三省堂書店が神保町に開業したのは明治14年(1881)。江戸時代、武家屋敷街だった神保町に、 東京大学をはじめ、 官立・私立の大学が創設され、学生街として生まれ変わろうとしていた時期だ。以来、新刊書店や古書店、出版社が集まる「本の街」のランドマークとして街に溶けこみ親しまれ、今に至る。
2021年春、創業140周年を迎えて三省堂書店各店舗では記念フェアが開催された。神保町本店では、書店スタッフだけでなく、クラブ三省堂(ポイントカード)会員、出版社がそれぞれおすすめの一冊を選び、コメントとともに並べた。約400冊、すべての本にPOPが付けられた売り場は、この街そのものともいえるだろう。「本をつくる側、読む側、売る側と、本に携わるさまざまな立場から選んだ本が一堂に会しました。POPに使った紙は、神保町の紙問屋『竹尾』さんで買ってきて、各店舗統一でつくったんです」(鈴木さん)。
神保町本店で売っているのは、新刊だけではない。2階には「神保町アウトレット」という自由価格本(バーゲンブック)のコーナー、4階には複数の古書店が出店する「三省堂古書館」がある。古本を置いているのは全国各地の古書店で、2011年からあるコーナーだ。
「新刊書店として、神保町でいちばん大きな店なので、本の最先端を追いつつ、名著といわれるロングセラーもしっかり揃えていかないといけない。品揃えもサービスもいちばんの店に、という心構えでやっています」(田中さん)。
本好きが集まる街だからこそ、 新刊 ・古書といった垣根を越えて補い合い、各々の専門性とスキルを発揮する。買う側からすると、本だけでなく、店を選ぶ楽しみもある。「神保町には複数の新刊書店と数多くの古書店が存在しています。探している本がどこかに必ずあるのが神保町という街。まずはこの街に来ていただければうれしく思います」(田中さん)。
神保町のランドマークが新しくなる日
神保町は本の街といえども、カレーやラーメン、喫茶店などの飲食店、楽器店、スポーツ用品店などが軒を連ね、都内のみならず全国からそれぞれの目的で人が集まってくる。じっくり回ると、とても一日では足りないくらい刺激的な街だ。一方で、ここ十数年の街の変化は激しい。「いちばん印象に残っているのは、まず明治大学が新しい校舎になったこと(リバティタワー/1998年竣工)。その後、老舗のお店がなくなっていきました。『キッチン南海』や『伊峡』が移転して残っているのは稀有(けう)な例です。さまざまな事情があるでしょうが、店主の高齢化や建物の老朽化など、複合的な理由なんだろうと思います」(鈴木さん)。
三省堂書店神保町本店は、ビルの建て替えが決定している。2025〜26年を目処(めど)に新しい社屋が竣工予定だ。街は新陳代謝を繰り返して歴史を重ねていく。新しい神保町本店ビルは街の風景をどのように変えるだろう。
三省堂書店140周年記念グッズ発売中!
トートバッグ1650円と、ブックカバー(文庫・新書用990円、フリーサイズ1100円)があり、ブックデザイナーの有山達也さんと、祖父江慎さんがそれぞれデザインを手がけている。
有山 達也(デザイン 有山 達也+山本 祐衣、イラスト 牧野 伊三夫)
『三省堂書店 神保町本店』店舗詳細
取材・文=屋敷直子
『散歩の達人』2021年11月号より