錦糸町で愛される、地元の人と一緒に育てた店
『麺屋 中川會』は、ラーメン作りが趣味だった店主と女将の夫婦二人で立ち上げた店だ。1号店はもう少し住吉駅方面のところにあり、大家さんから“5年だけ”という期間限定でようやく借りられた店舗だった。
僅かな資金しかなかったため、ホームセンターでセメントを買ってきて、床を作るところから始めた。そして、テーブルや看板のみならず、蛇口の増設や排気ダクトまでも、すべて自分たちで手作りしたという。
そんな様子を眺めていた近所の人が、無事オープンした後は客として通ってくれた。また、当時まだ小さかった子供を背負って接客する女将を見かねた客が、店の外で抱っこしてあやしてくれたこともあるそうだ。
「錦糸町という土地柄なのか、気さくな人が多く、お客さんの方から色々話しかけてくれるので、最初は驚いた」と女将は話す。地元の人と持ちつ持たれつの関係で、錦糸町で愛される店へと成長していった。
スープのために開発された特製極太麺が食べ応え抜群
店の主力メニューは濃厚魚介つけ麺だ。スープは、3種のガラ・宗田節・野菜・フルーツなど様々な材料を、絶妙のバランスで配合して作っているのだが、これをなんと曳舟にある工場で、店主一人で作っているという。
以前は店舗で作っていたのだが、ドロドロしていて焦げやすいため、接客しながら作って焦がさないよう、スープを作るための自社工場を設けたそうだ。そしてスープは出来立てのうちに、店舗へ届けられる。主人の並々ならぬこだわりが詰まったスープなのだ。
スープの味は、魚介の風味を感じるのはもちろん、野菜やガラのおかげで、こっくりとした複雑な旨味も感じられ、最後まで飽きることがない。また、しっかりとした塩気があり、自然と箸が進む。
麺は浅草開化楼特製の極太麺を使用している。浅草開化楼の中でも有名な麺師の人に、魚介濃厚つけ麺のスープにぴったりの麺を特別に開発してもらったそうだ。
さすが特別に開発されただけあり、スープとの相性は最高だ。極太でもっちりとした噛み応えのある麺なのだが、スープの味を楽しむためには、このくらい太い方がちょうど良さそうだ。
まだまだ終わらない!女将オススメ「カレ変」でご飯もススム
完食しそうなタイミングで、なにやら女将がオススメするメニューがあるという。それがカレ変だ。残っているスープ椀を持って、一度厨房へ戻る女将。その後、程なくしてご飯も持って戻ってくると、スープ椀からスパイシーなカレーの香りが漂ってくる。カレー粉とガラムマサラ、そして砕きチャーシューを加えることで、さっきまでの濃厚魚介スープが、本格的なカレールゥへとアレンジされていたのだ。
一緒に運ばれた白ご飯をスープ椀へ投入し、スプーンで混ぜ合わせる。どろっとしたスープは、麺だけでなくご飯ともよく絡む。
一口いただくと、カレーのスパイスだけでなく、スープに入っている肉や野菜の旨味がより一層引き出されていて、あっと驚いた。スープの程よい塩辛さが白ご飯と一緒に食べることで和らぎ、ちょうどよい濃さになっている。すでにつけ麺を食べて満腹だったはずなのにスプーンが止まらず、カレーもぺろりと完食してしまった。
女将のホスピタリティに触れて、おなかも心もフルチャージ!!
そして、この店の魅力はメニューだけではない。“太陽のように明るい”という表現がまさにぴったりの女将・陽子さんの存在が大きい。
この店に入って気づいたのが、客がみんな帰り際に、女将にニコッと笑顔を向けて帰るのだ。すると間髪入れずに女将の「ありがとうございましたー!」という明るく通る声。ラーメン店は滞在時間も短い上に、券売機制の店の場合は特に、食べ終わるとスッと帰ってしまう客が多い印象だが『麺屋 中川會 錦糸町店』は違う。リピーター客はきっと『麺屋 中川會 錦糸町店』の味だけでなく、女将の人柄にも惹かれてやってきているのだろうと感じた。
満腹必至のメニューはもちろん、そんな太陽のような女将に会いにぜひ一度足を運んでみてはいかがだろうか。
『麺屋 中川會 錦糸町店』店舗詳細
取材・文・撮影=須田仁美