できたてのおでんは1年を通して人気があり、家に持ち帰るだけでなくお店のベンチでも楽しめる。おかみさんはとても明るく、彼女と世間話をするのも楽しみのひとつだ。

東京おでんだねではこれまで2回にわたって佃忠かまぼこ店(田端)を紹介している。「佃忠かまぼこ店(田端)のおでん種」と「佃忠(田端)のおでん種で冷やしおでんをつくる」という記事をご覧いただきたい。

古きよき時代の雰囲気を残した田端銀座商店街

佃忠かまぼこ店(田端)が営業する田端銀座商店街は、JR駒込駅東口から徒歩で約5分、田端駅からは12分ほどの距離にある。

昭和に入って暗渠になった谷田川の一本隣りの通りに、古きよき時代の雰囲気を残した商店がいくつも並んでいる。ひと昔に比べて店舗数は減ってしまったが、TVで頻繁に取り上げられていることもあり、北区のなかでも知名度の高い商店街となっている。

できたての食パンが並ぶパン屋さんや60年もののぬか床を使用している漬物屋さん、焼き鳥を販売する鶏肉屋さんなど、眺めているとついつい購入したくなってくる。

1年を通して人気の佃忠かまぼこ店(田端)のできたておでん

佃忠かまぼこ店(田端)は田端銀座の中央あたりにある。メディアで商店街が取り上げられるときは必ず紹介される人気店だ。

佃忠は都内に4店舗ある。初代店主が明治45年(1912年)に日本橋で創業したが、戦後に亀有へ移転。二代目のご子息の3人は亀有向島、田端でそれぞれ店を持ち、平成22年(2010年)に長男のご子息が池袋西武本店で営業を始めた。佃忠かまぼこ店(田端)は昭和33年(1958年)の創業となる。詳しくは「佃忠の系譜」という記事をご覧いただきたい。

お店から向かって左側に大きな鍋があり、店頭で調理したできたておでんを販売している。1年を通して人気が高く、暑い時期でも求めにくる常連が多い。

鍋には仕切りがないが、種類ごとにエリアが分けられている。どれにしようかと目移りしてしまうが、この迷うひとときがいちばん幸せを感じる。人気は牛すじやすき焼袋、シュウマイ(シュウマイ巻)など肉類のおでん種だ。とりわけ若いお客さんが購入していくという。

メニューは鍋の上に掲げられているが、載っていないものもあるので質問しながら選んでいこう。焼ちくわやはんぺん、玉子などの定番は60円、大根も70円と懐にやさしい価格設定だ。自慢の揚げ蒲鉾も70円から購入でき、たくさん買っても1000円以内で収まるだろう。

おでん汁は毎日新しいものに取り替えているが、1日に大量のおでん種を仕込むので複雑で深みのある味わいに仕上がる。継ぎ足しをしないのは脂分が浮いてしまうためだが、佃忠かまぼこ店(田端)では牛すじやすき焼袋を一緒に煮るので他店よりも気をつかう必要があるのだろう。

おでん汁には店頭販売しているチヨダの「おでんの味」を加えるが、昆布や鰹節などの出汁は一切使わない。おでん種から出る出汁だけで旨味を引き出している。

大根は飴色に染まり、生あげやがんもはたっぷり汁を吸っている。足りなくなったそばからおでん種を追加していくので、売り切れになることはほとんどない。タケノコなど、おでん向きの食材が手に入ったときはおでん種として加える場合があるという。

できたておでんはお店の脇にある2つのベンチで食べることもできる。田端銀座には「松の湯」(北区田端4-3-9)という銭湯があるのだが、そこで汗を流して夕涼みをしながらおでんを楽しむのもいいだろう。

おかみさんはいつも元気で明るく素敵な方だ。忙しいにもかかわらず質問にたくさん答えていただいた。ちなみに、向島店のおかみさんとは姉妹の関係なのだそうで「あっち行ったらよろしく伝えておいて」と笑っていた。

佃忠かまぼこ店(田端)の人気商品であるすき焼袋は、TVでご高齢の女性が営業するおでん料理店で作っているのを観て着想を得たそうだ。すき焼袋を販売する都内のおでん種専門店は佃忠(田端)のみだが、文京区白山にある「小田原屋」(文京区本駒込1-1-30)がお惣菜として販売している。

袋詰については山菜やうどんを詰めたりと、さまざまな具材を試すたびに好評だったが、手間がかかりすぎるためやめてしまったものが多いという。現在はすき焼袋と袋詰め(餅、うずら、白滝)の2種類を販売している。

冷蔵ショーケースには自宅調理用のおでん種が並んでいる。お店の奥が工場(こうば)なので、完成したらすぐに並べられる。こちらについては第1回2回の記事で詳しく紹介している。

肉類のおでん種が豊富な佃忠かまぼこ店(田端)のできたておでん

おかみさんと談笑しながら、11種類のできたておでんを購入した。佃忠かまぼこ店(田端)は肉類のおでん種が豊富で人気も高いそうなので、今回はそれらを中心にチョイスした。

時計回りに12時から、大根、じゃがいも、しいたけ揚げ、ロールキャベツ、牛すじ、すき焼袋、こぶ、生あげ、なんこつつくね、玉子(中央上)、とうもろこし(中央下)。からしをリクエストするとチヨダの練りからしを付けてくれる。

輪ゴムでしっかり閉じられたポリ袋からおでんを取り出し、鍋に移して弱火にかけるだけで美味しくいただける。冷めて脂分が固まっていても、温めればクリアなおでん汁に戻る。

しっかり味が染み込み、それぞれのおでん種が美しい褐色に染まっている。家で調理するものも美味しいが、お店で調理したものは深みがあってやさしい味わいが魅力だ。

おでん汁は醤油の色に染まりつつも透明感がある。購入したおでん種が旨味を出し、汁の味わいを変化させる。今回は牛すじやすき焼袋が入っていたので、肉の甘みが溶け込んでいた。

すき焼袋は油揚げのなかに甘く煮付けられた牛肉と玉ねぎが入っている。牛肉と玉ねぎのジューシーな甘みが最高で、人気商品であることを確信できる美味しさだ。

牛すじはとろりとした脂の甘みと牛肉の旨味、ぷりんとした食感が素晴らしい。串に刺した状態でも持ち帰れるので、好みのスタイルでオーダーしよう。

なんこつつくねはボリュームある鶏つくねのなかに軟骨が散りばめられていて、心地よい食感のアクセントとなっている。汁を吸ったほろほろの挽肉が口のなかで崩れつつ、鶏肉の旨味が滲み出る。

ロールキャベツは丁寧に巻いたキャベツにたっぷり汁が染み込んでいて、まろやかな味わいだ。挽肉には人参など刻んだ野菜が混ぜ込まれており、こちらもやさしい味わいとなっている。

しいたけ揚げは肉厚の椎茸に魚のすり身が詰め込まれている。噛み締めたときに椎茸のふくよかな旨味があふれ出て、すり身のほのかな塩気がやさしく受け止めてくれる。さまざまな旨味を含んだおでん汁も相まって、極上の美味しさを楽しめる。

大根は芯までじっくり火が通り、おでん汁をたっぷり吸い込んでいる。ほろりとした食感と同時に大根とおでん汁が融合した旨味が溢れ出てくる。

じゃがいもはおでん汁をたっぷり含みつつ、型崩れせずに特有のねっとりとした食感を楽しめる。満足感がありながらも飽きのこない、ちょうどよいサイズだ。

玉子は表面だけでなく断面も褐色に染まっているが、しょっぱくならずにやさしい味わいだ。黄身はぱさついておらず、クリーミーな食感となっている。

とうもろこしは非常に甘みがありつつも、おでん汁を吸い込んで深みのある味わいとなっている。大きいのでふたつに切ってシェアしてもいいだろう。

こぶは出汁としての役割をこなしながら、しっかり自身の美味しさもとどめている。歯触りは柔らかく、風味豊かな味わいを楽しめる。

最後は生あげだ。豆腐の美味しさを残しながら、鍋のなかでたっぷり汁を吸い込んでいる。表面を覆う油の香ばしい味わいも素晴らしい。

本格的な味わいながら気取らずに接してくれる佃忠かまぼこ店(田端)は、まさに街の名店と呼ぶにふさわしい素晴らしいお店だ。今後もやさしいまなざしで地元の人々を見つめながら、美味しいおでんをつくり続けてほしいと思う。

佃忠かまぼこ店(田端)の基本情報

佃忠 田端銀座店(佃忠かまぼこ店)
〒114-0014 東京都北区田端3-8-6
03-3822-0973
定休日:火
営業時間:9:00〜19:30
佃忠かまぼこ店(田端)のWebサイト(田端銀座商店街のWebサイト):http://www.tabataginza.com/?p=565

取材・文・撮影=東京おでんだね