先代が焼く餃子は今も健在。昭和風情残る心地よい空間も味わい深い

三角地の薄い建物の正面に入り口が2つ。空席に近いほう、どちらからでもどうぞ。
三角地の薄い建物の正面に入り口が2つ。空席に近いほう、どちらからでもどうぞ。

朝10時半から夜9時まで、休憩をとらず通し営業の『りんりん』。昼時には行列ができるため、午後の遅い時間を狙って伺った。こぢんまりとした店内、L字のカウンター席に囲まれた厨房では、先代の川島昭治さんと娘の綾子さん、2代目の髙橋功也さんが注文のメニューを手際よく仕上げていく。ほかに3人の手慣れたパートのおばさまたちがいて、午後4時の落ち着く時間に帰っていった。

L字カウンター8席。通し営業なので、遅めの昼麺ならここだ。小腹がすいたときの一杯のラーメンに。
L字カウンター8席。通し営業なので、遅めの昼麺ならここだ。小腹がすいたときの一杯のラーメンに。
右から先代の川島昭治さん、2代目の髙橋功也さん、先代の娘・綾子さん。
右から先代の川島昭治さん、2代目の髙橋功也さん、先代の娘・綾子さん。

先代の川島さんは日本蕎麦の店で修業。その店が立ち退きになり、今の場所で中華そば店『りんりん』として独立した。

創業から一緒に店に立たれていた奥様は、6~7年前に引退。「もう40年も働けば、いいでしょ」と言われたと、餃子を焼きながら先代が笑顔で話してくれる。

先代の川島さんは、餃子コーナーから微動だにせず、注文ごとに焼き続ける。
先代の川島さんは、餃子コーナーから微動だにせず、注文ごとに焼き続ける。

ラーメンのスープやタレ、チャーシューなど具材はもちろん、餃子の皮や餡の仕込みは荒川土手の下にある工場で作り、餃子の仕上げは店で行っている。もっちりとした皮にたっぷりの餡をスタッフみんなであっという間に包んでいく。

注文の多いときは、2つの鍋をフル稼動して、先代が餃子を焼き上げる。持ち帰りも人気で、店内飲食を含めて、1日に2000個焼くという。今では2代目の髙橋さんが跡を継いでいるから焼きに徹しているが、先代は今も現役だ。

野菜肉餡の旨味にニンニクが香る人気の、餃子260円。ラーメンと一緒に注文する人がほとんど。
野菜肉餡の旨味にニンニクが香る人気の、餃子260円。ラーメンと一緒に注文する人がほとんど。

創業から変わらぬ味に親子3代ほっこり和むラーメン

ラーメン、餃子、焼きそば。長く愛されてきたその味は、今も変わらないという。2代目の髙橋さんも、「先代が作り上げたまま跡を継ぎました。何も変えずに、創業からの同じ味を守り続けてます。変わんないよね、マスター?」と、先代に声をかけながらのアットホームさに、店の雰囲気も和む。

先代をマスターと呼び慕う髙橋さんは、もともとはアルバイトでお店に入って、以来40年経つという。「高校生の時にバイクの免許を取りたくて、その資金稼ぎ。バイトで入って、そのまま居ついちゃった」。創業年数と変わらないくらいの経歴で、独立できる実力があったわけだ。

「お母さんが引退したから、じゃあ跡を継がないかって」そう先代から言われて、6~7年前に跡を継ぐことになったのだが、お2人を見ていると家族と言ってもいい間柄だ。

ラーメン390円。鶏豚だけのスープはコクと旨味にあふれ、唸りながら飲み干す旨さ。
ラーメン390円。鶏豚だけのスープはコクと旨味にあふれ、唸りながら飲み干す旨さ。

創業から変わらないという、人気のラーメン。娘の綾子さんも「やっぱりラーメンが好きですね。お酢が合うラーメンなんですよ」とラーメンがイチオシだ。そのスープは、鶏と豚が8:2くらいで出汁をとる。醤油ダレはチャーシューの煮汁。醤油メーカーも変わってないという。

唯一変わったのは、麺だ。10年から20年前の間で、仕入れ先の製麺所が引退し、焼きそばの麺だけ仕入れていた王子の玉川製麺にラーメンの麺と餃子の皮もお願いすることになったそう。常連さんの反応も、最初だけ「変わった?」と言われたそうだが、今となっては変わらぬ味だ。

王子の玉川製麺の細麺。コリコリのメンマ、旨味が染みたチャーシューとともに、するすると体になじむ。
王子の玉川製麺の細麺。コリコリのメンマ、旨味が染みたチャーシューとともに、するすると体になじむ。

店の一番人気は、ラーメンと餃子。セットで一緒の注文が次々と入っていた。手作りのやさしい味わいで、おじいちゃん、おばあちゃんが娘、息子、お孫さんを連れて、親子3代で通われる方が多いそう。

ラーメン、餃子、焼きそば。毎日食べても飽きない

訪れるのは、地元の常連さんやラーメンファンだけではない。先代がうれしそうに「ニカラグアの大使がラーメンと餃子を食べに来て(笑)」と語ってくれた。以前、BuzzFeedのオンラインニュースに取り上げられた動画を見て、ニカラグア大使が訪れたというのだ。

「おいしいおいしいといって食べるんだ。海外の方は、お世辞がうまいんだから(笑)。あとでニカラグア大使だっていうんだから、びっくり」と先代。それ以来、海外でも『りんりん』の評判は広まり、外国人観光客も頻繁に訪れるようになったそう。

ラーメンと餃子を食べにきた、ニカラグア大使のサイン色紙が中央に。著名人も数多く訪れる。
ラーメンと餃子を食べにきた、ニカラグア大使のサイン色紙が中央に。著名人も数多く訪れる。

2代目髙橋さんは『りんりん』で40年、毎日賄いを食べても飽きないそう。「飽きないね。賄いは毎日食べてる。全部量を減らして、一通り(笑)」と、ラーメン、餃子、焼きそば、カレーライスと、店の味をどれが一番ではなく、すべて好きだという。

焼きそば340円。細切り野菜に茹でた玉川製麺の焼きそば用麺、調味料を加えたウスターソースであっさり味。
焼きそば340円。細切り野菜に茹でた玉川製麺の焼きそば用麺、調味料を加えたウスターソースであっさり味。
複数の注文が入っても先代は餃子、綾子さんがラーメン、2代目が焼きそばと、ほぼ同時に提供する。
複数の注文が入っても先代は餃子、綾子さんがラーメン、2代目が焼きそばと、ほぼ同時に提供する。

高校時代から『りんりん』一筋の髙橋さん。「修業で厳しかったことも一切ない。優しいですよね。この店は、ひとえにマスターの人柄です。ほっこりしたマスターの人柄のようなラーメンをずっと作り続けたい。細く長くやってけたらいいかなと。お客さんがあふれかえっちゃうと手に負えなくなるので、あふれかえらない程度にきてもらえれば(笑)」

北千住で愛され47年。りんりんを切望してやまないファンにとってうれしい言葉だ。

住所:東京都足立区千住中居町17-14/営業時間:10:30〜21:00/定休日:水、第2・3火/アクセス:JR・私鉄・地下鉄・つくばエクスプレス北千住駅から徒歩7分

構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=大熊美智代