予算1000円!旅とは
我が家の電子レンジが壊れたことにはじまる。旅行に行けるその日まで残そうと決めていたお金が最新家電になってしまった。そのショックと出かけられないストレスが沼の化身になって現れて、私を飲み込む。節約と旅を両立できる場所を求めて、行き着いた先がアンテナショップだった。
ここでアンテナショップを巡る1000円旅、略して「せんたび」のルールを説明したい。
・予算1000円
・予算内ならなにを買ってもOK
・オーバーしたら、自腹
1000円ポッキリでご当地を堪能する品を買う。これだけだ。
オープン25年の風格『新宿みやざき館KONNE』
新宿の新南口を出てすぐ、サザンテラスに構える『新宿みやざき館KONNE』は2023年でオープンして25年目を迎える。アンテナショップ創世記、銀座に沖縄や高知のアンテナショップができたのと同時期にオープンした。
「おいで」の意味の「こんね」が店名の由来。2階はレストラン、1階は物販スペースで、取り扱うアイテムは800種類!スタッフは県出身者が7割で、宮崎県に足を踏み入れたことのない人もトリコにする。
店内を案内してくれるのは、KONNEの広報を担当する杉尾さん。宮崎県川南町のご出身で、やわらかな宮崎弁と笑顔とその物腰がマッチしているやさしきお方だ。
なにはともあれ、宮崎県といえば鶏。真っ先に炭火焼きコーナーを案内していただいた。これでもかというほど、パウチされた商品が並ぶ。
杉尾さん:「一番人気はやはり鶏の炭火焼きです。おつまみに、おかずにもなります。私の地元は畜産の町で、母は鶏の食品加工の工場に勤めていました。小さな頃は鶏を食べるのに少し飽きていたくらい。それくらい地元でも食べられていますよ。」
杉尾さん:「宮崎県は焼酎が特徴的です。大分県、熊本県、鹿児島県に囲まれ、いろんな食材を得られることから、芋、麦、米のほか、とうもろこしや栗、生姜などの変わった焼酎があります。
当店では地元以外ではあまり手に入らない銘柄も揃えていて、抽選でしか購入できない人気の銘柄も。コアなファンもいらっしゃいます。」
杉尾さん:「暖かい土地柄もあり、フルーツも名産です。今の時期、1月から2月いっぱいまでは金柑が旬で、2月から3月にかけては日向夏(ひゅうがなつ)、暖かい時期になればマンゴーと続きます。」
杉尾さん:「私が普段からお店で買うのは、戸村本店の焼肉のたれとタルタルソースと甘口の地元のお醤油の3つです。
実は私、これまで戸村本店の焼肉のたれ以外はあまり使ったことがないんです。東京にくるまで一般的なブランドのラインナップも知りませんでした。また、タルタルソースはお惣菜を食べるときにもよく使いますし、お醤油も馴染みの甘口がいいんですよね。どれも毎日の暮らしに欠かせない調味料です。」
杉尾さん:「ところで、チーズ饅頭ってご存知ですか?宮崎県の名物で、チーズをほんのり甘い饅頭の皮で包んだおやつなのですが、意外と県外には知られていないんですよね。
地元のケーキ屋さんやお菓子屋さんが、それぞれ独自の製法でつくっていて、200種類近くもあるといわれています。甘すぎず、クセになる味でおやつにピッタリ!もっと皆さんに知ってほしい名産のひとつです。」
そのほか、郷土菓子のあくまきや、ソウルドリンクのヨーグルッペ、お漬物と冬の風物詩である大根干しをご紹介いただいて、今回の購入品を選ぶ。
あれも、これも……買って帰りたい!
私の宮崎県1000円セット
迷って購入したのはこの3つ!
鶏炭火焼 550円
洋風チーズ饅頭 130円
嫋(たおやか)なり 298円
しめて、978円。芋焼酎をじっくり楽しむお酒セットだ。
盛り付けるとこんな感じ。全体的に茶色いけど、これがいいのだ。芋焼酎の嫋(たおやか)なりはお湯割りにして、鶏炭火焼とチビチビ。チーズ饅頭もつまみにする。
炭火焼きは炭の香りが鼻を抜け、肉がしまっていて歯応えのある親鶏をグッと噛むほどにうまみが広がる。芋の香り華やかな焼酎と交互にして、うんと宮崎を感じる。
チーズ饅頭は優しい味で甘さ控えめ。中のチーズクリームがねっとりしていて、酒のつまみにもなる味だ。チーズケーキほど洋風ではなく、素朴な皮がおやつっぽさを醸し出している。
1000円オーバーはみ出し購入品
これだけで終わるわけがない。割り干し大根キムチを追加して、もう一杯。杉尾さんから「宮崎県は漬物が充実していて、大根を干す風景は冬の風物詩」だと教えてもらって、ついつい購入してしまった。
少し甘めのキムチだれで、パンチの強い鶏炭火焼とのバランスも悪くない。割り干し特有のパリパリの食感が楽しい。
もう一点、売り切れ必至の人気アイテムだと聞いて購入したのは、ふくれ。昔ながらの蒸し菓子で、人気の専門店まるはちふくれのふくれは週3回入荷するものの、すぐに売り切れてしまうのだそう。
蒸しパンのような生地できめが細かく、口どけはふわっとやわらか。さりげない甘みにジンとする。はぁ、幸せだ。
おいしいが豊富だから育つ?おおらかな県民性
取材時には、複数のスタッフさんが心よく商品を説明してくれた。多くが愛あふれる宮崎県出身者だ。「これも、あれもおいしいよ!」と勧めてもらうと、おいしい幸せを分けてもらう気持ちになる。
やわらかな方言に、あたたかい土地柄特有の明るい雰囲気。寒い冬にもひなたに包み込んでくれるような、この県民性はどこから生まれるのだろうか。
金柑を食べながら考えていたら、青森県出身の酒場のママが言っていたことを思い出した。「食べるに困らない南国の人はおおらかだ。寒い国はその辺で寝てたら死ぬけど、暖かい土地はその心配もない」と。
今の人々がどうなのかは知らない。でも、寒くて心まで縮こまっていたのが、グンと伸びやかになった気がした。
取材・文・撮影=福井晶