ベトナム料理店の先駆けとして10年以上。キャッチーな店名には感謝と愛がたっぷり

渋谷駅から歩いて3分の、さくら坂沿いにたたずむ『ハノイのホイさん』。いまやフォーやバインミーといったベトナム料理は日本でおなじみの人気料理となっているが、同店がオープンした2011年当時は、まだまだ認知度が低かった。

そんな時期にオーナーがベトナム料理店をオープンした理由は、同店を運営する会社が行っていた別事業でベトナムの留学生と交流する機会があったことから。留学生から話を聞くうちに、経済的な苦労や働く場が少ないことなど、留学生や難民が直面する問題を知ることに。

そこで、ベトナムをはじめとする東南アジアからの留学生や難民たちの働く場を少しでも増やし、経済的な自立を支援したいと考えたオーナーがレストラン経営を決意したのだ。

写真右がホイさん。ハノイのホテルで、オーナーにホイさんから絵がプレゼントされたときの一枚だそう。
写真右がホイさん。ハノイのホテルで、オーナーにホイさんから絵がプレゼントされたときの一枚だそう。

初の試みだったレストラン運営をするにあたり、オーナーやスタッフは本格的に現地の料理を学ぶためベトナムに渡った。その際に偶然出会った一人のガイドが、店名になっているハノイ在住の「ホイさん」だった。

理想のフォーの味を見つけるために500杯以上のフォーを食べ歩き、店内のデザインを決めるため多くの店をまわるなどのハードな旅の中で、ガイドのホイさんがとても親切にしてくれたのだという。その後、店が無事完成した際に感謝と親しみを込めてホイさんの名前を店名に冠した。こうして、一度聞いたら忘れられないキャッチーな店名が誕生したのだ。

ホイさんとは店がオープンして11年経った今でも交流が続いているそう。店内にはホイさんの写真が随所に飾られていて、見ている方も温かい気持ちになってくる。

店長の稲葉文武さん。外国人スタッフとともに店を切り盛り。
店長の稲葉文武さん。外国人スタッフとともに店を切り盛り。

店長の稲葉さんは、この店のオープンと同時に飲食業に初めて携わった。知識のない現場で試行錯誤し、外国人スタッフとコミュニケーションを取りながら店を引っ張り早11年。

「当時は飲食経験も全くなかったので、まさかこんな長く店に携わらせてもらえるとは思いませんでした」と話しながら、「働いてくれているスタッフはみんな真面目で、とても助かっています」と笑う。

これまでに、ベトナムや中国、ネパール、ミャンマーなど、さまざまな国の留学生や難民を採用。外国籍スタッフにとっても、この店は働くだけではなく仲間と出会える大切な居場所になっているようだ。

ベトナムの文化が散りばめられた店内

奥行きのある店内は、カラフルで明るい雰囲気。ゆったりと並んだテーブル席のほか、キッチンが目の前にあるカウンター席や半個室のテーブル席があり、外観から見るよりも広々とした造りだ。内装はベトナムにある店舗を参考にデザインし、現地の雰囲気を再現した。

パキッと映えるグリーンの壁には、現地で撮影した写真が飾られている。
パキッと映えるグリーンの壁には、現地で撮影した写真が飾られている。
天井には、現地から取り寄せたランタンが。
天井には、現地から取り寄せたランタンが。

さらには、店内の随所にベトナムの文化を感じられる小物が散りばめられている。

例えば、天井から吊り下げられたランタン。ベトナムといえば、ホイアンのランタン祭りを思い浮かべる人も多いだろう。同店のランタンも、もちろん現地で購入したもの。さまざまな模様や形をしたランタンは、見ているだけで心が躍る。

店内を眺めていると「そこに飾られている絵は、ベトナムの方からいただいた刺繍の絵です。ベトナムには大切な人や親しい人に、絵を贈る文化があるそうですよ」と稲葉さん。

知らないベトナムの文化が垣間見えて、たちまち現地に足を運んでみたくなった。料理を待つ間、店内を彩る小物たちを見ながら、ベトナム文化に思いを馳せるひとときも楽しい。

持ち帰り用のお茶なども販売。購入した商品を入れてくれる、手作りのかごバッグも可愛らしい。
持ち帰り用のお茶なども販売。購入した商品を入れてくれる、手作りのかごバッグも可愛らしい。

牛肉のフォーとベトナムビールで異国気分の昼飲みを

フォーのスープとサイドメニューを選べるフォーセット1000円。デザートにはさっぱりとしたハス茶ゼリー付き。
フォーのスープとサイドメニューを選べるフォーセット1000円。デザートにはさっぱりとしたハス茶ゼリー付き。

同店の看板メニューはなんといっても、現地でレシピを学び研究を重ねて完成されたフォーだ。自家製のスープは、鶏ガラから12時間以上かけて出汁をとったガー(鶏)と、牛骨(テール)をじっくり煮込んで丁寧に出汁をとったボー(牛)の2種類から選べる。どちらも保存料、添加物は不使用の体にやさしいスープだ。

今回はボー(牛)のスープのフォーをセットで注文。選べるサイドメニューは、一番人気のエビの生春巻きをチョイスした。

まずはサイドメニューの生春巻きから食べてみた。かぶりつくと、まずはライスペーパーのしっとりとした食感と新鮮な野菜のシャキシャキ感が伝わり、その中にゴロゴロと刻まれた角切りチャーシューの旨みを感じられる。食べ進めると、ぷりっと歯応えのよいエビが出現。一つの中で、いろんな食感と味がバランスよくまとまっていた。

稲葉さんいわく「ベトナムでは、生春巻きは軽食やおやつのような感覚で食べられているんですよ」とのこと。日本では前菜やサラダ感覚で食べることが多いが、たしかにヘルシーながら満足感があるので、小腹を満たしたいときにサクッと食べる一品としては最適だ。そんな違いを想像しながら食べるのも面白い。

透き通るスープと大ぶりの牛肉がたまらない。パクチーはあり・なしを選べるのもうれしい心遣い。
透き通るスープと大ぶりの牛肉がたまらない。パクチーはあり・なしを選べるのもうれしい心遣い。

そしてメインのフォー。自家製のボー(牛)スープは、さっぱりとしていながらも旨味がギュッと詰まった濃いめの味付け。現地のレシピを参考にしながらも、「日本人にフォーの美味しさを伝えたい」という思いから、あえて日本人になじみやすいハッキリとした味つけにアレンジしているそうだ。また、麺はスープに合うよう米粉とタピオカ粉を使ったコシのあるものを厳選。そのおかげで、牛骨のコクと旨味が麺によく絡んでいる。

麺の上に大胆にのせられた薄切りの牛肉も口溶けがよく、噛むたびに旨味が溶け出してくるかのよう。フォー好きはもちろんだが、フォーを食べたことがない人でも惚れ込んでしまう一杯だろう。

また、定番のフォーのほかにも、季節限定で味わえるフォー(2022年夏は冷やしフォーを提供)や、フォーとは違った喉越しを楽しめる丸麺のブン、担々麺など他国の料理と組み合わせた変わり種のフォーなど、現地や他店では味わえない斬新なアレンジメニューが揃っている。定番を食べたあとは、ぜひ同店ならではのメニューも堪能してみたい。

ベトナム北部で定番のビア・ハノイのプレミアム版。
ベトナム北部で定番のビア・ハノイのプレミアム版。

さらに、次の予定に影響がなければぜひ追加で頼んでみてほしいのが、ベトナム産ビール。東南アジア1位のビールの消費量を誇るベトナムには個性的なビールがあり、同店でもその中の数種類を味わうことができる。

今回注文したハノイビールプレミアムは、すっきりとした喉越しと濃厚な味わいで、フォーとの相性も良好。ランチセットを頼めば一瓶600円が350円になるという、お得さもうれしい。

ビールのほかにも、焼酎やウォッカなど普段はなかなかお目にかかれないベトナム産のアルコールが豊富に充実している。その日の気分や、料理に合わせて選んでみるとより充実したランチタイムになるだろう。

海外旅行に行きづらい日々が続く中、渋谷で本場ベトナムの空気を感じながら、昼飲みを楽しんでみてはいかがだろうか。

住所:東京都渋谷区桜丘町17-6/営業時間:11:30~15:30LO・17:00~21:30LO/定休日:日、月(ディナータイム)/アクセス:JR・私鉄・地下鉄渋谷駅から徒歩3分

取材・文・撮影=稲垣恵美