『ホルモン道場 闇市倶楽部』で経験を積んだ店主
JR五反田駅西口を出て、すぐ右の交差点を渡り、歩くこと5分。ラーメン店や居酒屋などさまざまな飲食店が軒を連ねるマンションの1階にある。木製看板に墨字で書かれた『炭虎』の文字が目印。店内は、格子模様がデザインされた白壁に、木調の椅子やテーブルが配されたシックな雰囲気だ。
照明も控えめで、炭を配置したオブジェもスタイリッシュだが、「高級焼肉店」のような敷居の高い雰囲気はない。どこかアットホームな空気が漂っている。炭火はテーブル埋め込み型の無煙ロースター。客席は、2卓8席の個室のようなスペースを含め、全24席。店主の伊澤勝巳さんと奥様の2人で営む個人経営の店だ。さまざまな産地から、その時に最良のA4〜A5ランクの肉を仕入れている。
伊澤さんは、目黒のホルモン焼肉の名店『ホルモン道場 闇市倶楽部』で10年の経験を積んだあと独立。2008年に自宅に近い五反田で『炭虎』をオープンした。『ホルモン道場 闇市倶楽部』ば、20年ほど前、まだ東京でホルモンがブームになる前から上質なホルモンを提供して話題になった店だ。スポーツ選手や俳優など食通の著名人にも好評で、行列ができるほどの人気を博していた。
「ホルモン」といえば、モツやマルチョウなど、牛や豚の腸を思い浮かべる人は多いが、実は正肉として扱われないすべての部分を「ホルモン」と呼ぶ。つまり、牛タンや心臓のハツもホルモンなのだ。1頭からわずかな量しかとれない貴重な部位も多い。そんなホルモンから、独特の臭みを取り除き、食感も楽しめるよう仕上げるのは、品質と鮮度はもちろん丁寧な下処理が必要だ。伊澤さんは『ホルモン道場 闇市倶楽部』で上質なホルモンを仕入れるルートを得て、その下処理の技術を培った。メニューには、上ミノやコブチャンなどの牛ホルモンから、豚の胃袋(ガツ芯)、仔袋などさまざまな種類のホルモンが勢ぞろいする。
厚切りの牛タンを焼きしゃぶで味わう
中でも縦に長くスライスした牛タン焼きしゃぶ1430円が人気。牛タンといえば、横に薄くスライスされたものという概念を覆す、厚切りの牛タンだ。骨を抜き、食べやすくした骨なし豚足620円は女性におすすめ。コラーゲンたっぷりでコリコリとした食感も楽しめる。手間暇かけて下処理されたセンマイ刺しも同様。韓国の酢味噌でさっぱりといただく淡白な味わいのホルモンだ。さらに、手作りのキムチやカクテキ、チヂミなど韓国料理のメニューも充実している。中でも新鮮なワタリガニを、辛子醤油に漬け込んで熟成させたケジャン900円が特徴的。辛さの中に濃厚なカニの旨みが際立つ韓国料理ならでは逸品だ。
贅沢ランチもおすすめ
ランチは700円からあるが、人気は牛すじ煮込み定食850円。味噌味のスープに、トロトロになるまで煮込まれた牛スジ肉と豆腐、ネギが加わり、見た目ほどの辛さはない。濃厚な味なので、ご飯がすすむこと間違いなし。ご飯は岩手県で開発されたブランド米「銀河のしずく」を使用している。ご飯のお替わりは自由。これにナムル2種とキムチとサラダがつく。
ちょっと贅沢するなら和牛ロース定食1500円をすすめたい。タレで下味を付けたロース肉7枚を炭火で炙っていただく。昼から贅沢な気分が味わえるランチメニューだ。ご飯、ナムル2種、キムチ、サラダ、わかめスープがセットになる。ほかに和牛カルビ定食1500円もおすすめ。
五反田でランチの店を探している時に「焼肉は匂いがつくからちょっと」と躊躇している人にもおすすめしたい。無煙ロースターなので煙が出ない上、禁煙なので匂いを気にせず立ち寄れる。ランチで様子をうかがったら、夜にもぜひ足を運んでほしい。接待にも使える落ち着いた雰囲気の中で、ホルモンや焼肉を堪能できる。店主夫妻のもてなしも優しい。
取材・文・撮影=新井鏡子