森鴎外の饅頭茶漬け
まずは饅頭茶漬け。明治時代の文豪、森鴎外の長女である森茉莉が、エッセイ『貧乏サヴァラン』で記した鴎外の葬式饅頭の食べ方だ。
本を読む人や和菓子が好きな人の間では割合知られたエピソードだろう。
作り方は簡単で、ご飯の上に1/4に割った饅頭をのせ、煎茶をかけるだけ。鴎外の時代の葬式饅頭は大きかったと思われるので、小さい饅頭ならそのままのせてもよさそうだ。
私も何度か試したけれど、それほど違和感は感じなかった。ほんのり甘い小豆風味のお茶漬けは、さっぱりとしていて食後でも食べやすい。
ご飯は少なめ、饅頭は大きめに割ってのせると味のバランスがいいようだ。
お盆の天ぷら饅頭
次は天ぷら饅頭。作り方は簡単で、市販の天ぷら粉を水で溶き、饅頭をくぐらせて揚げるだけ。一般的な天ぷらの作り方と同じだ。
20年ほど前、長野県での親戚のお葬式で天ぷら饅頭が山ほど出て、さらにそれに醤油をかけて食べる様子に驚いた。そのあたりではお葬式やお盆には天ぷら饅頭を食べる習慣があるそうで、天つゆに浸けることもあるという。精進揚げの一種なのだろう。
ちなみに天ぷら饅頭は長野県特有の食べ物ではなく、福島県や岐阜県、滋賀県、島根県などの一部の地域でも食べられているそうだ。
東京では淡路町にある『竹むら』や、浅草『九重』などの老舗で、揚げ饅頭の名で天ぷら饅頭が作られているけれど、一般的には揚げ饅頭といえば衣を付けない素揚げの饅頭を指す。
揚げたてはサクサクと香ばしく、中から熱々の餡がとろけ出す。破れて餡が飛び出しているものや、皮が薄すぎるものを使うと油がはねるのでくれぐれもご注意を。
※火傷には十分ご注意ください。なお、今回は小豆餡を包んだ一般的な小麦饅頭を使用しています。
饅頭パイ
アメリカのお菓子を作る仕事柄、冷凍庫には年中パイ生地が入っているので、和菓子が余るとまずはパイ生地に包んで焼くことが多い。特に饅頭は失敗なくできるのでおすすめだ。
作り方は簡単で、一口サイズの饅頭ひとつに対して冷凍のパイ生地1/4を用意する。作業しやすい固さに解凍したら、強力粉をふった台の上で2mmの厚さにのばす。饅頭を半分に切ってパイ生地の手前にのせる。
縁に水を塗り、奥から生地をかぶせて長方形にする。縁全体を指で軽く押さえ、さらにフォークで押さえてしっかり留めて、ナイフで空気穴を開ける。
ここで表面に少量の牛乳で溶き伸ばした卵黄を塗れば艶よく焼き上がる。
220℃に予熱したオーブンで5分、200℃に下げてさらに12~15分、表面が香ばしいきつね色になれば焼き上がり。
饅頭の皮は厚いよりも薄い方が、餡とパイ生地とがなじみやすく相性が良い。焼きたてはもちろん冷めてもおいしい。
食べきれない和菓子5種類を春巻きの皮で包んでみる。
最後は饅頭春巻き。
餅と餡を包む春巻きを時々つくるので、饅頭も合うのではと思い試してみた。春巻きの皮は大量にあるので、せっかくなので、ほかの和菓子も春巻きの皮に包んでみることにした。
饅頭に加え、家庭で残りがちな和菓子の定番であろう最中、羊羹、大福をそれぞれ春巻きの皮で包む。天ぷら饅頭を油で揚げたので、こちらは揚げずに油を塗ってオーブンで焼くことにした。
一口サイズの饅頭、最中、煉り羊羹、餅生地の大福、求肥の大福をそれぞれ春巻きの皮で包み、しっかり閉じる。
全面に油を二度塗りしてとじ目を下にして、オーブンペーパーをしいた天板にのせる。220℃に予熱したオーブンで片面7分、裏返してさらに5分ほど焼く。(時間と温度はオーブンにより加減)
餅生地の大福は膨らむことを予想して余裕を持って包んだつもりだったが、大きかったからだろう、餅生地が一部飛び出してしまったけれど味は悪くない。
求肥はそもそも柔らかすぎて同じく一部が溶け出してしまったけれど味は良かった。
最中は皮のごわつきが気になり今ひとつ。
羊羹は余りがちな煉り羊羹を使った。焼きたてのとろとろとした餡の食感は捨てがたいけれど、寒天で固めてある煉り羊羹は、よほどうまく包まないと焼いているうちに一部が溶け出してしまう。粉で蒸して固める蒸し羊羹であれば失敗なく作れるだろう。
そして饅頭は、包みやすく、焼いている間に中身が飛び出すこともなく、味も良かった。オーブンで焼くだけでなく、フライパンで焼いても油で揚げても失敗なくおいしくできるだろう。
冷凍饅頭
紹介した食べ方は、どれも難しくはないけれどひと手間必要だ。手間はかけたくないという人は、とりあえず賞味期限が切れる前に冷凍室へ入れておこう。
フィルムに包まれた饅頭をそのまま冷凍室に入れるだけ。あとは好きなときに取り出してそのまま食べればいい。甘い餡はガチガチに凍ることはない。餡は甘いほど、それから皮は薄いほど向いている。即席の小豆アイスといったところだ。
冷たいものが苦手な人は、同じく冷凍保存した饅頭を耐熱皿に移し、ラップをふんわりかけて、500Wの電子レンジで様子を見ながら10秒ずつ温めればできたてに似た風味が楽しめる。時間をおくと固くなってしまうので、温めたらすぐに食べよう。
どんな食べ方にせよ、最後の1個までおいしく楽しく食べたいものだ。
文・撮影=原亜樹子(菓子文化研究家)