スタート地点の京島駅からどこへ行くかは自分次第

街なか芸術祭や街歩きと聞くと、おすすめルート・コースに頼りたくなるのだが、この芸術祭には決められたコースがない。受付のある元米屋、通称「京島駅」をスタートしたら、テーマプロジェクトを中心に作品を見て巡るもよし、2〜3日に分けてひとつひとつの作品をじっくり鑑賞するのもよし、地図にも頼らずふらふらと時間を過ごすのもよし。街全体が体験エリアだからこその楽しみ方ができる。

スタート地点となる京島駅の壁面は、村尾かずこさんによる作品。5月頃から制作に取り掛かり、街の人たち共に作り上げたのだとか。壁面の裏側にも仕掛けがあるので、ぜひ建物の2階に上がり見て欲しい。
スタート地点となる京島駅の壁面は、村尾かずこさんによる作品。5月頃から制作に取り掛かり、街の人たち共に作り上げたのだとか。壁面の裏側にも仕掛けがあるので、ぜひ建物の2階に上がり見て欲しい。
京島駅の2階の屋根裏には、さわひらきさんの作品『舟遊び』。隠れ家へと続くハシゴを登った先には、懐かしさとちょっぴりの切なさを感じる空間が待っている。
京島駅の2階の屋根裏には、さわひらきさんの作品『舟遊び』。隠れ家へと続くハシゴを登った先には、懐かしさとちょっぴりの切なさを感じる空間が待っている。
街の中に隠れる『Golden neighbors(金色ネズミ)』。陶器で作られた金色に輝くネズミさんは全部で20匹。彼らを探すだけでも1日が終わってしまいそう。
街の中に隠れる『Golden neighbors(金色ネズミ)』。陶器で作られた金色に輝くネズミさんは全部で20匹。彼らを探すだけでも1日が終わってしまいそう。

東京というより“江戸”な街、向島

2021年のテーマは「隣人と粋でいなせな日」。このテーマは長屋文化が多く残るこの向島エリアだからこそ生まれた、江戸っ子気質な部分をインスピレーションに、芸術監督であるヒロセガイさんが設定したそう。

長屋文化をただ保存・展示するだけではない、観光地のようなフォトスポットがあるわけでもない、日常の街の匂い、景色、温度、人とのふれあいなど、自分の住む街とは異なる“粋でいなせな街”を体感できる。

なんでもない路地も“粋でいなせな”雰囲気に感じさせてくれるから不思議!
なんでもない路地も“粋でいなせな”雰囲気に感じさせてくれるから不思議!

「映画作家としてこの街と関わったことをきっかけに、この街に残る古い建物や長屋を改修し活用する活動を始めました。昨今の向島では開発が進み、昔からの建物が壊され近代的な建物へ変わるまさに転換期。そんな街を味わいながら、アートに触れ、この街の関係住人になってもらえれば嬉しいです」(実行委員長・後藤大輝さん)

「昨年は参加アーティストのひとりでした。今年は運営側として、僕の家族といってもいいアーティスト仲間と共に、粋でいなせなこの向島でお祭りを楽しみたい! そんな思いで制作してきました。このEXPOが10年続くような、今後もこの街、アーティストたちと発信していきたいですね」(芸術監督・ヒロセガイさん)

この街で愛され続けている銭湯・電気湯(土曜休、別途入館料が必要)にもタノタイガさんの作品『imprinting(すりこみ)』が展示中。肌の色に塗られた120枚ものキャンバスと、裸になった自分と一緒に湯につかる人々を眺めていると、頭の中にある「はだいろ」が再構築されるはず。
この街で愛され続けている銭湯・電気湯(土曜休、別途入館料が必要)にもタノタイガさんの作品『imprinting(すりこみ)』が展示中。肌の色に塗られた120枚ものキャンバスと、裸になった自分と一緒に湯につかる人々を眺めていると、頭の中にある「はだいろ」が再構築されるはず。
商店街の中に現れる東京スカイツリー。しかし手前の建物……何かがおかしい? 何がおかしいのかは、行ってみて、体験してみてのお楽しみ。
商店街の中に現れる東京スカイツリー。しかし手前の建物……何かがおかしい? 何がおかしいのかは、行ってみて、体験してみてのお楽しみ。

訪れるほどに好きになる

『すみだ向島EXPO 2021』の期間中は、参加アーティストたちによる作品だけでなく、「隣人プロジェクト」「隣人プラットホーム」「軒下プロジェクト」などたくさんのイベントが同時開催されている。しかし、何か特別な展示方法がされているわけではない。いつものように商店街は賑やかで、銭湯にも常連客がやってくるし、すれ違う人々はいつもと変わらぬ日常生活を送っているのだ。

 

▼「テーマプロジェクト」参加アーティスト

さわひらき/SIDE CORE/タノタイガ/居間 theater/市川平/飯川雄大/北野謙/クサムラマッドラット/田原唯之/増山士郎/村尾かずこ

三角の屋根が可愛い、4軒がつながった三角長屋。開催期間中18時からは、この三角長屋の2階の窓辺からヴァイオリンの生演奏が響くのだとか!(雨天中止,臨時休あり) 夕刻に素敵な生演奏を聞いたら「帰りたくない〜」と後ろ髪を引かれそう……。
三角の屋根が可愛い、4軒がつながった三角長屋。開催期間中18時からは、この三角長屋の2階の窓辺からヴァイオリンの生演奏が響くのだとか!(雨天中止,臨時休あり) 夕刻に素敵な生演奏を聞いたら「帰りたくない〜」と後ろ髪を引かれそう……。
焼き立ての『ハト屋』のコッペパン。人情味あふれるキラキラ橘商店街には、美味しい誘惑もたくさん。歩き疲れた時の休憩スポットがたくさんあるのも、街なか芸術祭の魅力なのかも。
焼き立ての『ハト屋』のコッペパン。人情味あふれるキラキラ橘商店街には、美味しい誘惑もたくさん。歩き疲れた時の休憩スポットがたくさんあるのも、街なか芸術祭の魅力なのかも。

私も4年間ほどスカイツリーのお膝元・押上に住んでいたことがあるが、改めて向島エリアを歩いてみて、まだまだ知らないことがたくさんあった。まさに灯台下暗し!

それに『すみだ向島EXPO 2021』には、もう一度行きたくなる仕掛けが満載。街の魅力が溢れすぎているので、2〜3時間歩いただけでは時間が足りないのだ。一度で全てを巡ろうとするよりも、このEXPOをきっかけに好きな場所を見つける、「また来るぞ」という強い思いとともに参加するのがおすすめ。

イベントチケットは、peatixにて販売中。チケットを1枚購入することで最大3日、作品を鑑賞することが可能(混雑時には入場制限あり)なので、一度だけでは味わえない向島の魅力を五感で感じながら、二度、三度と楽しんでもらいたい。

イベント情報

「街なか芸術祭 すみだ向島EXPO2021」
開催期間:2021年10月1日〜10月31日
営業時間:10:00〜18:00(最終受付17:30)
参加費:一般:3,000円 / 小中学生:500円 / 学生応援価格:1,000円
定休日:なし
住所:東京都墨田区京島3-50-12(京島駅)
アクセス:東武鉄道「曳舟」駅から徒歩12分
ウェブサイト:https://sumidaexpo.com/
予約サイト:https://sumidaexpo.peatix.com/view

 

取材・文・撮影=つるたちかこ