大人が静かにくつろげる湯処

田園地帯に立つ建物。フロントは階段を上がった2階になる。
田園地帯に立つ建物。フロントは階段を上がった2階になる。

1998年10月、地元の熱望を受けて開業。当初、来館数は最大200人程度と想定し、小ぶりで平屋の鉄筋コンクリート造の建物で営業を開始した。しかし、実際に開業すると大盛況で、祝日には700人以上の来館者があり、浴室はいつも満杯という状態になってしまった。

そこで3年後に建物を解体し、建築家・羽深隆雄氏の設計によって、1日1000人の来館者があっても対応できるスペースと和風モダンの意匠をもつ日帰り温泉施設として生まれ変わった。

最寄り駅はJR成田線下総松崎駅だが、ここからのアクセスはわかりにくく、タクシーも来ないので、隣の安食(あじき)駅からタクシーを利用するのがいい。

『成田の命泉 大和の湯』のコンセプトは、「大人が静かにくつろげる空間」。そんな思いを実現させるため、小学生未満の子どもは入館不可とし、小学生でも保護者同伴でないと入れない。また、全館禁煙で館内には喫煙コーナーもない。

田園風景の先に富士山と東京スカイツリーが浮かぶ

富士見の湯は施設内で一番大きい浴槽で、眺望もよく、春には桜の花見露天風呂となる。
富士見の湯は施設内で一番大きい浴槽で、眺望もよく、春には桜の花見露天風呂となる。

田園風景の中に立つ建物は3階建て。浴室も1~3階に配置された立体的な造りで、浴室内のフロアの移動は裸のまま階段で。浴室は建物の両端にあり、それぞれをA館、B館と呼び、奇数日、偶数日で男女が入れ替わる。入館料にタオルは含まれず、別料金(タオル小200円、バスタオル700円)となるので持参することを忘れずに。館内着のレンタルは300円。

温泉は地下1000mから湧くナトリウム-塩化物炭酸水素塩泉。毎分120ℓの湧出量があり、温泉を使用した浴槽には、加温した源泉をそのまま注いでいる。浴槽からあふれた源泉はかけ流しにする源泉加温かけ流しだ。黒褐色の湯はトロッとした湯触りがあり、肌がしっとりしてよく暖まる。

A館の浴室は2~3階にあり、温泉は2階の内湯「黒染の湯」と屋根付き露天風呂「富士見の湯」で楽しめる。内湯には井戸水を沸かしたジェットバスの「山吹の湯」も併設するので、このフロアだけでも趣の異なる浴槽の湯巡りができる。

規模は小さいが、A館・B館それぞれにフィンランド式サウナを備える。
規模は小さいが、A館・B館それぞれにフィンランド式サウナを備える。

3階の展望サウナは熱気浴のタイプで、湿度が低く、室内が乾燥しているため肌への刺激が少なく、気持ちよく発汗できる。サウナを出てすぐに水風呂があるので、ここはサウナ好き専用フロアといえる。展望という名があるように屋外にはのどかな田園風景が広がり、印旛沼の水面も光って見える。天気が良い日には東京スカイツリーや富士山も遠望できる絶景風呂だ。

源泉浴槽と珍しいラディアントバス

「枳の湯」からは大きく開いた窓の向こうに広大な田園風景が広がり、ゆったりした気分になれる。
「枳の湯」からは大きく開いた窓の向こうに広大な田園風景が広がり、ゆったりした気分になれる。

B館の浴室は1~3階に分かれている。2階のロッカールームから続く「天真の湯」には3~4人が入れる円形の露天ヒノキ風呂と、浴槽底面から気泡が出る露天ジャグジーバスの2種類の露天風呂がある。いずれも井戸水の沸かし湯だが、ヒノキの香りが心地よく、ジャグジーの柔らかな水流と気泡も心地よい。

1階に下りると源泉浴槽の「枳の湯(からたちのゆ)」がある。多くの風呂はリニューアル時に新設されたものだが、この風呂は先代の大和の湯から引き継いだもの。館内の内湯では一番大きな浴槽で、常に湧き出たばかりの温泉を満々と湛えている。隣接する露天エリアには岩風呂や3つの樽風呂があり、このエリアは浴槽の種類が多いことから行き来をしながら入浴を楽しむ人も多い。

タイルのベッドに横になるラディアントバスは、じんわりと体が温まり、リラックスできる。
タイルのベッドに横になるラディアントバスは、じんわりと体が温まり、リラックスできる。

3階にある「ラディアントバス」は、タイル張りの寝椅子をはじめ、壁や床の中に通したパイプに温水を循環させ、室温を体温より1~1.5度だけ高くした低温サウナ。体に無理なくじっくりと温め、芯からほぐしてくれる。同じフロアにフィンランド式サウナも併設するので2種のサウナを楽しめる。ほかに井戸水を沸かしたジェットバスの「橘の湯」と水風呂があり、サウナ好きに人気のフロアになっている。

3室ある個室付き貸切展望露天風呂(要予約)も自慢の一つ。旅館を思わせるような落ち着きのある和室を備えた空間で、眺望を楽しみながらのんびと黒褐色の温泉を堪能できる。コロナ禍ということもあり、ほかの客に気を遣わなくて済むため、利用者が増えているという。個室1時間の利用で1~2名なら2800円~、3~4名なら4000円~。

代表の髙根英樹さんは、「心からのくつろぎと気品を大切にした貸切展望露天風呂は、里山の自然と露天風呂の風趣を存分に味わえる大人の隠れ家です。週末や休日は満室のことも多いので、早めの予約をおすすめします」と話す。成田市郊外の穴場ともいえる場所にある大人の隠れ家。訪ねてみる価値はありそうだ。

個室付き貸切展望露天風呂は、夫婦やグループでプライベートな湯浴みを楽しめる。
個室付き貸切展望露天風呂は、夫婦やグループでプライベートな湯浴みを楽しめる。

温泉と観光を楽しむ小旅行気分で出かけてみよう

湯上りは特注の家具を置いた休憩スペースへ。ホテルのようなおしゃれな空間で、寝転がることはできないが、座り心地のよい椅子でまったりとくつろげる。ちょっと残念なのが食事処を休業していること。料理の評判も良かったので、再開が待ち遠しい。

1階には各種エステメニューをそろえる「YayoiSPA(ヤヨイスパ)」、先端のマシンを導入したフィットネスジム、高級感ある長さ9mの石造りの屋内プールがあり、温泉入浴と組み合わせて利用する人も多いという。ボディセラピー30分3200円~、ジム1000円、ジム&屋内プール2000円。

都心を起点にした場合、少し遠い気もするが、浴槽やロビーから眺める広大な田園風景や富士山の眺めは、わざわざ出かけるだけの価値がある。『成田の命泉 大和の湯』から車で10~15分のところには関東三大不動に名を連ねる成田山新勝寺や、考古遺物や武家・商家・農家などを展示する千葉県房総のむらといった人気観光スポットがあるので、これら組み合わせて小旅行気分で楽しむのがおすすめだ。

住所:千葉県成田市大竹1630/営業時間:10:00~22:00/定休日:無/アクセス:JR成田線下総松崎駅から徒歩20分、またはJR成田線安食駅から車10分

取材・文=塙 広明 写真=成田の命泉 大和の湯