【中国】食べて飲んで歌うパワーがすごい!

目的地は、日本人客がほとんど来ないという池袋西口の中国式カラオケ店だ。

雑居ビルの5階に着くと、日本語の案内もあるにはあるがほぼ中国語。うーむ、どうしよう。
日本語があまりできなさそうな店員さんと互いに無言で向い合っていると、店内からかすかに懐かしい歌が聞こえてきた。あれ、Kiroroの『未来へ』じゃん。

ドアの窓からのぞくと、歌詞は中国語だけど「ほーら♪」のところは「後来(ホーライ:[その後]の意)」という漢字を当てているようで、原曲へのリスペクトも感じさせる。

図々しく部屋にお邪魔させてもらって、さらに驚いた。内装がド派手で料理が超豪華!

日本のカラオケだと、食事を目的とはしないけど、こちらはエビ、カニ、チキンやカエルなんかがどっさり入った揚げ物のタワーがドーンと鎮座している。その脇にも四川風麻婆豆腐にあれやこれや。とにかく、食べて飲んで歌うのが中国式だという。料金の仕組みも、日本式だと1人あたりの計算だが、中国式は1部屋単位。みんなでわいわいやったほうが安上がりというわけだ。

「カラオケをするだけじゃなくて、会社の会議室として使う人もいますよ」とオーナーの綾川裕文さん。
綾川さんは15歳で来日。日本語はまったくできなかったのに、数学オリンピックに出場して優秀な成績を収めストレートで早稲田大学の理工学部に合格。さらには文転して、北京大学の法学部に留学したという天才。でも、現在はカラオケ店の経営をしている。謎だ。

『逸局(いっきょく)』

日本語の歌も楽しめる中国式カラオケ店。1部屋1時間1000円~。生ビール500円。二段銅鍋6930円などの料理は4Fの系列料理店に注文。

住所:東京都豊島区西池袋1-36-8 ロマンスビル5F/営業時間:13:00~翌6:00/定休日:無/アクセス:JR・私鉄・地下鉄池袋駅から徒歩3分

制約がないからこそ生まれた幅広さ

「池袋には面白い中国人が本当にたくさんいますよ」と言うのは、東京国際交流協会会長を務める胡逸飛さん(60)。中国・上海出身の胡さんは1988年に留学生として来日。その後、日本の広告代理店に勤めながら、30年以上、日中友好の架け橋として働いてきた。

胡 逸飛(こ いつひ)さん。 1988年に留学生として来日。大手広告代理店を独立後、フリーの広告プロデューサーに。NPO法人東京国際交流会会長として日中友好を掲げ、国際交流の輪を広げている。
胡 逸飛(こ いつひ)さん。 1988年に留学生として来日。大手広告代理店を独立後、フリーの広告プロデューサーに。NPO法人東京国際交流会会長として日中友好を掲げ、国際交流の輪を広げている。

なぜ池袋がチャイナタウン化したのかを聞くと「自然発生的」なものだという。

ちなみに、横浜や神戸の中華街がほぼ料理店で構成されているのは、もともとあった外国人居留地に住んだ中国人に職業の自由が与えられなかったからだ。当時の在日華僑には「三把刀(さんばとう)」といい、刃物を使う料理人か、洋服の仕立て屋か、理髪師しか就職の道はなかった。

「私が30年前に来日した時、池袋にはすでに台湾系の食料品店などはありました。そのあとガチ系の中華レストランが増えていったのは、在日中国人にとって池袋の交通の便が良かったからです。私が最初に通った日本語学校は目白で、住んでたアパートは赤羽にありました。池袋はその真ん中でしょう。それに、高度経済成長期に日本人がマンションに住み始めると、池袋周辺には安いアパートが空き始めたんです。そこに中国人が住んだ。それから池袋には飲食店が多いのでアルバイト先もたくさんありました。まだ日本語があまり分からなくても、お皿を洗って、まかないが食べられたらそんなにいいことないでしょう(笑)」

90年代から2000年代にかけて、中国人向けの料理店が増えてくると同時に、ガチ系のカラオケ店や理髪店、不動産店、病院なども増えていったという。
実は取材したカラオケ店『逸局』も、飲食店や旅行代理店など、綾川さんの母親が多角経営しているグループ企業の店舗だ。

「中国人としてはですね、池袋を“チャイナタウン”にしたいわけじゃないんですよ。だから、横浜中華街みたいな牌楼(門)や関帝廟もいらない。ごく自然な形で池袋という街がもっと良くなってくれたらと思っています」と胡さん。

『逸局』にはDAMも入っているので日本語曲も歌える。でも、まずはKiroroの中国語版でも覚えてみようかな。

美容室『CoCo Salon』(西池袋1-44-3)の店長・野中道子さんは中国・内モンゴル出身。この夏には近所に火鍋店を開くというビジネスパーソン。
美容室『CoCo Salon』(西池袋1-44-3)の店長・野中道子さんは中国・内モンゴル出身。この夏には近所に火鍋店を開くというビジネスパーソン。
美容室『CoCo Salon』。
美容室『CoCo Salon』。

池袋チャイナタウンのガチ歴史

1980年代半ば〜

もとから日本にいた“老華僑”に対し、“新華僑”と呼ばれる新しい世代の中国人たち(主に上海や福建省出身)が、留学生として来日。

1990年代

91年に中国食品スーパー『知音中国食品店」が開業(2009年に閉店後、中国食品店『友誼商店』がオープン)。周辺の池袋北口界隈に新華僑の店舗が集中。

2000年代

池袋北口前に中国食品店『陽光城』がオープンし、中国人にとって池袋が“暮らしやすい便利な街”に。2008年には「チャイナタウン構想」も発表。

2010年代

華僑研究者・山下清海氏の書籍『池袋チャイナタウン〜都内最大の新華僑街の実像に迫る』がヒット。池袋チャイナタウンという言葉が定着する。

2020年代

全国の在日中国人が100万人を超えると言われ、池袋のチャイナタウン化も激化。胡さんいわく、ガチ中華系飲食店だけでもすでに100軒以上とか。

【ミャンマー】日常生活とともにあるミャンマーの喫茶文化

『ZUU&HEIN(ズー&ヘイン) ミャンマーティーハウス 池袋店』

アットホームな結婚パーティーの様子。
アットホームな結婚パーティーの様子。

『肉汁水餃子餃包』ののれん分けとして独立した、ミャンマー出身のオーナー夫妻が営む店。コロナ禍の酒類提供制限をきっかけに、母国の喫茶メニューを始めたところ、ミャンマーの人々が集う社交場に! 出勤前や仕事帰りに立ち寄り、甘いミルクティーや軽食、会話を楽しむのが日常的な光景になっている。「ここで結婚パーティーをする方も増えました」と妻のテテトウさんはほほ笑む。

「店は日本との架け橋にも」とテテトウさん。「故郷にいるような気分を味わってほしいですね!」。
「店は日本との架け橋にも」とテテトウさん。「故郷にいるような気分を味わってほしいですね!」。
ナンギトッ 850円。汁なしの温かい米粉麺にきな粉や豆揚げ、パクチーなどを混ぜて食べる人気メニュー。
ナンギトッ 850円。汁なしの温かい米粉麺にきな粉や豆揚げ、パクチーなどを混ぜて食べる人気メニュー。
ビルの2階『肉汁水餃子餃包池袋店』を目指して。
ビルの2階『肉汁水餃子餃包池袋店』を目指して。
住所:東京都豊島区東池袋1-23-5 新大同ビル2F(『肉汁水餃子餃包 池袋店』内)/営業時間:10:00~22:00LO/定休日:無/アクセス:JR・私鉄・地下鉄池袋駅から徒歩3分

【ベトナム】日越50周年、さらに豊島区の一員として

『サイゴン池袋西口店』

串焼き豚のせビーフンを選んだサイゴンセット 1380円(平日ランチ。土・日・祝は1580円)を2階でぜひ。
串焼き豚のせビーフンを選んだサイゴンセット 1380円(平日ランチ。土・日・祝は1580円)を2階でぜひ。

2023年4月には日越外交関係樹立50周年の「池袋ベトナムフェスティバル2023」が催された池袋。東池袋で開業35年の『サイゴンレストラン』2代目として、西口店オープンや新メニュー開発に挑むトラン・アン・チュンさんは「食を通じて、自分のルーツであるベトナムを紹介すると共に、豊島区との関わりにももっと目を向けていきたい」と語る。いわば日本・ベトナム・池袋を結ぶハブ的な役割を担う存在だ。

ベトナム(父)と日本(母)を愛するトランさん。「地域の活動にもアンテナを張っています」。
ベトナム(父)と日本(母)を愛するトランさん。「地域の活動にもアンテナを張っています」。
あみあみスイーツ揚げ春巻きは「にっぽんの宝物」グランプリに輝き、テイクアウト展開を準備中。
あみあみスイーツ揚げ春巻きは「にっぽんの宝物」グランプリに輝き、テイクアウト展開を準備中。
住所:東京都豊島区西池袋3-25-7/営業時間:11:00~14:30LO・17:00~22:30LO(土・日・祝は16:00から)/アクセス:JR・私鉄・地下鉄池袋駅から徒歩5分

取材・文=芹澤健介・篠賀典子(セリザワモータース)、味原みずほ 撮影=新谷敏司
『散歩の達人』2023年7月号より