すゑひろがりず……南條庄助(トップ写真右) 三島達矢(トップ写真左)

共に1982年生まれ、大阪出身。NSC大阪校28期を経て、2011年にコンビ結成。2018年1月より大宮ラクーンよしもと劇場専属芸人“大宮セブン”として活動開始。2019年には狂言を取り入れた唯一無二の漫才でM-1グランプリ決勝に進出し話題を呼んだ。

今回訪れたのは……『大宮ラクーンよしもと劇場』[大宮]

2014年オープン。駅からすぐのビル内には、ファミレスや回転寿司などの飲食店から、ドンキホーテにブックオフ、100円ショップ、ボードゲーム専門店にいたるまで多種多様な店舗が軒を連ねる。アミューズメントがてんこ盛り!

住所:埼玉県さいたま市大宮区宮町1-60 大宮RAKUUN 6F/営業時間:15:00~20:00(土・日・祝は12:00~終演まで)/定休日:無/アクセス:JR・私鉄大宮駅から徒歩1分

ゼロ拍手、8悲鳴から売り切れ満席へ

――ステージとの距離が近いですね!

南條 そこがいいところ。椅子も春くらいに入れ替えたんですよ。

三島 ちょっと潤った感じ。今は配信対応のカメラまで付いてます。

――大宮セブンが決まった時、お2人はどんな心境でしたか?

南條 大宮は他の先輩からの評判はよくなかったんです。島流し感というか。だけど僕らは本当に仕事がなかったのでうれしかったですね。

三島 GAGさんに「『大宮セブンに入らないか』って話来てるんですよ」って言ったら「仕事量、1.3〜1.5倍になるよ」って。それならええやんか!と。

――実際にメンバーになってからはどうでしたか?

三島 「大宮セブンの新メンバーは……すゑひろがりず!」ってなった時に、客席からは「え……」って。

南條 マジでゼロ拍手、8悲鳴くらい(笑)。ほんまに「なんで入ったの?」みたいな空気はありました。僕らと入れ替わりになった元大宮セブンの人たち、サカイストさん、ブロードキャスト!!さんとかはお客さんいっぱい呼んで下さってたので、いったん本当にお客さんいなくなったんですよ。マヂラブさんですらそんなに人気じゃなかった。ほんの数人の前でライブやってました。今じゃ売り切れの満席です。

大宮は「芸人虎の穴」

――大宮という街にはどんなイメージがありましたか?

南條 関東の人にはなじみあると思うんですが、僕ら関西から出て来たので、まったく知らなかった。今では駅から目隠ししてもここたどりつけますけど。大宮って、大阪の難波とか千日前とかにちょっと似てるんですよね。ガヤガヤしていて居心地は良かったです。

「今では駅から目隠ししてもたどりつけます」。
「今では駅から目隠ししてもたどりつけます」。

――お客さんはどんな方が多いですか?

三島 ほんといろんな人が来てくれてますね。今はジェラードンの人気もあって子供も来てくれる。だいぶ客層変わりましたね。

南條 元々は、ルミネとか∞とかと比べて、あんまりお笑い興味ないというか、普段見ないような人が「あ、なんかやってるな」って来てくれてた。でも、大宮セブンがちょこちょこ注目されるようになってからは、結構お笑い好きの人が東京から来たり、全国からも来てくれるようになりましたね。

三島 すごいですよね。こんなに変わるんだっていうのが、内部にいたので特に思います。ガラガラだった劇場が今はパンパンで。ああ、これが劇場が成功していく感じなんだなあと。

南條 ここまで至るのに数年以上かかってるんで。最初は地道に地域の人に営業活動して。賞レースで出すようなネタも練習させてもらいました。年配の人が来る寄席ではウケないネタも「ここでどんどんやっていいよ〜」って言ってもらって。そういう意味合いでは、ここは「芸人虎の穴」。

――賞レースで結果を出している芸人さんが多いのも納得です。

南條 ルミネとかの大劇場で、ウケるかスベるかどっちかわからんなってネタはなかなかやりにくい。それもここだと内緒にしてもらえるという。東京には届かないから(笑)。大宮セブンの人気というのは、試して試して、という姿勢が逆に評価されたというのもあるかと思います。

M-1と芸人たちの家族感

三島 大宮セブンの人、みんな大宮のこと好きなんですよ。それもデカいんじゃないかな。大宮の街も劇場も、本当に愛してるって感じが、お客さんにも伝わってる気がします。

南條 なんでしょうね……渋谷・新宿には出せない居心地の良さっていうのは。地元感がある。帰ってきたなって感じがしますもんね。大宮駅に着いた時。

三島 ステージのパネルが2022年4月くらいに変わったんですけど、以前使っていたものの「お葬式」をしたんですよ。大宮セブンのメンバーで「パネルありがとう」って、お葬式みたいに感謝を述べる会を。
それすごい、なんかいいなあって思いました。パネルのお葬式なんて他じゃやらないので。楽屋の入り口にみんなサインしてまだ飾ってあると思います。

先日無事お役目を終えた初代パネル。人気芸人のサインを携え楽屋前で劇場を見守る。
先日無事お役目を終えた初代パネル。人気芸人のサインを携え楽屋前で劇場を見守る。

南條 僕らはここで「すゑひろがりず」に改名しましたし。ななまがりっていう同期のコンビと『地獄変』というライブをここでやっていて、今では全国ツアーをさせてもらえるくらい大きくなったんです。最初は下でお客さん呼び込んでやっと20〜30人くらい。でも、ななまがりがキングオブコント出て、僕らがM-1決勝出た直後のライブが満席なったんです。あれはめっちゃうれしかったです。

――一緒に苦労してきた仲間ですね……。

三島 僕らがM-1決勝に進んだ時、その年ラストイヤーだった囲碁将棋の文田さんに、「ぶちかませよ」って言われたのが、今でもめちゃくちゃ鮮明に覚えてますね。僕らなんてイロモンで、本気で優勝なんか目指してない、一発当てたい、目立ちたいだけって方が強い中、文田さんはずっと漫才されてて、想いも相当あったろうに「マジかませ、かませ」って言ってくれた。

――芸人さんみんなに応援されていた。

三島 家族感、がすごいあるんですよ。

「大宮の街も劇場も、みんな本当に愛してる」

――楽屋ではどんな風に過ごされているんですか?

南條 みんな合間ではどっか行ってますね。近くに『伯爵邸』という24時間やってる喫茶店があるからそこに行ったり。『伯爵邸』では昔打ち上げもしてたなぁ。あと地下2階にこのビルの関係者用の休憩スペースがあるんですが、そこでめっちゃネタ合わせしてますね。もちろん他のお店の方とかもいるので、あれどう思われてるんでしょうね(笑)。小声でコントやってる横でドンキの方とかがお弁当食べてる。

三島 8階には喫煙所があって、ラグの上でゴロンってしながら、どうでもいい話をするのが好きです。マヂラブ村上さんとGAG坂本さんと僕とコマンダンテ安田、タモンズ安部ちゃん、これが8階メンバー。

南條 劇場の1階上に古着とかも売ってるブックオフがあって、コント師は衣装とか小道具とかそこで買ってますね。日本中の女性が売った古着を、芸人が女装するときに着ている可能性があります。GAGとかななまがりがピッチピチの女性服着てたら、それは誰かが売ったやつです。お店側も意識してるのか、奇妙な服が多いんですよね。ほんま誰が買うねんていう奇抜なやつ置いてる。

――お店がだんだん芸人さんに寄せてきている可能性はありますね。

南條 ブックオフに今から行って買ってきて舞台でお披露目、みたいなライブの企画があるくらいですから。

この劇場を大宮のランドマークに!

――かつて「島流し」と呼ばれた劇場が今やこんなに人気スポットに。

三島 アメリカンドリームならぬ大宮ンドリームです。

南條 大宮セブンで番組も始まったり、全国ツアーもやりましたし、夢は叶ってますね。これからは劇場の認知度をもっと上げて、ゆくゆくは大宮のランドマークにしたいですね。

三島「大宮ンドリーム」 南條「叶えようぞ!!」。
三島「大宮ンドリーム」 南條「叶えようぞ!!」。
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すゑひろがりずのおすすめ『伯爵邸』

オーナーの宮城正和さんとすゑひろがりずの2人は以前、TV番組でも共演済み。
オーナーの宮城正和さんとすゑひろがりずの2人は以前、TV番組でも共演済み。

元祖大宮ナポリタンでおなじみ。店内は豪華絢爛でありながら庶民的という独特の雰囲気。喫茶店でありながらお酒のメニューも大充実。24時間営業も、眠らない街大宮で愛される由縁(ゆえん)。大宮芸人の癒やしスポットだ。

『伯爵邸』詳細

住所:埼玉県さいたま市大宮区宮町1-46/営業時間:24時間営業/定休日:無/アクセス:JR・私鉄大宮駅から徒歩4分

取材・文=西澤千央 撮影=三浦孝明
『散歩の達人』2022年11月号より

2014年、『大宮ラクーンよしもと劇場』とともに誕生した「大宮セブン」。M-1優勝を目指し、ここで死ぬわけにはいかないとギアを入れた野田、看板ライブと夜の営業にいそしんだ村上。チャンピオンに輝いた最狂コンビの大宮diary。