Another comedian《これもコメディアン》
Another comedian《これもコメディアン》

まさに銀色のダクトテープで適当に留められた感じがマウリツィオ・カテランのバナナの作品を思わせます。思わず《これもコメディアン》とタイトルしたくなる傑作です。

せっかく雨除けのビニールをかけたのに紫外線ですっかり褪色して文字はほとんど消えてしまいました。わずかに重なった部分に「詳しくは」という文字が読めるのですが、それ以上詳しいことはわかりません。

Censored cigarette《たばこ検閲済》
Censored cigarette《たばこ検閲済》

都心の公園の片隅にあった喫煙所の看板の文字がガムテープで隠されていました。受動喫煙防止条例によって公園の喫煙所も閉鎖されてしまったのですが、ガラスの囲いまでは撤去されることなくそのまま残されていて、その看板がとりあえず応急処置的にテープで消されているのです。

よく見ると設置者の名称だけは消されずに残されているのはこの看板の責任の所在を明らかにする行政上のルールなのかもしれませんが、それより注目したいのは文字看板の上にある喫煙所のピクトグラムにもガムテープが貼られていることです。昔の映画から喫煙シーンだけをカットする昨今の傾向にも似ている気がしました。

煙はそのままでシガレットの部分にだけテープを貼っているのは頭隠して尻隠さずといった感じです。偶然にも幅の寸法がぴったりなのもご愛嬌です。

No longer available《サービス終了》
No longer available《サービス終了》

携帯電話やスマートフォンの普及によって街角から多くの公衆電話や電話ボックスが姿を消してしまいました。NTTが設置したボックスの多くはすでに跡形もなく取り払われていますが、マンションや公共施設など建築に付随していたタイプのものは電話機が撤去されたあとも台座やボックスがそのまま残されているのをたまに見かけます。

写真もそのひとつ。1980年代風のタイル貼りの建物の一角に設えられた電話ボックスの上部のメタルプレートに刻まれたTELEPHONEの文字が銀色のテープで消されています。テープの材質が薄いので文字が透けて普通に読めてしまうあたりが何とも物悲しく「旧世代メディア遺構」と呼びたい物件です。

Twin peaks《ツイン・ピークス》
Twin peaks《ツイン・ピークス》

文字をテープで消すのではなく書くこともできます。

2000年代のJR新宿駅の改装工事期間中、駅構内のあちこちにガムテープで書かれた仮設案内表示板が設置されていたのですが、直線とアール(曲線)の際立ったユニークな文字の形がネット記事から話題を呼び、作者がプロのデザイナーではなく駅の警備員をしていた佐藤修悦さんであったことがわかると、その名をとって「修悦体フォント」と呼ばれ、書籍やグッズにもなりました。

人の手の温もりが感じられ、とにかく目立つことから修悦体のテープ看板はその後JR日暮里駅や下北沢駅でも活躍しましたが、最近はあまり見かけなくなったと思っていたところ、新宿駅東口の工事現場で久しぶりに発見しました。しかも、その下にはテープの貼り跡「テーピング絵画」型無言板までくっついています。

ふたつの三角形は何やらツイン・ピークス・タウンの標識を思わせる形ですが、かつて何かの標識が貼られていたのでしょうか。それにしても修悦体と消えた跡が同時に存在する扉とは見事な好対照です。

ちなみに扉の左右幅に収めるためにものすごい長体変形がかけられていて読みづらいのですが、これは工事関係者向けの看板なので通行人には読めなくても問題ありません。上は「鉄建・大林・フジタJV」、下は「東口ヤード」。濁点のデザイン処理があまりにも独特というか、東京の鉄道駅の工事現場といえば修悦体、という雰囲気アップに一役買っているんですね。

佐藤さんは今は警備の現場からは退かれたようですが、看板制作を仕事として継続しているご様子で、街で修悦体を見かけるのはファンのひとりとして嬉しい限りです。

Radial mystery marking《謎の放射状テープ壁画》
Radial mystery marking《謎の放射状テープ壁画》

工事現場の仮囲いに描かれた大胆なテーピング絵画に遭遇しました。

近寄って見るとグリーンの養生テープで中央から放射状に10本、水平に3本のラインが引かれています。長さから察するにテープを丸ごと1巻使ったのかもしれません。他にはないスケールの超大作です。

特に角度や水平を気にせずフリーハンドで大胆に迷いなく引いた感じがダイナミックで遠目にもなかなか良い絵なのですが、問題はこのラインが何のために書かれた印なのか、その目的がわからないことです。工事資材の盗難防止なのでしょうか?

もし工事関係などでご存知の方がいましたらぜひ編集部宛にお知らせください。

 

文・写真=楠見清