純烈リーダー・酒井一圭に聞く、思い出のスーパー銭湯～館内着で育んだ“純子”と”烈男”とのメモリアル～

僕、33歳の時、撮影中に足を大怪我して入院したんです。「今まで通り歩けるかわからない」と言われ、もしかしたら車椅子か松葉杖。それで何の仕事ができるやろ？　と。そしたらなぜか毎晩、夢にスモークの中で歌う前川清さんが出てくる。特にファンじゃないのに。僕、ハッとして。前川さんは直立不動だ。歩かんでも素晴らしい歌を届けてる。そして前川さんの後ろには、わわわわ〜ん♪ て歌ってるコーラスのおじさんがいる。美男子じゃなくてもできそうだ。これや！　歌のうまい白川裕二郎を中心にクールファイブやろう！ って。

そう。おいしいごはんが食べられて、風呂も入り放題。「この仕事は絶対とるぞ」って思ってました。もともと僕はスーパー銭湯がめっちゃ好きなんです。ちっちゃい頃、公団住宅で育ったんで、体のデカいおやじと広い湯船を求めて銭湯に行って、泳いでるような子供でした。だから、この仕事は、大好きなお風呂から呼ばれたんやなあと思ってます。

あった、あった。最初の頃は、風呂上がりのおばちゃんが、ごはんを食べるついでに見てるだけっていう。でもそんな時こそ、顔を覚えとくんです。その人がまた来てくれたらしめたもの。そのうち、友達や家族連れて来てくれるから。

うん、覚えちゃう。大阪のスーパー銭湯のお客さんが、東京まで来てくれると、「あ、大阪のお客さん来てる！」ってステージで必ず言うんです。すると支配人は、純烈は全国からお客さん呼んでくれるグループだって思うでしょ。さらに、お客さんに「お願い。いっぱい食べて1円でも多く使って。そしたら僕らまたここに呼んでもらえるから〜」って（笑）。

ファンと歌手というより、“お客さん同士”に近いかも。スーパー銭湯に着いたら、僕らはまず館内着に着替えて風呂入るんです。お客さんと湯船で、「こないだ上沼恵美子さんに会うてん！　恐ろしかったけど、優しい人やったで〜」みたいな世間話をする。そのうち「今日はあの曲やってほしいなあ」「歌う予定なかったけど、ええわ、やるわ」とかって。
リハで、「風呂場で曲のリクエストされてんけど、白川歌える？」「えええ！」みたいな。

20年前、戦隊ヒーローやってたでしょ。「後楽園ゆうえんち」で子供たちと握手してた、あれと同じなんです。僕らは歌がめっちゃうまいわけじゃない、踊りも大したことない、顔もそこそこ。それでも応援してくれてほんますんません、ありがとうってめっちゃ思ってる。
スーパー銭湯の良さは、客席を回って握手できること。
僕ら全員、背が大きいから「でかいなあ！」ってお相撲さんとかプロレスラーみたいにみんな触ってくる。昔は楽屋で「おばちゃんにお尻、触られた」ってヘコんでるやつもいたけど、「あの“純子”さんは80歳やで？　大丈夫、下心ゼロ。思い出作って帰ってもらおう」と。

レコ大でトロフィーもらった時も、大広間で「みんなで回して」って。受け取ったのは俺らやけど、みんなで取ったぞって。それが「純烈」なんです。

すでに亡くなった純子・烈男を含めて、いっぱいいます。前髪の長いおじいちゃんがいて、僕らが「鬼太郎」って呼んでたら、鬼太郎のちゃんちゃんこを作ってきて、毎回、椅子の上で踊ってた鬼太郎おじいちゃん。
あと携帯に北島三郎さんのストラップつけてるおばちゃん。「さぶちゃんのファン違うの？」って聞いたら「三郎やめて、今純烈」って。彼女は、あらゆる店舗に来てくれてて、客席でバンバン踊る。僕が子供連れて行くと、僕がステージで歌ってる間に、そのおばちゃんとうちのチビが一緒に踊ってるんです。

あ、でもうちの奥さんは嵐ファンからの今BTSファンなので、純烈には来ません（笑）。

20年前に戦隊ものを一緒に作った人との縁が今もあって、またいつか仕事したいと思ってたんです。そしたらコロナが始まりライブが厳しくなった。
今や、映画やろう！　と。僕の神様である前川清さんや、ラスボスの小林幸子さんも出てくれて、ライダー未経験の後上翔太にも、めでたく“変身ポーズ”ができました。

小田井はアイデアマンで、最悪な時でもいろんな方向から物事を考えられる人。白川はほっといてもセクシーであるために体鍛えたり、趣味の釣りやDIYで忙しい人。最年少の後上は強運の持ち主で主人公キャラ。もっとも芸能界向き。
基本的にみんな優しくて、すごく真面目です。

半年に一回はやりたい。僕ら、お風呂屋さんで歌ってるから、紅白でも異彩を放てると思うんです。健康センターって、蛍光灯の下で歌って踊るから、何もかも丸見えなんです。オモロなかったらお客さんは笑わないし、手を抜けば全部バレる。丸見えの肉弾戦で戦う人間力を高めるには、お風呂屋さんのステージが一番過酷やから。

「夢は紅白、親孝行」と言ってきたけど、夢ってなかなか叶わない。スーパー銭湯から紅白なんて出れるわけないって多くの人が思ってた。だから、最初の紅白出場が決まった時は、みんな泣いたよね。でも泣けるってことは、そんだけ頑張ってきた証し。泣くのを我慢できるやつは大したことないと僕は思う。

泣くかもしれん。おじさん4人、どんどん涙もろなって、何やってんねん！（笑）。