蒲田温泉横の暖簾をくぐる
JRと京急のあいだ、駅から少し離れた住宅街にある出村通りは、昭和12年創業、赤い看板が目印の蒲田温泉を中心にコインランドリーや酒屋が並び、生活の匂いがする。
『くり平』にはオレンジの灯りがともり、向こう側から包丁の音や揚げ物の音が聞こえ、笑い声が聞こえる。店構えと外の雰囲気を味わうだけで、ちょっとうっとりしてしまう。通りかかる人は会社帰りで、あと一歩で自宅に着くといった様子だ。
地元愛の詰まった店内
17時半を過ぎて、ガラリと引き戸を開けると、蒲田のホームらしい世界が広がっていた。
「シクラメンっていうアーティスト知ってる?蒲田出身で、ここの常連なの。」とお母さん。大きくポスターが貼られ、その横には記念写真。彼らのみならず、壁には常連の集まりらしい写真が多く飾られ、地元への愛が溢れている。
奥の座敷では家族連れが楽しそうにから揚げを頬張っていて、子ども歓迎の和やかな雰囲気が漂う。地元の集会所のようなあたたかさだ。
外の提灯にあるようにやきとんもおすすめだが、ここは名物のから揚げはマスト。日替わりでホワイトボードに書かれる刺身や煮魚も見逃せない。
牛すじ煮で乾杯
水を使わず、ワインとビールでじっくり煮込んだ牛すじ煮はホロッとやわらかい。甘めの濃い味つけがビールのつまみにぴったり。ふんわりと炒め、シンプルに味を付けたにら玉とのコントラストも楽しく、大人の三角食べがはじまる。
から揚げは味変必須
お値段以上の山盛りでやってきたから揚げは、サクッと軽い食感。最小限ともいえる控えめの味つけで、肉汁を存分に堪能する。
女将さんの「好きに味を変えて食べてね」との言葉に従い、良きタイミングでテーブルにある酢やスイートチリソースをかけてアレンジ。自分だけのから揚げの味にニヤけながら、レモンサワーを飲み進めます。
煮もの、炒めもの、揚げもの、どれをとっても心の中でガッツポーズが出る味だ。
「東京で出会ったけど、夫婦2人とも北海道出身。結婚を期にお店をはじめて、変わらず営業しています。」と女将さん。飲みながら、お二人の馴れ初めも聞けた。大将は和食の料理人だったのだそうだ。
大将の料理とテキパキとホールを回す女将さんの2本柱で、ご夫婦で守ってきた店。笑顔でむかえる2人の姿勢に頭が下がる。
『くり平』店舗詳細
取材・文・撮影=福井 晶