日本初のマルタ料理専門店でいただく一風変わった特製ピッツァ
JR新橋駅前SL広場(西口広場)のある日比谷口を出て徒歩1分ほど。『レストラン マルタ』は、烏森神社の裏手に立ち並ぶビルの2階に店を構える。この店が専門とするマルタ料理とはいかなるものか。今回は昼時に来店してみた。
メニューを見ると、包み焼きピッツァが2種類あり、お味は生ハムとトマト、またはゴルゴンゾーラ。このほかにベイクドライスというものも2種類ある。
「マルタ料理は素材の味を活かした素朴な料理なんですが、スパイスなどでパンチを効かせているのが特徴です。例えばトマトソースは自然の甘みが凝縮されていて、旨みがぎゅっと詰まった濃厚な味に仕上がっています」と、オーナーシェフの髙宮崇さん。そうと知ったらトマトソース入りの包み焼きピッツァが食べてみたい!
「イタリア産の小麦粉を中挽きにした生地に、ほうれん草を練り込んでいます。この生地はマルタ料理に使われているわけではないんですが、うちの店はスチーム料理をウリにしているので、蒸したほうれん草入りのピッツァ生地をつくったんです」。
続いて、生地をのばしたところにチーズをオン。このチーズにマルタっぽさがありそうな?
「マルタ共和国を成す主要な島のひとつ、ゴゾ島の特産品であるヤギのチーズは現地でよく食されているもので、ゴゾチーズと呼ばれています。このゴゾチーズとモッツアレラチーズをブレンドして、生地の中にたっぷり詰め込んでいます」と髙宮さん。ゴゾチーズは濃厚なのにクセが強くなく、チーズ特有の臭みもないので食べやすいそうだ。
髙宮さんは銀座のイタリアンレストランに務めている時、来店したマルタ観光局の職員から「マルタ料理はイタリア料理に通ずるものがあるのに、日本で出している店はない」という話を聞いた。そこでマルタ観光局のバックアップもあって現地に赴き、マルタの家庭料理を学んだという。マルタ独特の包み焼きピッツァに惹かれた髙宮さんは「日本にこの味を広めたい」と思い、独立を機にマルタ料理のレストランを開いたのだ。
“いつものピザ”では味わえない、包み焼きピッツァのパリッ&もっちり食感!
今回注文したのは、Aセットの生ハムとトマトの包み焼きピッツァ1000円。
早速、ピザカッターを生地にあてて切り込みを入れると……、パリッ、パリパリパリッと軽やかな音がして、お・い・し・そ・う!
その割れ目からWチーズにトマトソースがからんで、とろろ~んと流れ出てきた。まずは生地のパリッと感を目と耳で楽しんで、口の中でその食感を堪能。このパリッパリ感、いい感じです。生地の素朴な味わいも感じられる。
「おいしさって音にも表れるもんなんだなあ」と思いながら、フォークでチーズをのび~! おお、これぞチーズの醍醐味ですね。
次第に、ふんわりもっちり感のある生地の部分に突入。しかし最後までパリッとした歯ざわりが残っていたのにはおどろいた。このパリッと感を出すために、焼く前に生地の表面に霧吹きで水を吹きかけてからオーブンに入れ、水蒸気で生地をふくらませるそうだ。
ベースとなるお味は2種類だが、トッピングで味変できるのがうれしい。卵、アンチョビ、ミートソースなど8種類あって、どれも100円。「お好みで楽しんでいただけるように」と用意してくれた髙宮さんのサービス精神に感謝! 追加したい場合は注文する際に伝えれば、生ハム以外は生地に包んで焼いてもらえる。次回は卵を追加して、とろ~り半熟玉子といっしょに楽しみたい♪
もうひとつ、おどろかされたのがコチラのボリューム満点の彩りサラダ。ランチに付くサラダとは思えないほどのサイズ感&野菜の種類の豊富さ。髙宮さんと奥さんが毎朝、商店街で新鮮な野菜を仕入れ、蒸したり、焼いたり、揚げたりとていねいに調理して、常時12種類を盛りつけている。
自家製フレンチドレッシングとバルサミコ酢がかかっており、素材の旨みがそのまま活かされていて抜群においしい。このサラダとドリンクが付いて1000~1200円なのだから、めっちゃお得!
マルタ料理はバラエティー豊かな多国籍料理
マルタ共和国はイタリアのシチリア島の南側、北アフリカのチュニジア共和国の東側にあり、その中間あたりに位置するため、マルタ料理はイタリアとチュニジアの料理の特徴を融合させたものが多いという。
「スパイスを効かせたイタリア料理といったイメージですかね。チュニジア料理には白ゴマやジャガイモがよく使われていて、うちの店では夜にお出ししているフティーラというピッツァにポテトスライスがたっぷりのっています」と髙宮さん。
「フティーラ」はチュニジア語で、マルタ名物のひとつに数えられるドーナッツ型の伝統パン。この店の看板メニューのフティーラは、薄くのばした生地にスチームした魚介や野菜をのせて焼き上げるピッツァタイプだ。
現地に暮らす料理家からマルタの家庭料理を教えてもらった髙宮さん。その家族と食事をともにするなかで、心が豊かになる時間の過ごし方も学んだという。
「マルタには、スローフード・スローライフを重んじる文化があります。休日になると家族が集まって、4~5時間かけてみんなで食事をするんですよ。庭で育てているハーブや果物を使って料理をつくり、食べながら会話や音楽、お茶菓子なんかもいっしょに楽しむ。そんなゆるやかな時間がマルタの家庭には流れているんです」。
その影響もあってか、髙宮さんの店もゆっくり食事ができて、ゆったりできる雰囲気になっている。マルタに行ってみたいという方はもちろんのこと、意外にも「現地でマルタ料理を食べられなかった」という旅行者がこの店にやってくる。マルタの観光地には郷土料理を出す店が少ないそうで、日本に戻ってきて『レストラン マルタ』の料理を食べながら、旅先での思い出話に花を咲かせる方が多いという。
その店でしか食べられない料理はいろいろあるが、それにプラスして、また食べたくなる味と心地いい時間が流れる空間がここにはある。マルタというめずらしい国の料理だけれど、不思議と口に合う異国の”家庭”の味を生み出している店、それが『レストラン マルタ』なのだ。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=コバヤシヒロミ