もてはやされる遺物、朽ちていく遺物

しかし時代は進み過ぎ、自販機がいつの間にか「時代の遺物」扱いされるようになった。もちろん現在でも多くの自販機が稼働しているし、最近ではコロナ下の需要を受けて、餃子やラーメンなどお店の味を家庭でも味わえるという、新たなスタイルの冷凍自販機が急増している。そのような中で、ひっそりと役割を終える自販機もまた存在するのである。

遺物系自販機の中でも、瓶コーラやうどんそば、トーストなどの飲食系自販機は、あえてそれを集めているドライブインなどもあり、「昭和レトロ」として注目されている。一方、そうした注目すら集まらずにひっそりと朽ちていく自販機の一つ、それが「電池の自販機」ではないだろうか。

昔は電器店の店先に、必ずと言っていいほど電池の自販機が設置されていた。夜中に電池が必要になった時のことを想定してだろう。ところが、24時間いつでも電池が買えるコンビニの普及に伴い、電池自販機はあれよという間に姿を消していったのである。

もはや自販機で電池は買えないのか

自販機の前に物が置かれていて、稼働はしていなかったようだ(場所不明・2008年)
自販機の前に物が置かれていて、稼働はしていなかったようだ(場所不明・2008年)

私がその事態に気づき始めたのは2008年のことであった。たまたま通りがかった電器店の店先に電池自販機があるのを見て、「あれ、そう言えば最近、電池自販機を見かけないな……」と思ったのである。それ以降私は、電器店の前を通りかかるたびに電池自販機を探すようになった。たまに発見できたと思っても、硬貨投入口にテープが貼られていたりして、稼働品にお目にかかることができない。

80年代風カラーに彩られた自販機。ガムテープが×印に貼られていて悲しい(浜松・2018年)
80年代風カラーに彩られた自販機。ガムテープが×印に貼られていて悲しい(浜松・2018年)

「以前、ここで見かけた気がする」という記憶を頼りに、電器店に赴くこともあった。記憶をもとに訪れた野方の電器店では、確かに自販機は存在していたものの、丁寧にビニールシートが掛けられて使用できないようになっていた。

正面は完全に覆われてしまっている(野方・2020年)
正面は完全に覆われてしまっている(野方・2020年)
側面を見ると三菱の電池自販機だったようだ(野方・2020年)
側面を見ると三菱の電池自販機だったようだ(野方・2020年)

もはや自販機で電池を買うことができないのだろうか。昭和の時代には何とも思っていなかった電池自販機であるが、いざ希少種となってみると途端に寂しさが募る。

そんなある日、たまたま訪れた富士市で、電池自販機を発見した。外観も大きく損傷している様子もなければ、硬貨投入口にテープを貼られているわけでもない。

この自販機に硬貨を入れるか否か、あなたならどうしますか(富士・2022年)
この自販機に硬貨を入れるか否か、あなたならどうしますか(富士・2022年)

しかし飾られている見本の電池は、現在の東芝乾電池のデザインと違うような……。これは硬貨を入れたが最後、出てこなくなるパターンではないのだろうか、と怖気づいた私は、とうとう購入チャレンジを諦めて、その場を立ち去ってしまったのである。帰宅してから大変後悔した。

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日本全国には、まだまだ現役の電池自販機があることだろう。いつか明らかに稼働している電池自販機で電池を買うことを夢見ながら、そうした電池自販機の灯が消えずに残り続けてくれることを願っている。

絵・文・写真=オギリマサホ