まずは『喫茶アメリカン』で大きなサンドイッチを買う。何度かテレビや雑誌、さんたつでも見ていて一度食べてみたかったんだ。

お〜!!!実物はこんな感じかっ!!!
今日は天気がいいからテイクアウトして外で食べよう。

そしたらそうだな、日比谷公園でランチだ。

良い感じの外観。
良い感じの外観。

日比谷公園に向かう途中、通過するのは住所でいうと銀座4丁目。そう、ここは泣く子も黙る銀座。銀座のなかの銀座。
「日本で一番高い土地」でも有名な場所だ。

まぁお察しの通り、そんな話になると決まって登場するのがここ。銀座4丁目の山野楽器界隈。

山野楽器の前の歩道。
山野楽器の前の歩道。

この「日本で一番高い土地」というのは、地価公示法により公示された地価(公示地価)が日本で一番高いという意味。

そして地価公示自体は、毎年1回、例年3月の春分の日あたりに、国土交通省が公表している。公表されるのは、1月1日時点の地価で、サンプルとして採用された街(標準地と言っている・全国で2万6000地点)の1㎡あたりの価格だ。ちなみに令和4年の地価公示は3月23日に公表され、昨今のコロナ騒動はあるものの、全国平均では、全用途平均・住宅地・商業地のいずれも2年ぶりに上昇に転じた。

それでだ。日本で一番高い土地であるここ。住居表示でいうと東京都中央区銀座4−5−6。

ではみなさん、問題です。ここらへん1平方メートル、果たしていくらでしょう?

エルボーの足が24cmだから……。1平方メートルのだいたいの大きさがわかるだろうか。
エルボーの足が24cmだから……。1平方メートルのだいたいの大きさがわかるだろうか。

答え。

5300万円。この小さい四角1個分の地価が5300万円になるのだ。

地価公示って、なんのためにあるの?

なんでこんなことをやっているのかというと、地価公示法によれば「一般の土地の取引価格に対して指標を与えるため」となっている。あとは「公共の利益となる事業の用に供する土地に対する適正な補償金の額の算定等」という目的もある。

ザ・ギンザ。
ザ・ギンザ。

ちなみに「一般の土地の取引価格に対して指標を与えるため」というのはなにかというと、「売買するときの目安にしてね」という程度の意味合い。もちろん“その価格”で取引しなければならないものではない。

え、じゃあ単なる目安っすか?

……はい。

というのもですね、ありそうでなさそうなのが、不動産(特に土地っすね)の定価。

土地に定価なんてないでしょ。
これがスマホとかクルマとかの工業製品だったら、原価だのコストだのを積み上げて、利益を考えて、こんなもんかな~と定価を示すことができるけど、「もともとあった土地」だもんね。ただ定価はないんだけど、似たようなものとして、相場というのはある(収益性だのなんだの経済的は思惑はもちろん絡んでくる)。

相場なんてネットを見ればいいじゃん、と思ったあなた。

はい、ほぼ正解。

その情報が恣意的にコントロールされていなければの話だけど、いまだったらネット社会なので、みんなチャチャッと相場を把握できる。でも、この地価公示法が施行されたのは昭和44年(1969年)7月1日。当時はネットなんてものはなかった。

とくに不動産取引という局面においては、当時の人々はまったくの、やばいほどの「情報弱者」でありました。そんなこともあって、そんじゃ「国が公平な観点から、取引価格の目安を発表してあげようじゃないか」という流れになり、かれこれ50年以上おなじ仕組みでやってます。

 

もうひとつのほうの「公共の利益となる事業の用に供する土地に対する適正な補償金の額の算定等」はなにかというと、たとえば「道路を拡幅するので立ち退いてほしい」という局面になったとき「補償金はいくらか」というのが争点になる。

この補償金というのをどうやって算定するか。その算定の根拠というか、世の中の人がまぁまぁ納得する額として、国が発表している公示価格を使おうじゃないかとなるわけです。

「銀座のコーヒーはなぜ高い?」

あ、そうだ。こんなうんちく話があった。せっかく銀座でエルボーとデートしていることだし、エルボーに話してみよう。

お題は「銀座のコーヒーはなぜ高いのか」。

もちろん全国チェーンのカフェだったら、どこの街でもコーヒーの価格はおなじだけどね。「銀座はコーヒーもいい値段だ」というイメージがあるでしょ。価格だけで判断するのもなんだけど、いわゆる「高級」という類になるのかな。

地価が高いからコーヒーが高いのか? 高いコーヒーでも商売になるから、地価が高いのか?

 

もちろん後者だ。

 

この街で商売をするとどれくらいの収益を上げることができるのか。そんなふうなことを考えながら、たまには散歩するのもいいんじゃないかなー。

今日の銀座は初夏の香り。青空も気持ちいいし、おそらくたぶん、海に近い街だからか、いくらか風も心地よく感じる。あー気持ちいい。そうです。もちろんそう。もっと気持ちよくなりたい。ぐふふ。

 

そうこうしているうちに、オレたちは日比谷公園あたりの交差点。

日比谷公園の山って知ってる?

お待ちかね、外でのランチ。

絶好の場所、日比谷公園だ。

都会の中の大自然に癒やされる。
都会の中の大自然に癒やされる。
花々も綺麗だ。
花々も綺麗だ。

さっき買ったサンドイッチをエルボーが開けてくれる。

こんな天気の良い日に外でランチなんて幸せじゃないか!
こんな天気の良い日に外でランチなんて幸せじゃないか!

ランチの後、少し散歩してみる。

「日比谷公園って、山もあるんだね!!」
「えっ?どこ?」
「あれ!!」

三笠山っていう山。ビルが右手に見えてる感じがいい。景色も意外と良好だ。
三笠山っていう山。ビルが右手に見えてる感じがいい。景色も意外と良好だ。

公園造成時に池などを掘った土を盛ってできたらしい。今は形が変わっちゃったけど、昔は笠を3つ伏せたような形だったから「三笠山」って名付けられたそうだ。

気分転換のプチ登山もいいもんだ。

国指定重要文化財、法務省の赤レンガ棟

ここまで来たら法務省の『赤レンガ』も見に行こう。この赤レンガ棟、国指定重要文化財なのだ。

警備がすごい。絶対入れない雰囲気。

だが、なんと!!!

月曜から金曜は中の一部が一般開放されているようだ。赤レンガも近くで見られる。

当たり前だけど、赤レンガを触ってみたら、硬かった。そんな赤レンガを積み上げた建物。かなり重そうだ。きっとしっかりとした基礎の上に立っているんだろうなー。

オレのなかにも「しっかりと硬い“赤レンガ”」が眠っているはずだ!いつかはオレも大きい人間になってやる!
オレのなかにも「しっかりと硬い“赤レンガ”」が眠っているはずだ!いつかはオレも大きい人間になってやる!

見学できる法務史料展示室はかつて司法大臣が執務をとっていた部屋だとか。そこには昔の登記簿、民法の歴史、刑法についてなどの資料が展示してある。

エルボーはエルボーで興味津々に展示を楽しんでいる。

オレは不動産登記コーナーに一番テンションが上がった。なんてマニアックなんだ。不動産登記で興奮しているオレは宅建オタクなのか。

不動産登記の役割ってなんだろう?

いうまでもないけど、不動産を取引するにあたり、とくに「土地」ともなると、なにがいちばん大事かというと、その不動産は誰のものであるかということ。

 

つまりは「所有権」だ。

所有者は誰か?

まずはこの把握が取引の起点となる。

 

ちなみに我が国の民法では「所有権」をどのように定義しているかというと……

(所有権の内容)
第206条 所有者は、法令の制限内において、自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する。

土地の所有権で考えると、都市計画法や建築基準法などの「法令の制限内において」という前提はつくけど「自由にその所有物の使用、収益及び処分をする権利を有する」となっているでしょ。

自由だ。自由ってすばらしい。さらに、所有者は、世の中の誰に対しても、自分の所有権を主張できる。

 

もちろん、それぞれがもつ所有権は尊重されなければならないから、国といえども「はい没収」みたいなことをかんたんにしてはならない。いちおうね、憲法第29条で「私有財産は、正当な補償の下に、これを公共のために用ひることができる」とはありますが。まぁそうじゃないと、道路などの都市施設(公共施設)を建設できないしね。

 

そんな「所有権」。所有者は誰に対しても自分の所有権を主張できるんだけど、さて問題。

不動産の所有者を確認するためには、どうしたらいいでしょうか?

 

はい正解。

不動産登記ですね。

 

登記事項証明書を取り寄せれば、そこに、その不動産の権利者は誰なのかが書いてある。書いてある人が、世の中の人たちに対して、自分の権利を主張することができる。

と、ここまでは、なんとなく知っている人も多いと思います。

 

ではもう一歩、せっかくここに来ているんだから、踏み込んでみると……。

 

いつから、こういう私的な所有権が認められたのでしょうか? もともと、土地は誰のものでもなかったはずなんだけど、どういうタイミングで、ここの境界線からこっちは「オレの土地だ」みたいなことになったのでしょうか?

ちょっとこむずかしくいうと「日本の近代の土地所有」という研究対象になるんだろうけどね。興味がある人は調べてみてね。

ちなみにいま、オレがいちばん関心があるのが、これ。そんなオレの関心にどんぴしゃタイムリーな展示が「不動産登記コーナー」にあったのでテンションが上がったという次第です。

illust_8.svg

じっくり展示を楽しんでたら、結構時間があっという間に経っていた。

外は夕焼けだ。有楽町方面に向かって歩く。

「あ、この間人形町で買ったほうじ茶飲む?」
「そういえば買ってたね。飲んでみた?」
「まだ……。一緒に飲もうかと思って。」

一緒に?何を言っているんだエルボーは。水筒に入れてくるってこと?
「いや、うち来れば飲めるでしょ。」

!!!!
えっっっ!!!突然のお家訪問!!!
どーしよー!!!
お泊まりセット持ってない!!

焦っちゃ、ダメ!!!

ここら辺のエリアでオレの天守閣は一度崩壊しているのだぞっ!!!
どうするオレ!!!

よし、こうなったら……

いけ。

怯むな。

今度こそ。

オレは赤レンガを積み上げることにしたっ!!

大澤茂雄
1964年生まれ。東京・新宿生まれ。生業は宅建講師。宅建ダイナマイト合格スクールを主宰。平成元年に某大手専門学校でデビューして以来、かれこれ30年以上もこんなことをやっている。持論は「不動産なんて街があっての話だ」。街を歩くのが受験勉強だと強弁し、街角の風景を取り入れたエンタメ系講義を得意とする。相棒は「さんたつ好き」の檜木萌。待ってましたとばかり、今回の企画の原案・モデル・ロケハン・撮影などをやっている。

取材・文・撮影=大澤茂雄(宅建ダイナマイト合格スクール)