路上に落ちたピザ屋の配達バッグから、配達員と店長のやり取りを妄想

道端に落ちた、ピザ屋の配達バッグ。視界にも入らず通り過ぎる人が大半かもしれない。

しかし藤田さんの手にかかれば、コロナ禍で注文が殺到し「忙しすぎてやってられない!」と、配達バッグを投げ出したアルバイトスタッフと店長とのストーリーが浮かび上がってくる。

「ピザ屋のコロナパニック」

コロナの影響がとあるピザ屋にも直撃していた。 

バイト「もしもしおつかれさまです、店長、ぼくもう限界です!」
店長「おい、どうした?!、道間違えたか?!」
バイト「コロナの影響で今日配達10 件以上じゃないですか?もう無理です!」
店長「おい!まて、とりあえず帰ってこいよ」
バイト「いや、もう、無理っす!」
店長「とりあえず、一旦お店に戻ってだな、、」
バイト「いや、もういいです!お母さんにもコロナだからやめろって言われたんで!」
店長「おい、ちょ、ちょっと待て、話聞くから、一旦戻ってきてくれよ」
バイト「いや、もう!ありがとうございました!」
店長「いや、え?!、ちょっ」
バイト「ツー、ツー、ツー…」
店長「……」

少し哀愁があり、でもクスッと笑える物語が魅力的な、藤田さんの「落ちもん」の世界。見る人の経験や状況によって、同じものでも全く違うストーリーが生まれそうなのも魅力だ。

落ちもんに目を向け、そこからストーリーを想像するようになった背景や、はじめての人が楽しむコツなどについてお話を伺った。

「落ちもん」に自分を重ね合わせた

藤田さんが最初に撮影した「落ちもん」は、醤油の小袋6パックだった。

藤田さんが最初に撮った「落ちもん」の写真。

「友だちを待っていた時、ふと下を見たら落ちていました。醤油の小袋なんて、1、2個あれば十分じゃないですか。これを落とした人はすごく欲張ったんだなって思ったんです。でも全部落としちゃって……。昔話の『舌切雀』で、大きいツヅラを選んでしまったおじいさんみたいですよね。あとから奥さんに『あんた、醤油持ってこなかったの?』って怒られなかったかな、とか。この時はじめて、落とし物から人間ドラマが見えてくるな、と気づきました。
一枚撮るとアンテナが立って、他の落とし物にも目が行くようになりました」

藤田さんが落ちもんに惹かれるのは、落とし主の状況や、少し哀愁のある落ちもん自体が、自分自身に重なる部分もあるからだという。

「私自身おっちょこちょいで、失敗や恥ずかしい出来事が多かった人生なんです。落ちもんも、うっかりしたり気が抜けたりした瞬間に生まれちゃうと思うんです。
また落ちもんの写真を撮り始める前に働いていたデザイン事務所が恐ろしいくらい忙しくて。寝られない・帰れない・食べられないという、ブラック企業を通り越した”漆黒企業”でした(笑)。当時はどちらかといえば、メジャーでキラキラしたものに惹かれていましたが、忙しい日々を送るうちに、『果たして大事なものはなんだろう』と思うようになっていったんです。道に落ちているゴミや石のように、みんなが気づかないものにこそ、実は面白みがあるんじゃないかって。
花開かない自分へのなぐさめだったり、歪んだ劣等感の裏返しだったかもしれませんが、この漆黒時代の経験もけっこう影響しているように思います」

目で見て楽しむ・妄想して楽しむ

藤田さん流・落ちもんの楽しみ方は大きく2つある。

①目で見て楽しむ

まずは、落ちているものとその周りの風景を目で見て、偶然生み出された構成美や形の面白さをビジュアルとして楽しむ、という方法だ。

「一つは、『地と図を楽しむ』。地面(地)と落ちもん(図)とがが織りなす構成美を目で見て楽しみます。落ちもん撮影のマイルールは、『真俯瞰・真横のどちらかで、落ちもんが主体の構図で撮る』そして『落ちもんには触れない』です。
道路上のラインや道に生えた草など、その時落ちもんの周囲に偶然あったものをどう取り入れるかで、見え方が変わったりします」

タイトル「天の川」。舗装のひび割れに落ちたアメが、天の川の星のよう。

「もう一つは、『形を楽しむ』ということ。道に落ちたカーディガンを撮ったら、家で猫がまったく同じ格好で寝ていたことがありました」

道に落ちたカーディガンと偶然同じ格好で寝ていた、藤田さんの飼い猫

最近では、「目で見て楽しむ」という点を掘り下げて、どういうポイントを面白い・美しいと感じたのかを要素に分解して再構築する、という試みもしているそうだ。

道路のライン上にいるプーマのロゴや、拍手しているような手袋。ビジュアル的に惹かれた要素を抽出したイラスト。

②妄想して楽しむ

もう一つが前述したように、落ちているものから、その背後に広がるストーリーや人間ドラマを妄想する、という方法だ。

「たとえばこの写真は、プロレスの逆エビ固めみたいな状態で折られた状態で落ちていたパソコンです。これを見た時、論文の締め切り直前に、あと残り1、2行のところでパソコンがクラッシュしてしまって、思わず折り曲げてしまった……そんなストーリーが浮かんできました」

藤田さんはこの風景から、こんなストーリーをつくりあげた。

「怒りの海老反り固め」

やった、やったぞ!!
ついに、ついに後20 文字で、卒論が完成する
長かった、、辛かった、、間に合わないんじゃないのかと
何回も諦めそうになった。。 

ついに解放されるぞ!!
これを提出したら、思いっきり遊んでやる!飲むぞ~~~!

って、え?
おい?おいおいおい!?

嘘だろ!?おおおおおおおおい!!
嘘って言ってくれ、

何、このタイミングで爆弾マーク
落ち着け、、再起動だ
がんばれ、頑張ってくれ、、頼む、、、 

僕の一生に一回の願いも虚しく
パソコンからデータは消え、その瞬間僕の留年が確定した
再び爆弾マークが表示された瞬間
僕はパソコンに海老反り固めを決めていた

 

時には人間側ではなく、「落ちもん」側に立つこともある。

たとえば、標識の片隅にかかった誰かの帽子。その向こうには、似たようなデザインの帽子をかぶっている男性が歩いていた。ここから藤田さんが編み出したストーリーは……。

「後釡」

ある朝、いつも通り犬の散歩の途中で私は強風で飛ばされた。
突然のことで、慌てふためいたが
運よくウォーキング途中の心優しいマダムに、
目立つ標識にかけてもらうことが出来た 

「よし、これならきっとご主人に見つけてもらえるはず!
毎日のお散歩コースも一緒なんだ、大丈夫さ信じるんだ!
私は運がいい!」
そう言い聞かせながら、ひたすらお散歩の時間を待っていた 

あ!あれはご主人だ!ここです!私です!あなたの帽子です!
あ、あれ!?

まちに待っていたご主人の姿が近づくにつれ
最も恐れていたことが起こってしまった。。。

自分と瓜二つの帽子が、ご主人の頭にかぶっているではないか!!!
ぎゃーーーーーーー!!!

落ちている状況を観察し、物語をふくらませる

何気なく道に落ちているものにも、その背後には色んな人間ドラマが潜んでいるのかも知れない……そう思うと、街を歩く時間がグッと退屈しなくなる。

「藤田さんのように、落ちもんからストーリーを作ってみたい!」と思った人が、はじめて妄想する際のコツを伺った。

「落ちていた場所や時間帯、落ちていた状況を観察して、『こういう人が落としたのかな?』と人物像を設定していきます。場合によっては、人じゃなくものを主人公にする場合も。そこから、その人がやりそうなことを想像し、ストーリーを考えます。
自分が過去に体験した失敗談・恥ずかしい体験を当てはめるのもおすすめです。たとえば私が小学校の頃、お母さんがバザーで買ってきたTシャツを学校に着ていったら、隣のクラスのカナオくんという悪ガキが全く同じTシャツを着ていて、一日中色んな友だちにからかわれて恥ずかしかった、という出来事がありました」

「少し前の夏休みの時期、派手なシャツが道に落ちているのを見た時、この体験が蘇ってきました。夏休みにはじめて制服以外で女の子と遊びに行くことになった男の子が、何を着ていいかわからず、とりあえず地元の古着屋にかけこんで柄シャツを買って。いざ着てでかけたら、近所のおばあちゃんが同じシャツを着ていて、脱ぎ捨てた……そんなストーリーが浮かびました」

つらい失敗談や恥ずかしい出来事も、こうやってストーリーとして笑いに変えて昇華したら、過去の自分が報われる気がする。

「新宿のアルタ前で雨の日に大の字でこけてしまったり、飛んできたカラスに髪の毛をつかまれたり、電車の中で変なおじさんに私だけ絡まれたり……私の人生は、ありえないことがたまに起こるんです。
『なんで私?』みたいな出来事って、ネタにしていくしかないんですよね。落とし物もそうだと思うんです。大切にしてたり、嫌なことがあって捨てたものかもしれないけど、そういうネガティブな出来事を笑いに変えていっちゃおうよって。
ストーリーを考えるときは、悲しすぎず、希望や余韻が残る終わり方にしています。写真を撮るときも、影や光の演出は入れず、証明写真のように切り取っています。そうすることで、他の人が自由に感じる余地を残しています」

さらに広がり、進化する「落ちもん」の世界

妄想には、正解や不正解がないのも魅力だ。年齢やその人の置かれてきた環境、人生などで、同じ写真を見ても全く違うストーリーが生み出される場合も。

「大喜利大会みたいに、一つの落ちもんをお題に色んな人の妄想をぶつけ合う会をやってみたいですね。その人が歩んできた人生で、切り口が全然違うと思うので。
以前出演した番組で、面白い落ちもんの投稿を募集したことがありました。その時、『トラックの荷台が落ちてました』って、道に置かれたコンテナの写真を送ってきた人がいました。これ、落ちもんって言っていいんだ!?って、固定概念を覆されたような気持ちでした。でも宇宙に飛べば確かに落ちもんですよね。未だにそういう発見があるのも楽しいです」

今後は、落ちもんをテーマにしたZINEの制作や、TikTokでの発信、4コマ漫画などにも取り組んでみたいという藤田さん。

デザイナーやイラストレーターとして第一線で活躍する藤田さんだからこその、アウトプットの引き出しの多さによって、これから「落ちもん」の世界がどう進化していくのかが楽しみだ。

取材・構成=村田あやこ
*記事内の写真はすべて藤田さん撮影(https://www.instagram.com/fujitayoshimi/