おでんに用いられるきのこの種類
日本のきのこは4000種類以上といわれ、そのうち100種ほどが食用となる。スーパーなどの量販店では常時10種類ほどが並び、料理に合わせて選ぶことができる。
おでんではえのきたけを用いる家庭が多いが、東北や北陸、九州では椎茸を入れることが多い。おでん料理店では各店が工夫を凝らし、さまざまな種類をおでん種にしている。中には松茸を入れた贅沢なものもある。
東京のおでん種専門店では椎茸の傘に魚のすり身を詰めた揚げ蒲鉾を作ることが多いが、刻んだキクラゲと椎茸が入った「にくらし揚げ」(『美好商店』)や「きのこ揚げ」(『柳屋蒲鉾店』)、ごまと椎茸が入った「胡麻しいたけ」(『や亀や』)、挽肉を詰めた「しいたけ肉詰」(京成小岩の『増田屋蒲鉾店』)など他の具材と組み合わせる場合もある。
キクラゲを使った揚げ蒲鉾も多く、日本橋の『神茂』や吉祥寺の『塚田水産』が「きくらげ天」として販売している。独特の食感があるため、こちらもほかの具材と混ぜて用いられる場合が多い。
洋食向けのきのこを使用しているおでん種もある。池袋の『佃忠』ではパプリカ、ズッキーニに加え、エリンギを混ぜた「彩り野菜揚」がある。また、『塚田水産』は「ニンニク・エリンギ・パセリ」というおつまみ用の揚げ蒲鉾がある。
珍しいところでは、ポルチーニ茸を使った『増田ヤ与野駅前店』の「ポルチーニトマトビーフ」がある。ワインでじっくり煮込んだトマトと牛すじ肉、ポルチーニ茸をからめ、ピンクペッパーをあしらった変わり種で、期間限定商品だ。
さて、ここからはおでんにおけるきのこの調理法を各種類ごとに紹介していこう。調理は非常に簡単で、食べやすい大きさにして煮るだけだ。おでんの見栄えも良くなり、栄養もたっぷりなので、挑戦していただきたい。
えのきたけ
まずは日本のきのこの生産量ナンバーワンを誇るえのきたけだ。おでん種としてもよく用いられている。
淡白な味わいで煮物料理によく合う。最近は野生のものに近い茶褐色のものが出回っており、白いものより風味が強いといわれる。
調理の際は石突から1cmほどを切り落とし、手で割いて好みのサイズにする。長いようなら下部分を切ってもいい。もちろん下部分も食べられる。
おでんにする際は干瓢で巻くとばらばらにならずに調理できる。煮る時間はさっと火が通る程度、3分ほどでじゅうぶんだ。
干瓢については「かんぴょう(干瓢)の戻し方とおでんでの活用方法」を参考にしてほしい。
椎茸
おでんの椎茸は東北や九州、北陸で親しまれている。おでん種専門店でも揚げ蒲鉾の具材としてよく用いられている。
香りの高さと肉厚の食感、味わい深さはきのこの中で随一だ。おでん汁をたっぷり吸い込むだけでなく、出汁として他のおでん種の美味しさを一段階引き上げる。逆に、浅草の『大多福』などは風味が変わることを嫌っておでん種に加えていない場合もある。
調理法は柄(え)を切り離すだけでいいが、柄も食べられるので石突だけ切り落としてもいい。良い出汁が出るので余すところなく使いたいものだ。より味が染みるように、傘に包丁を入れて飾り切りにしてもいい。
北陸では生より干し椎茸を使うことが多いという。一晩水で戻す手間があるが、凝縮したグアニル酸のうまみを堪能できる。
おでんにする場合は15分ほど弱火でじっくり煮る。火を止めて冷蔵庫で一晩味を染み込ませてもいいだろう。ぷりっとした食感がほどよくくたびれて、噛むごとにじゅわっとうまみがあふれてくる。
ぶなしめじ
ぶなしめじもおでんによく合う。癖が少ないためほかのおでん種への影響が少ない。長く煮ると小さくなってしまうが、出汁が染みて美味しい。
同じしめじの名を冠するものに本しめじがあるが、ぶなしめじはシメジ科シロタモギタケ属、本しめじはシメジ科シメジ属となる。
石突がついている場合は包丁で切り落とし、手で割いて好みの大きさにする。ただし一本ずつに分かれてしまうことが多いので、おでんにする場合は食べる間際に鍋に投入し、火が通ったらお玉などで取り皿に移すといいだろう。
さっと煮た場合はぷりぷりした食感が楽しめ、じっくり煮た場合はおでん汁を吸ってまろやかな味を楽しめる。ただし小さくなってしまうので、煮加減を調整して味わっていただきたい。
舞茸
舞茸もさまざまな料理に使える万能選手だが、おでんに入れても美味しい。適度な食感と癖のない味で全国各地で親しまれている。
栄養分も豊富で免疫力を上げるβグルカンの含有量はきのこ類でも随一だ。新潟県、静岡県、群馬県などで屋内生産されており、季節を問わず味わえる。
舞茸を調理する場合は手で好みのサイズにほぐすだけでいい。保存する場合は密封して冷蔵庫に入れれば2、3日持つ。
おでんにする場合は弱火で4分ほど火を通せば食べられるが、冷蔵庫に一晩置いて味を染み込ませても美味しい。余ったらほかのおでん種と一緒に炊き込みご飯にしてもいいだろう。
なめこだけ
なめこは独特のぬめりが魅力のきのこだ。味噌汁の具材として用いられることが多い。
ぬめりは自然界では虫や乾燥から身を守り、耐寒にも効果を発揮するという。
一般的に株から離したものが流通しているが、最近は株が付いたものも出回っている。また「ジャンボなめこ」といった大きなものも商品化されている。
株つきのものはひとつずつ手で引き剥がす。石突がついているものは最初に包丁などで切り落としておこう。なお、なめこは日持ちがしないので、購入したらすぐ調理するか、塩を加えたお湯でさっと火を通した後に冷凍しよう。
おでんにする場合はさっと火を通す程度にしよう。長く煮込むと小さく痩せ細ってしまい、なめこの魅力が半減してしまう。ぬめりの影響はあまり感じられないので、ほかのおでん種と一緒に煮ても問題ないだろう。
ひらたけ
ひらたけも癖が少なく、どんな料理にも合うきのこだ。最近は日本産のものと西洋のヒラタケ属であるオイスターマッシュルームを掛け合わせた品種が流通している。
以前はしめじとして流通していたが、ぶなしめじが一般化されるなかで姿を消していったという。日本では平安時代中期から食用され、長年親しまれてきた。
調理する際は手で割いて好みのサイズにするといい。大きなものは包丁で二等分にするなど食べやすくしてもいいし、あえてそのままにしておくのもいいだろう。
火はすぐに通るので弱火で3分ほど煮ればすぐに食べられる。味がよく染み込むので冷蔵庫で一晩置いても美味しく仕上がる。
ほかにもある、おでんに合うきのこたち
ここまで定番のきのこについて紹介してきたが、量販店を覗くと見慣れないきのこをたくさん並んでいることに気付く。好奇心のおもむくまま、おでんにしてみると面白い。
今回紹介するのはたもぎ茸。かつては「幻のきのこ」と呼ばれていたが、技術革新によって人工栽培が可能になり、流通するようになった。
植物繊維や鉄分を多く含むが、抗酸化物質のエルゴチオネインやコラーゲン組成に役立つグリシン(アミノ酸)を多く含む。健康や美容面だけでなく、美しい見た目も魅力だ。英語では「ゴールデンオイスターマッシュルーム」と呼ばれている。
味が染み込みやすく出汁もよく出るが、さっと煮てたもぎ茸の食感や味を楽しむといいだろう。まろやかで癖がなく、どんな料理にも合いそうだ。
次に紹介するのはヤマブシ茸。こちらも幻のきのこといわれていたが、最近では多くのお店で見かけるようになった。
白く傘のないふわふわとした見た目が山伏の結袈裟(ゆいげさ)についている梵天に似ていることからその名がついたという。また、ウサギに似ていることから「うさぎ茸」とも呼ばれている。
日本だけでなく欧米や北アフリカ、中国などに分布し、中国では宮廷料理に用いられたという。水溶性食物繊維の「βグルカン」を多く含み、認知症予防に効果のあるヘリセノンというヤマブシ茸にしかない栄養素も含んでいるという。
真っ白な針はふさふさとしているため、おでん汁をたっぷり抱き込んでくれる。出汁もよく出るのでおでんとの相性は抜群だ。
今回紹介した以外にもキクラゲやエリンギ、マッシュルームなど、おでん種として用いると美味しいきのこはたくさんある。今回の記事をきっかけとして、各家庭で新定番を見つけていただけたら嬉しく思う。
取材・文・撮影=東京おでんだね