モデルはヘレン・ケラー
三鷹天命反転住宅とは、国際的に活動を続けていた美術家・建築家の荒川修作+マドリン・ギンズによる世界で最初に完成した「死なないための住宅」。
住まいは、外観の美しさや利便性だけでなく、身体の延長にある器であるべきと考え、身体のもつ可能性を体験できる住宅として作られた。
「天命反転」とは、与えられた環境・条件を当たり前と思わずにちょっと過ごしてみるだけで、今まで不可能と思われていたことが可能になるかもしれないということを意味している。その「天命反転」を実践した人として、ヘレン・ケラーが作品のモデルになっているのだ。
三鷹市のランドマーク
2005年の完成以来、世界各国から注目されると同時に、建築界にも大きな衝撃を与え、住める芸術作品として、今では三鷹市のランドマーク的存在になっている。
9戸からなる3階建ての集合住宅は、14色のカラフルな色彩が施されている。1部屋1部屋の色と形の組み合わせが違っていて、部屋のタイプも3LDKと2LDKがある。
豊富な体験プラン
入居する他に、見学会やショートステイプログラム、ワークショップやイベントなど様々な体験プランがある。私が今回利用したのはテレワークプラン。コロナ禍で外国人客が減ってしまったことにより、新たに生まれたプランである。
テレワークプランは、平日(火〜金)11:00〜17:00の6時間で11,000円(税込)、最大4名まで利用可能。本当は泊まってみたかったが、ショートステイは安くても3泊4日で7万円ほど。一方、テレワークは4人で利用すれば1人2,750円というお手頃価格なので、リーズナブルに体験できるのだ。
身体を駆使する設計
立地は三鷹駅からタクシーで10分ほど。目立つので近くになるとすぐにわかる。どの駅からも少し離れてはいるが、目の前にはバス停もあるので、アクセスにはさほど困らない。そのうえ、国立天文台や中近東文化センターなど、周りには気になるスポットも多い。
到着すると、速攻外観の可愛さに悶えてしまう。丸と四角が組み合わさったカラフルな建物は、まるでテーマパークのよう。すでに興奮気味の中、担当の方に案内され、部屋に入るとテンションはマックスに! 「これが家?」と思わずにはいられない、ポップでレトロでちょっとSFチックな空間が広がっている。
まず驚くのは床の凸凹。事前の知識で知ってはいたが、三鷹天命反転住宅は平面がほぼない。できるかぎり身体を使う設計になっている。
実際少し過ごしただけで、段差や凸凹の床に、思った以上に身体を使う。以前テレビ番組で、ここで生まれ育った子供が、通常よりもはやく土踏まずができたというエピソードを紹介していた。足の裏をフルに使って過ごしている証拠である。
遊び心満載な住空間
私が使用したのはキッチンとダイニングを中心に、丸や四角のスペースが取り囲んでいる、3LDKの部屋。住宅だけあって部屋にはキッチン、洗面所、シャワールーム、トイレ、洗濯機など一通りの設備が整っている。
テレワークでは使える設備は限られていて、キッチンやシャワーなどはショートステイのみ。しかしあらかじめ用意されているミネラルウォーターやコーヒーは使用可能なので、ケトルでお湯を沸かし、温かいコーヒーを飲みながら仕事することができた。
部屋には登り棒やハンモックなど遊べる道具がちらほら。その中でも黄色い球体の空間は、そのものがアスレチックのようで童心に戻ったようにはしゃいでしまう。しかもここ、音の反響が不思議で、自分の声が直接脳に響いてくるような感覚が味わえるのだ。
次回はショートステイで!
気づくと6時間はあっという間に過ぎていた。せっかくならこの空間を楽しみたいと、いろんな場所を物色してしまい、正直仕事になかなか集中できなかった。
全く時間が足りず、「もっとここにいたい!」と切実に感じたので、次回はお金を貯めてショートステイで訪れたい。
建築やアート好きだけでなく、ちょっと違う場所で仕事をしたい人や、日常にアクセント・息抜きを入れたい人にもおすすめ。子供連れでも大人同士でも、何通りもの楽しみ方ができるので、是非一度は「住める芸術作品」を体験してほしい。
© 2005 Estate of Madeline Gins. Reproduced with permission of the Estate of Madeline Gins.