本格的な夏が到来した。年を追うごとに最高気温は更新され、身体への負担は増すばかりだ。そんな厳しい季節に提案したいのが、おでんや蒲鉾を用いた料理だ。魚をふんだんに使用した練り製品は良質なタンパク質が豊富で料理もしやすく、体力が奪われる暑い季節にこそ味わってもらいたい食材だ。また、調理次第では涼しげな趣をまとい、季節を楽しむ心の豊かさを与えてくれる。

鈴廣が提案する「かまぼこのある暮らし」

夏のおでんと蒲鉾の楽しみ方を探るうえで参考にしたのは、神奈川県小田原市にある鈴廣かまぼこだ。慶応元年(1865年)創業の老舗でありながら、蒲鉾の新たな可能性に挑戦し続ける企業だ。

神奈川県小田原市風祭245:鈴廣かまぼこの里(鈴なり市場)
神奈川県小田原市風祭245:鈴廣かまぼこの里(鈴なり市場)

鈴廣には「かまぼこのある暮らし」というフレーズがある。これには、毎日の暮らしのなかで出会う「自然と旬」を蒲鉾と共に楽しんでもらいたいという鈴廣の思いが込められている。

蒲鉾は900年以上の歴史を持ち、四季を通して日本人に親しまれてきた。また、天然素材を用いたヘルシーで調理の手間がかからない食材であり、現代に生きる私たちの生活にもフィットする。蒲鉾を使って食卓のひと工夫を加えることで、慌ただしい日々でも心の豊かさと健康的な身体を得られるというわけだ。

「かまぼこのある暮らし」は鈴廣のWebサイトや書籍だけでなく、小田原市風祭にある鈴廣かまぼこの里の店舗や商品自体にも反映されている。

今回は、夏季に楽しめるレシピをオンラインマガジン「かまぼこのある暮らし」のなかからピックアップして、アレンジを加えるなどして楽しんでみたいと思う。

蒲鉾には夏バテ予防に有効なタンパク質が多く含まれている

暑い季節に気をつけたいのが夏バテだ。疲れがたまったり、身体がだるくなったり、食欲がわかなくなるなど、気づかないうちに体調を崩してしまう。そんな夏バテ予防に効果的なのが、タンパク質を多く含んだ蒲鉾やちくわなどの練り製品だ。

人間の身体の約20%はタンパク質でできており、筋肉や内臓、骨や血液、皮膚や髪の毛、ホルモンや酵素まで、そのほとんどをつくるうえでタンパク質が必要になる。弱った胃腸を修復したり、免疫力を高めるなど、夏バテ予防にも有効な栄養素だ。

練り製品にはタンパク質の合成に必要な必須アミノ酸とよばれる9種類のアミノ酸がバランスよく含まれており、低脂質でもある。また、消化しやすく、効率的に栄養を摂取できる。

鈴廣かまぼこの鈴廣オリジナル保冷バッグ
鈴廣かまぼこの鈴廣オリジナル保冷バッグ

切るだけでいいので、サラダや和え物などにちょい足しできる手軽さも魅力だ。栄養バランスを考慮しながら品数を調整し、柔軟に献立を組み立てられる。

生魚に比べて痛みにくいのも夏場には大きなメリットとなる。ただし、冷蔵が必要な食材なので、購入の際は保冷バッグを持っていると安心だ。

おでんは練り物のほかに複数の具材を使用するため、さまざまな栄養素を摂取することができる。たとえば、大根やこんにゃくには整腸作用がある食物繊維が多く含まれ、タンパク質などの栄養の吸収をうながしてくれる。昆布は食物繊維のほかにカリウムやカルシウムなどのミネラル分が多く含まれている。

具材の組み合わせ次第で不足しがちな栄養素を補えるが、副菜を揃えればさらによい。

冷やしおでん:涼を感じながら、バランスよく栄養を摂る

温かいおでんは最高に美味しいが、暑い時期には冷やしおでんもおすすめだ。

冷やしおでんは大田区の矢口渡にあったおでん種専門店、福新商店(閉業、大田区多摩川1-26-24)が平成9年(1997年)頃に発売して話題になったのが最初と思われる。現在は各社が工夫を凝らし、個性あふれる商品を販売している。

鈴廣の冷やしおでんは2002年に発売を開始して以来、夏の定番商品として認知されている。「さっぱり鯛だし」と「コクうま煮干し醤油」の2種類の味が楽しめ、ジュレのだし汁のつるりとした食感が心地よい。8月31日までの夏季限定販売となっている。

「さっぱり鯛だし」は鯛の上品な出汁と爽やかな柚子の香りが素晴らしく、竹林を抜ける涼風を思わせるような風情のある味わいを堪能できる。「コクうま煮干し醤油」は煮干しの旨味に深みがあり、隠し味の生姜が全体の味を引き立てている。どちらも料亭でいただくような本格的な味で、非常にクオリティが高い。

冷やしおでんはそのまま食べても美味しいが、そうめんや冷やしうどん、冷製パスタにかけても美味しい。また、冷奴にも最適だ。おでんの旨味や香りが加えられ、食がすすむことだろう。

杉並区の阿佐谷南にある蒲重蒲鉾店のおでん種を使用した冷やしおでん

 

鈴廣の冷やしおでんを参考にして、自分で調理しても面白い。だし汁に工夫を加えることで、さまざまな味を楽しめる。

鈴廣の鯛や煮干し、定番の鰹節と昆布、ほかには椎茸、アサリ、貝柱などを試してもいい。また、中華スープの素やコンソメを用いるなどアイデア次第で味は無限に広がる。

旬の野菜はぜひ加えたいところだ。栄養面だけでなく、夏という季節を存分に感じることができる。冷やしおでんの作り方は「佃忠(田端)のおでん種で冷やしおでんをつくる」の記事を参考にしていただきたい。

揚げ蒲鉾・焼き蒲鉾:火を使わず手軽に調理

夏場に火を使うと暑いので、調理が億劫になることもあるだろう。そのような場合は、揚げ蒲鉾や焼き蒲鉾をそのまま器に盛り付けるといい。

ミョウガや大葉、青ネギ、生姜やわさびなどを添えれば、彩りもよくなって食欲もかき立てられる。揚げ蒲鉾は冷やしたままでもいいが、オーブントースターなどで軽く炙ると香りが引き立ち美味しくなる。

鈴廣はたくさんの商品を揃えており、それぞれに個性がある。「ごんぼう」や「小魚さつま」のように1種類ごとに分けられているものや「あげかま」のように複数種類がセットになったものなど、好みや用途に応じて選ぶことができる。

冷やしおでんと同様に、こちらもそうめんなどにのせても美味しい。薬味は大根おろしがおすすめだ。大根おろしには3大栄養素の炭水化物、脂質、タンパク質すべての消化を助ける酵素が含まれている。

世田谷区世田谷にあるや亀やのさつま揚げで作った冷やしうどん

 

揚げ蒲鉾は東京のおでん種専門店でもたくさんの種類が揃うので、いろいろなお店を巡って試してみるといい。インゲンや枝豆、コーンやナスなど、旬の野菜が入ったものも多く取り揃えている。

百年ちくわの炊き込みご飯:だし汁の香りで食欲増進

手軽に調理したいのであれば炊き込みご飯もおすすめだ。炊飯器のスイッチを入れるだけであっという間にできあがる。枝豆など旬の食材のほか、冷蔵庫の余った食材を入れてもいい。

白米では食がすすまなくても、炊き込みご飯なら食べやすいだろう。ふんわりと香るだし汁の香りが食欲をそそり、バランスよく栄養を補給できる。レシピは鈴廣の「百年ちくわの炊き込みご飯」を参考にした。

それでも食欲がわかない場合は冷やし茶漬けにするといい。白だしなどを冷水と合わせてだし汁をつくり、炊き込みご飯に注げば完成だ。梅干しを加えると食欲増進の効果があるだけでなく、クエン酸によって疲労回復も期待できる。ただし、食べやすいからといって流しこむと消化に悪いので、よく噛んでゆっくり食べよう。

炊き込みご飯に使用する練り物はどのようなものでもかまわないが、今回はレシピに沿って鈴廣の「百年ちくわ」を使用した。

「百年ちくわ」はすり身にサバと煮干の出汁を加えたもので、焼き立ての干物の表面の味わいを再現するために開発に3年の歳月を費やした。その美味しさが評価され、日本かまぼこ協会が主催する第73回全国蒲鉾品評会で農林水産大臣賞を受賞している。普段使いに便利な2本入りと贈り物に最適な4本入りが揃う。

ちくわの丸ごと一本柚庵焼き

この「百年ちくわ」の香ばしさをさらに引き出すために、鈴廣では「百年ちくわの丸ごと一本柚庵焼き」のレシピを公開している。

実際に調理してみたところ、醤油とはちみつをオーブンで炙ることで生まれるちくわの香ばしさが素晴らしかった。すだちの香りも上品で箸とお酒がすすむ。ほかのちくわでも美味しく作れると思うので、ぜひ挑戦してみてほしい。

蒲鉾を通して夏という季節を楽しむ

夏に蒲鉾を楽しみたい理由は栄養以外にもうひとつある。それは、蒲鉾を通して季節を楽しむ心の豊かさを得られることだ。

蒲鉾などの練り物はおせち料理やおでんなど寒い季節の印象が強いが、板わさのように涼をとる食材として長い間親しまれてきた。ひんやりとした口当たりや涼しげな色合いは暑い季節にぴったりで、ビールや冷酒、白ワインなどの冷たいお酒にもよく合う。また、その味わいは繊細で慎み深く、共に供される旬の食材の魅力をつぶさに感じ取ることができる。

夏は自然の息吹がもっとも盛んな季節であるがゆえに、過ぎゆく時を名残惜しむノスタルジックな情緒が漂う。蒲鉾はそんな情緒をまとう風景によく似合う。たとえば、昭和から続く街の蕎麦屋、蝉の声がかすかに響く夕暮れの居間、山あいの静かな温泉宿などだ。とりわけ板わさやちくわきゅうりなど、シンプルな定番料理がふさわしい。これらの酒肴(しゅこう)やノスタルジーといった情緒は、歳を重ねるごとに深く味わえる。

過ぎゆく季節に思いを馳せながら、しみじみと盃を傾ける。蒲鉾は四季を通して楽しめるものだが、夏ならではの味わい方がある。

夏の王道、板わさときゅうりちくわにひと工夫を

板わさはわさびと醤油で味わってもいいが、ひと工夫加えることでその味や趣をより楽しむことができる。

たとえば、鈴廣が提案するレシピ「かまぼこの梅オクラ和え」を薬味がわりに添えてみる。梅の酸味、大葉とごまの香りが食欲をそそり、とろりとしたオクラの粘りが蒲鉾とよく合う。手軽ながら彩りもよく、夏の自然の華やかさを演出できる。

切る厚さは好みでかまわないが、鈴廣のおすすめは12mm。しなやかな歯ごたえを味わえる適度な厚さなのだという。

板付蒲鉾は手頃なものでも、少々値が張るものでもかまわない。合わせるお酒のグレードや味わう際のシチュエーションに合わせて選ぶといいだろう。鈴廣も「小田原っ子」のような量販店向けの商品のほか「古今」のような超特選蒲鉾など、さまざまな価格帯のものを揃えている。蒲鉾はワインと同じで、値段だけで優劣をつけるものではなく、楽しみ方で選ぶようにしよう。

ちくわきゅうりは非常にシンプルだが、きゅうりのみずみずしさとちくわの旨味が絶妙なハーモニーを醸し出す。マヨネーズに刻み海苔を混ぜると、豊かな磯の香りが加わるのでおすすめだ。

アボカドとかまぼこのカプレーゼ

もちろん、和食でなくても夏を豊かに感じることができる。ここでは鈴廣が15年以上おすすめしている「アボカドとかまぼこのカプレーゼ」を紹介しよう。

ぷりっとした弾力は蒲鉾の魅力のひとつだが、オイルやアボガドのような滑らかな舌触りの食材と一緒に味わうと、その弾力が際立つのだという。また、蒲鉾とオリーブオイルを組み合わせることで肌の老化防止や脂肪燃焼、抗酸化作用が期待できるそうだ。

緑と白のコントラストが鮮やかで涼感にあふれており、きりっと冷えた白ワインにもばっちり合う。切るだけの簡単調理なので、気の置けない友人やパートナーとゆっくり過ごすときに最適だ。こういうなにげないひとときも、振り返ると忘れがたい夏の思い出になっていたりする。

感謝の気持ちとともに、蒲鉾で涼味をおすそわけ

蒲鉾を贈り物にして、涼味をおすそわけするのもいいだろう。お中元はもちろん、手土産としてもいい。

鈴廣ではさまざまな夏の贈り物を揃えているが、ちょっとしたご挨拶なら「あげたい・ひょっこりセット」がおすすめだ。「金目鯛のあげたい」はほぐし身も一緒に合わせた金目鯛の揚げ蒲鉾で、「ひょっこり焼き」はすり身に豆乳を加えて瓢箪型に成形した焼き蒲鉾だ。友人や知り合いのもとに「ひょっこり」現れて、感謝のしるしとして「あげたい」。軽やかにさりげなく、日頃の気持ちを伝えられる素敵な商品だと思う。

東京の蒲鉾専門店でも贈答用の注文を受け付けているので、贔屓にしているお店に対応しているか聞いてみるといいだろう。

日本には四季があり、その節目ごとに挨拶を交わす素晴らしい文化がある。贈り物をすることで、季節を豊かに感じることができるのではないだろうか。

蒲鉾などの練り製品は栄養が豊富で、古くから四季を通して日本人に愛されてきた。酷暑が続き、夏の素晴らしさを感じる余裕がない現代にこそ、季節を楽しむ余裕が必要になっているように思う。鈴廣は蒲鉾を通して豊かな心と身体の健康を育むヒントを与えてくれているので、ぜひ参考にしていただきたい。

鈴廣かまぼこの基本情報

鈴廣かまぼこ(鈴廣蒲鉾本店)
〒250-0032 神奈川県小田原市風祭245
0120-07-4547
定休日:無休
営業時間:9:00~18:00
鈴廣かまぼこのWebサイト
鈴廣かまぼこの通販サイト
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取材・文・撮影=東京おでんだね