【サフィール踊り子】

優雅な車内に心が躍りっぱなし!

伊豆稲取の海辺を走るサフィール踊り子。伊豆稲取~今井浜海岸周辺は特に海が近くに。
伊豆稲取の海辺を走るサフィール踊り子。伊豆稲取~今井浜海岸周辺は特に海が近くに。

「大人のIZU  本物のIZU」がコンセプト。車両デザインは「TRAIN SUITE 四季島」のデザインも手掛けた奥山清行氏。カフェテリアの料理は、小田原出身でミシュラン1つ星のイタリアンシェフ、本多哲也氏が監修する。1日2~4便運行し、東京~伊豆急下田を結ぶ(土・日・祝の5号下りのみ新宿発)。東京~伊豆急下田を乗車の場合、グリーン車9110円。

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鉄道ビューの名所、日暮里駅北口の下御陰殿橋(しもごいんでんばし)で息子と新幹線を見ていたとき。見慣れない列車が橋の下を通過していった。
「あの青い列車、なに?」
2歳の息子は青く感じたようだが、自分には深緑に見えた。この美しい列車が「サフィール踊り子」だった。

1号車はまるで飛行機のビジネスクラスのよう

2020年3月13日、東京〜伊豆急下田を結んでいた「スーパービュー踊り子」が30年の歴史に幕を閉じた。その翌日に運行を開始したのが、「サフィール踊り子」である。約3時間の鉄道旅をより快適に楽しんでほしいとの思いから、数年がかりで完成させたこちらの車両。魅力は何といっても、個室を含め全車両グリーン席という優雅さ! 近年人気の高い、高級志向の観光特急列車だ。

東京駅に入線。外観の色は伊豆の海と空をイメージした紺碧(こんぺき)色、通称・伊豆アズール。
東京駅に入線。外観の色は伊豆の海と空をイメージした紺碧(こんぺき)色、通称・伊豆アズール。

下御陰殿橋で一目惚れして以来、何度か個室を予約しようとしたが、あいにく満席。通常のグリーン席に変更し、始発の東京駅へ向かう。9番線ホームに、サフィール踊り子1号が入線してくると、あちこちでカメラの音がパシャパシャ。

早速、6号車のグリーン車に乗り込むと、乗客の多くが自撮りで記念撮影。車内に旅の高揚感が満ちている。後ろの席では男の子が「椅子が大きい!」と大はしゃぎ。彼の言う通り、確かに座席は大きい。2+1の3列シートは新幹線のグリーン車と同サイズで、身長180㎝の自分が足を真っすぐ投げ出せるほど、シートピッチにもゆとりがある。

大きく取られた側面の窓と、各車両の両側に設けられた天窓が空間を広く感じさせる。
大きく取られた側面の窓と、各車両の両側に設けられた天窓が空間を広く感じさせる。

和やかなミュージックホーンがホームに響くと、伊豆への旅がついに開演。列車出発後、くつろごうとリクライニングシートをフルに倒すと、目の前に空が。サフィール踊り子は荷棚がガラス製のうえ、天窓が両側に設けられており、上にも視界が開けている。寝転ぶような姿勢で、移りゆく空の表情を眺められるのだ。

品川駅を通過後、ほかの車両も気になり見に行くことに。2・3号車のグリーン個室へ向かうと、ある一室では4人家族がテーブルでカードゲームをお楽しみ中。隣の6人用個室では、老夫婦が二人きりの贅沢な時間を過ごしている。

圧巻は、先頭1号車のプレミアムグリーン席。ここは独立した1列+1列の座席になっており、本革のシートや木のアームレストが漂わせる高級感は、飛行機のビジネスクラスさながら。荷物収納を座面下に設け、荷棚を廃したことで、頭上の空間がとにかく広い!

白波洗う相模湾、快晴日は伊豆七島も

伊豆多賀から南は要所で視界が開け、大海原を一望。この日は初島も遠望できた。
伊豆多賀から南は要所で視界が開け、大海原を一望。この日は初島も遠望できた。

自分の席に戻り、再び車窓を眺めると、列車は相模川を通過。国府津駅手前で初めて相模湾がその姿を見せ、前方に伊豆半島も見えた。正午過ぎに熱海駅に着くと、半分ほどのお客が下車。

来宮(きのみや)駅から長いトンネルを経て伊豆多賀に出ると、沿道にヤシの木が見え、南国ムードに。この辺りで、料理を事前予約してあった4号車のカフェテリアへ。大理石のテーブルや革張りのソファが置かれたシックな空間と、車窓から見える紺碧の海の対比が美しい。こちらで味わえるのは伊豆の食材などを使ったパスタやカレー、デザート、ドリンク。 カウンターで食事をしていた夫婦は「海の見える時間帯に予約してよかったね」「うん。ここの渡り蟹(かに)カレーは、出汁が濃厚で蟹のスープを飲んでるみたい!」と幸せそう。

伊豆の海のきらめきを車両に映して

片瀬白田の沿岸を曲がる。車両は揺れを減衰させる装置を備え、カーブでも揺れにくい。
片瀬白田の沿岸を曲がる。車両は揺れを減衰させる装置を備え、カーブでも揺れにくい。

伊豆熱川駅からトンネルを抜けると、いよいよ旅の終盤にして車窓のハイライト。片瀬白田駅から海岸に沿うように走るため、眼下に相模湾の白波が。彼方には伊豆七島の島影も見える。夢中でカメラのシャッターを切っていると、いつの間にか終点の伊豆急下田駅に到着。乗車前、約2時間半の旅はちょうどいい長さだと思っていたが、車内が快適すぎたせいか、はたまた車窓風景が豊かだったからか、むしろ短く感じた。今度はもっとゆっくり乗車して、サフィール踊り子を満喫したい。そのときこそ、グリーン個室かプレミアムグリーンで……。

〈プレミアムグリーン〉

各席が独立分離しており、シートピッチ1250㎜と広々。
各席が独立分離しており、シートピッチ1250㎜と広々。
シートは最大30度ずつ回転可能。夫婦で向かい合ったり、両席とも海に向けたりとアレンジできる。
シートは最大30度ずつ回転可能。夫婦で向かい合ったり、両席とも海に向けたりとアレンジできる。

〈グリーン個室〉

2・3号車の2・3番の部屋が、1~4人用。どの個室も、カフェテリアの料理もデリバリーしてくれる。
2・3号車の2・3番の部屋が、1~4人用。どの個室も、カフェテリアの料理もデリバリーしてくれる。
1・4番の部屋は1~6人用。照明の明るさは4段階に調整できる。
1・4番の部屋は1~6人用。照明の明るさは4段階に調整できる。

〈カフェテリア〉

カトラリーも上質な雰囲気。敷き紙や紙コップは同列車のロゴ入り。
カトラリーも上質な雰囲気。敷き紙や紙コップは同列車のロゴ入り。
トマトの味わい濃厚な伊豆産フレッシュトマトのスパゲティ。パンと下田の観音温泉水(飲料用)付きで1100円。※カフェテリアのメニューは変更になる場合があります。
トマトの味わい濃厚な伊豆産フレッシュトマトのスパゲティ。パンと下田の観音温泉水(飲料用)付きで1100円。※カフェテリアのメニューは変更になる場合があります。
4人掛けのテーブル席も。
4人掛けのテーブル席も。
海一望のカウンター席。
海一望のカウンター席。
サフィール踊り子の色味と合わせたアテンダントと調理スタッフの制服。※撮影のため、マスクを外しました
サフィール踊り子の色味と合わせたアテンダントと調理スタッフの制服。※撮影のため、マスクを外しました

取材・文=鈴木健太 撮影=米屋こうじ
『散歩の達人』2021年9月号より