鶏白湯の人気店を手掛けた店主が、新たな味を求めて再出発

新宿御苑前駅から旧甲州街道をまっすぐ四谷方面へ進み、新宿1丁目交差点を左に曲った静かな路地に『麺宿 志いな』がある。店主の椎名征一郎さんは、恵比寿のイタリアンで料理人をスタート。その後、ガレット店、パン屋、メキシコ料理と興味のあるジャンルで腕を磨くなかで、ラーメン店の話が舞い込んだ。

「従兄から一緒にラーメン店を立ち上げようと誘われて。でも、ラーメンの知識がないので、その前に恵比寿の『九十九ラーメン』へ修業にいきました」。1年後の2013年、従兄と一緒に立ち上げたのが、水道橋の鶏白湯ラーメン店『征麺家 かぐら屋』だ。修業先の『九十九ラーメン』は豚骨ラーメン店。鶏白湯はまったくの独学で、イタリアンなどの経験から作り上げたという。

店主の椎名征一郎さん。気さくな人柄で、お店の雰囲気も和やか。
店主の椎名征一郎さん。気さくな人柄で、お店の雰囲気も和やか。

『征麺家 かぐら屋』の鶏白湯ラーメンは人気を呼び、次々と店舗を展開。海外にも進出する勢いだった。しかし、「僕は、一店舗でゆっくり構えたかった」と、自分の店を持つことを決意。2018年7月24日に『麺宿 志いな』を開業した。

場所は、緑豊かな都会のオアシス、新宿御苑にほど近い静かな路地裏。椎名さんが群馬から上京してからずっと暮らしてきた、愛着のある新宿で店を出したかったそうだ。

女性1人でも入りやすい、カフェのようなおしゃれな外観。
女性1人でも入りやすい、カフェのようなおしゃれな外観。

店名の由来を伺うと、「一目見てラーメン屋とわかるように麺、それに新宿の宿。新たに宿るという意味もこめてます。そして自分の苗字“しいな”に志高く店を継続していきたいという思いをこめて『麺宿 志いな』とつけました。店がオープンした年に生まれた我が子の名前にも同じ“志”をつけてるんですよ」と笑顔で教えてくれた。

カウンター8席、テーブル4人席の計12席。店内に待ち席もあるので混雑時も安心。
カウンター8席、テーブル4人席の計12席。店内に待ち席もあるので混雑時も安心。

鶏に鯛のアラ。豊富な食材をバランスよく仕上げた淡麗スープを存分に味わってほしい

券売機の一番上左端、潮そばが『麺宿 志いな』のオススメだ。早速、スタッフの哲兵さんが作ってくれた。

一枚板のカウンターに置かれた一杯は、たっぷりトッピングが盛りつけられた、得製潮そば1150円。その下には、透き通ったスープが輝く。「朝9時過ぎから鶏ガラや鯛のアラ、昆布、香味野菜などを弱火でじっくり炊きます。昼営業が終わる前にガラを濾(こ)して清湯スープをとったら、材料を足して、今度は強火で白湯スープを仕込んでいきます。どちらも一晩寝かせて翌営業で使います」と椎名さんが、仕込みをしながら教えてくれた。

得製潮そば1150円。豚・鶏チャーシュー3枚、鶏ワンタン、味玉など具沢山の一杯。
得製潮そば1150円。豚・鶏チャーシュー3枚、鶏ワンタン、味玉など具沢山の一杯。

じっくり炊いたスープに3種類の塩をブレンドした塩ダレを合わせ、芳醇な旨味がたっぷり。鶏ガラだけでなく魚介や野菜など複雑な旨味をバランスよく仕上げたことで、単調にならず、最後の一滴まで飲みほしてしまうほどおいしい。ローストチキン・豚肩ロース・豚バラと3種のチャーシューも、スープに合わせバランスのよい仕上がりだ。

ガラをしぼって清湯スープをとったら、次は白湯の仕込み。モミジも追加してコラーゲンたっぷりプルプルの仕上がりに。
ガラをしぼって清湯スープをとったら、次は白湯の仕込み。モミジも追加してコラーゲンたっぷりプルプルの仕上がりに。

どれも手間隙かけた仕事がされているが、とくに食べてほしいのが鶏ワンタン。単品でも3個150円というお得さ。しっかりしたワンタンの皮にたっぷりの鶏餡で、食べ応えある一品。この鶏ワンタン、オープンから皮も餡も少しずつブラッシュアップしている。

鶏ワンタン。厚めの皮に包まれた餡は、ほんのり生姜の効いた鶏の旨味たっぷり。
鶏ワンタン。厚めの皮に包まれた餡は、ほんのり生姜の効いた鶏の旨味たっぷり。

実は、スープも少しずつ変えているそう。「高級食材を使っておいしくしようというのではなく、調理法が大切だと思っています。毎月、限定麺でいろんな食材を使って、いろんな調理法を試して、よければベースのスープに使ってみようという具合に。自分も満足するおいしい味にどんどん変わっていますね」と、椎名さん。

いい出会いが生んだ、素材一つ一つにストーリーがあるおいしいラーメン

オープン以来、変わり続けているのは、志高く店を継続していくため。実は、オープン時の麺といまの麺も違う。かぐら屋時代からお世話になっていた製麺所では、個人店一軒でオリジナル麺を作ることが難しかった。「三河屋製麺さんが一店舗でも完全にオリジナルの麺を作ってくれると。担当してくれたのがすごく情熱のある方で、こうしましょう、ああしましょうって試作を重ねて何回も来てくれて、すごく気に入った麺ができたんです」。

潮・醤油そばには三河屋製麺の細麺。スタッフの哲兵さんがしなやかな麺を丁寧にスープになじませる。
潮・醤油そばには三河屋製麺の細麺。スタッフの哲兵さんがしなやかな麺を丁寧にスープになじませる。

椎名さんが納得するまで仕上げてくれた三河屋製麺の麺は3種類。潮・醤油そばには細麺、鶏白湯には平打ち麺、つけそばには太麺を合わせている。

左から潮・醤油そば用の細麺、鶏白湯用の平打ち麺、つけそば用の太麺。
左から潮・醤油そば用の細麺、鶏白湯用の平打ち麺、つけそば用の太麺。

潮そばをいただいたあと、「おすすめしたいのと好みって違って、僕らは醤油が大好きです」と、椎名さん。かぐら屋時代は、何度挑戦しても納得のいく醤油そばができなかった。「全国からいろんな醤油を取り寄せ試しても、なかなかうちのスープと合う醤油が見つからなくて。いろいろ試したなかで出合ったのが、僕の地元の群馬にある岡直三郎商店の日本一しょうゆだったんです」。その日本一しょうゆの生醤油とたまり醤油、魚醤を合わせて醤油ダレを作る。店主こだわりの醤油そばだ。

「醤油のキレがある、醤油を感じる醤油ラーメンです。この醤油に惚れ込んで、店に入ったんです」と熱く語るのは、スタッフの哲兵さん。哲平さんは肉の卸業者として店に出入りしているうちにここのラーメンに惚れ込み、椎名さんに誘われスタッフとなった。いずれは独立して、本格的なラーメンも出す焼き鳥屋を出すのが目標だとか。

椎名店主とラーメンに惚れ込み、店主の一番の理解者でもある哲兵さん。
椎名店主とラーメンに惚れ込み、店主の一番の理解者でもある哲兵さん。
限定用のローストトマトを準備しながら、また新しいラーメンを模索中の椎名店主。
限定用のローストトマトを準備しながら、また新しいラーメンを模索中の椎名店主。

いい出会いがあって、いいラーメンができた。いいラーメンが、いい出会いを生む。新宿御苑を訪れたら『麺宿 志いな』に立ち寄ってほしい。志高く磨き上げた、いま最高の一杯が待っている。

住所:東京都新宿区四谷4-30-15市川ビル1F/営業時間:11:00~15:30・18:00~20:30/定休日:月(月2回不定休あり)/アクセス:地下鉄丸ノ内線新宿御苑前駅から徒歩5分

構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=大熊美智代