行くと、必ずこの辰ちゃん人形と遭遇していた気がする。梅宮辰夫がプロデュースする漬物、辰ちゃん漬を販売する『梅宮辰夫漬物本舗』の店頭に、赤いエプロンを身にまとった等身大の辰ちゃん人形が設置されているのだ(系列店には色違いのエプロンを着けた人形がいる)。
FRP素材で作られた辰ちゃん人形は浅黒い肌がツヤッと光り、『くいしん坊!万才』に出演していた80年代の梅宮辰夫のイメージそのままである。『梅宮辰夫漬物本舗』はひところよりも店舗数は減っているようだが、今でも関東甲信越や東海、近畿地方に展開している。「中日スポーツ」2019年12月12日の記事によれば、像の撤去はされないということなので、ひと安心といったところか。
店頭人形を3つの型に分類する
ところで辰ちゃん人形のような店頭人形は、日本各地で目にすることができる。こうした店頭人形は、大きく分けて3種類に分けられると考える。1つ目は、先日このコラムでも取り上げたパンダ・ニーハオシンシンや、佐藤製薬のオレンジのゾウ・サトちゃんのような「キャラクター型」。2つ目は不二家のペコちゃんや、マクドナルドのドナルド・マクドナルドのような「実在しない人間型」。そして3つ目が「実在の人物型」であり、辰ちゃん人形はこれにあたる。
実在の人物とは、大体が創業者や社長、その店のブランドイメージを代表する人物である。最もポピュラーなのが、ケンタッキーフライドチキンの店頭にいるカーネル人形だろう。創業者カーネル・サンダースの60歳当時の体格を忠実に再現したというカーネル人形は、いつも白いスーツを身にまとい(季節に合わせて衣装を着せられることもあるが)、両手を前に出して我々をチキンへ誘う。たまにカーネル人形がいない店舗を見ると寂しく思えるほどである。
「実在の人物型」人形は等身大が基本
“実在の人物型”人形の特徴の一つは、カーネル人形のようにほとんどが等身大であることだ。まれに、愛知に展開する『まるは食堂』の創業者「相川うめ人形」や、「さわやか親父」の愛称で知られるディスカウント店『ジャパン』の創業者人形など、デフォルメを加えられてキャラクター化しているものもある(「さわやか親父」人形は最近めっきり数が減っており、代わりに看板にその名残をとどめている)。
合羽橋の『ニイミ洋食器店』ビル屋上にある超巨大コック像(二代目社長の新實善一をモデルにしているという)は、規格外の例外だ。
“本人が生きている”。たとえ死んだとしても
しかし、この「実在の人物型」人形の一番の特徴は、“本人が生きている”と思わせることではないだろうか。たとえば銅像は、ある人の死後にその功績を顕彰する目的で製作されることが多い。一方「実在の人物型」人形は、本人が最も生き生きと輝いている瞬間に作られるものである。そして有名な本人に出会えたような気分を、客に与えてくれるのだ。
我々は築地の『すしざんまい』本店で両手を広げる社長人形を見ては「お寿司と言えば!すしざんまい!」というフレーズを思い浮かべ、新宿の『アントニオ猪木酒場』に飾られる猪木人形を見ては「元気があれば何でもできる!」と心の中で叫ぶ。
辰ちゃん人形に見守られて辰ちゃん漬を買う時、まるで梅宮辰夫が「うん、うまい!」と太鼓判を押してくれているかのように感じることができたのである。
残念ながら、生身の梅宮辰夫はもうこの世にいない。しかし辰ちゃん人形は日本各地に立っている。カーネル・サンダースが死してなお多くの人に親しまれているように、辰ちゃん人形が存在し続ける限り、我々の心の中に梅宮辰夫も生き続けるような気がしている。
絵・写真・文=オギリマサホ