予算1000円!旅とは

我が家の電子レンジが壊れたことにはじまる。旅行に行けるその日まで残そうと決めていたお金が最新家電になってしまった。そのショックと出かけられないストレスが沼の化身になって現れて、私を飲み込む。節約と旅を両立できる場所を求めて、行き着いた先がアンテナショップだった。

ここでアンテナショップを巡る1000円旅、略して「せんたび」のルールを説明したい。

・予算1000円
・予算内ならなにを買ってもOK
・オーバーしたら、自腹

1000円ポッキリでご当地を堪能する品を買う。これだけだ。

銀座の一等地に長野県がギュギュッと詰まった『銀座 NAGANO』

迎えてくれた広報の斉藤さんに店内をご案内いただく。『銀座 NAGANO』は3フロアあり、1階は物販とバルカウンター、2階はイベントスペースと観光案内所、伝統工芸品の販売スペース、5階に移住者向けの相談カウンターがある。バルカウンターをコの字に囲んで所狭しと特産品が並べられ、入り口すぐの生鮮コーナーはキノコや野菜がギュギュッとひしめいている。

入口から入って、左側にはりんご、右側には牛乳パンがあった。
入口から入って、左側にはりんご、右側には牛乳パンがあった。

斉藤さん:「りんごは青森県に次ぐ名産地。県独自の品種もあり、最近は果肉まで赤い品種も人気です。後ほどご紹介しますが、りんごを発酵させて作るシードルもたくさん揃えています」

すでに心はシードルに向かっているが、ここはグッとこらえて牛乳パンの話も聞いてみる。

斉藤さん:「長野県は発祥の地であり、牛乳パンは県民のソウルフードのひとつです。ローカルのパンメーカーから曜日がわりで入荷して、飛ぶように売れます。中には、生産が追いつかず、お取り扱いできなくなるほど人気のメーカーさんもあります。」

斉藤さん:「いくつか種類を食べ比べてみるのも楽しいですよ。それぞれメーカーにこだわりがあって味わいも違います。朝の開店を待っているお客様がいらっしゃることもあるんです。今日も残り少なくって、すみません」

謝らないでくれたまえ。わかるよ。牛乳パンって美味しい。食べ盛りの学生サイズのどデカさなのに、ふわふわでやさしい甘さだから、うっかり完食してしまうのだ。それにしても、そんなに人気とは……。と、後から調べてみたら某知らない世界にも取り上げられていた。

信州味噌もお馴染み。
信州味噌もお馴染み。
バリエーション豊富な野沢菜は食べ比べてみたくなる。
バリエーション豊富な野沢菜は食べ比べてみたくなる。

斉藤さん:「味噌や漬物など、発酵食品もたくさんあります。野沢菜漬けも長野の食卓には欠かせません。浅漬けから古漬けまで、多様な好みに合わせて揃えています。私はそのままはもちろん、刻んで炒めてチャーハンやパスタに入れるのも好きです」

山形でもそうだったが、寒い地方では暖かい時期にたくさん採れた青菜を漬物にして、大事に保存しておくのだ。赤カブの葉を乳酸発酵させた“すんき”もそのひとつ。これをスープにしたり、炒めたり、いろんな調理法で食べる家庭料理の話を聞くと、長野の暮らしを少し知れた気がして楽しい。

野沢菜の近くの冷蔵コーナーには、お待ちかねのシードルが!
野沢菜の近くの冷蔵コーナーには、お待ちかねのシードルが!

「お酒がお好きとお聞きしました!当店ではシードルの品揃えが豊富で、毎年春にはシードルを約70種類集めた、シードル祭りをひらいています。東京ではなかなか出合えない銘柄もあるんです。」

クラフトビールよりも多く揃えており、冷蔵庫2段にわたるシードルの行列。アンテナショップの中では一番シードルを扱っているのではないだろうか。少しお値段が張るが、これは無視できない。1000円セットの壁を感じながら悩んでいると、日本酒のコーナーへ案内された。

斉藤さん:「長野県は新潟県に次いで日本酒の酒蔵が多い県です。多すぎて仕入れる商品も厳選しています。日本酒に限らず当店で扱う商品は、県の農産物や畜産物を専門としたスタッフが情報を集めて、私たちと共に交渉して仕入れています。そのおかげで、県内でも手に入りにくいものもたくさん揃えられるんですよ」

缶詰のほか、冷凍品やレトルトもある。
缶詰のほか、冷凍品やレトルトもある。

斉藤さん:「イノシシやシカなどのジビエも特産品のひとつ。ラム肉もよく食べます。信州新町というところにある国道沿いには、ジンギスカン街道と呼ばれる通りもあって、北海道のジンギスカンとはまた違った味わいが楽しめます」

まず長野県でもジンギスカン文化があることを知らなかった。さらに話を聞くと、ジビエの食べ方やジンギスカンの作り方も地方によって違うのだそうだ。長野県、知らないことだらけすぎないか。

苦手な方もいると思って、あえて缶詰の写真にしたぞ。
苦手な方もいると思って、あえて缶詰の写真にしたぞ。

斉藤さん:「虫も食べます」

イナゴ、蜂の子をよく食べる。私に気を使ってくださったのか、さらりと案内してくれた。

ワインも日本酒もシードルも飲める試飲カウンター

く〜、幸せ!
く〜、幸せ!

お会計してリュックをパンパンにしたら、バルカウンターで一休み。店内を案内されている間、終わったらここで飲もうと思っていたのだ。なにせ、米どころであり、りんごやぶどうなどの果物がたっぷり取れる長野県は、日本酒もワインもシードルも美味しいお酒天国。ソムリエの資格を持ったスタッフさんもいて、長野のお酒を存分に堪能できるのだ。

日本酒の飲み比べセットをちびちびしていたら、バルカウンターに立っていたスタッフさんから、「この時期はお客様がお正月用にお酒をたっぷり買い込んで、配送するんです」とにっこり。危うく日本酒を買い足しそうになってしまった。

 

今回、悩みに悩んで購入した品はこちら!

私の長野県1000円セット

・(株)竹内農産 野沢菜 生ふりかけ 199円
・サノバスミス U.N.I.T.Y. 861円

しめて、1060円!今回は 少なめの2点。
なぜなら、このシードルがどうしても飲みたかったから。

野沢菜ふりかけは、野沢菜漬けよりも少し日持ちが長くて、手軽に使える。レジを担当してくれたスタッフさんの教えに従って、ソーセージとパスタにしてみた。塩気も程よくいいつまみ。りんごの美味しさを凝縮したシードルを合わせれば、優雅なランチ酒セットの完成だ。りんご農家が作るシードルは、複雑な香りとうまみがあり、野沢菜パスタの和風の味わいとも不思議とマッチする。

余談だが、残った野沢菜ふりかけは、茹でた里芋と和えたら、こちらも良き酒の友だった。

1000円オーバー!はみ出し購入品

今回、1000円セット以外に買ってしまったものは3つ。

・麦ダンス農園の大豆がテンペになりました。
・くるみやまびこ
・八幡屋礒五郎のガラムマサラ七味

くるみのお菓子はわかる。ガラムマサラ七味も、なんとなくわかる。
大豆がテンペになりました。ってなに??

大豆がテンペになりました。ってなんなん?
大豆がテンペになりました。ってなんなん?

レジを担当してくれたスタッフさんに聞くと、「最初は、ぜひフライパンで焼いてそのまま食べてみてください」とのことだった。

調べてみると、テンペはインドネシア発祥の発酵食品で、伝統的な作り方だと茹でた大豆をバナナの葉で包んで、葉についたテンペ菌で発酵させたものらしい。インドの納豆や東洋のチーズとも言われているそうな。

焼いてみた。
焼いてみた。

納豆やチーズのような強い匂いはなく、プロセスチーズのような食感。大豆を濃くしたような旨味があり、ちょっと塩をふればこのまま食べ進められそうだ。もっとクセのある味を想像していたけど、日本の発酵食品と言われても納得しそうなくらい、豆腐や味噌に似た馴染みのある味わいだった。

県の特産というわけではないらしいが、新しい食べものに出会えて、大興奮であった。ありがとう、長野県。

2つ目は、八幡屋礒五郎の七味のガラムマサラ風味。パッケージが可愛くてついつい買ってしまった。これが、めちゃくちゃよかった。いわゆるカレーパウダーとは違い、唐辛子でありながら、本格的なスパイスの香りと味わいがする。鶏の軟骨炒めやポテトにひとふりするだけで、味変でき、いいアクセントになってくれるのだ。

店頭では、八幡屋礒五郎定番の七味のほか、飛び抜けた辛さをもつ唐辛子品種のバードアイをしようした一味唐辛子も扱っている。このサイズ、辛いもの好きなら、持って歩いてしまいそうだ。

3つ目は、くるみやまびこ。信州八ヶ岳山麓でとれた牛乳を使用したくるみのキャラメルをクッキーで包んだお菓子で、「メディアに紹介せずとも売り切れになる人気」と斉藤さんが言っていただけあり、王道のうまさであった。次回は個包装で2個だけなんてケチなこと言わずに、箱買いしようかなぁ。

長野県も居心地が良い県なのだ

冒頭、居心地がよくてお店に3時間も居座ったと書いた。実は今回、物販やバルカウンターだけでなく、観光案内スペースにもお邪魔したのだ。バルカウンターでスタッフさんと話していて、長野県の出張を予定していると伝えると、2階の観光案内スペースを勧めてもらった。

色々お話しした結果、ローカルスーパーのツルヤを教えていただき、現地へ行ってみて大興奮。そこは食いしん坊のワンダーランドであった。アンテナショップ同様、長野県も私にとって居心地のいい県だったのだ。そういえば、斉藤さんも「長野県は16年連続で移住したい都道府県No. 1なんです」って言ってたっけ。

住所:東京都中央区銀座5-6-5 NOCOビル 1F・2F・5F/営業時間:10:30~19:00(1・2階)/定休日:無/アクセス:JR山手線・京浜東北線有楽町駅から徒歩7分、地下鉄銀座駅から徒歩1分

取材・文・撮影=福井 晶