『とおるちゃん』のチャーシュー定食

各地にある「名酒場」と呼ばれる店を取材し、その奥深い魅力を伝えるべく始まった当連載「飛びこめ名酒場」。コロナウイルスの影響で、あまりあちこちに出歩くのもどうだろうと、僕が自宅から徒歩で行ける範囲、つまり、西武池袋線石神井公園駅付近にある、地元ならではの名酒場を取材する番外編「飛びこめ“ご近所”名酒場」が始まったのが昨年の8月。そして今、東京はまたしても緊急事態宣言のまっただ中。そこで苦肉の策として今回からスタートするのが、テイクアウトを主軸にした、「飛びこめ“ご近所”名酒場 テイクアウト編」というややこしい構造の新シリーズだ。とはいえ、今回の取材を行い、その内容は今だからこそ世に発信するべき情報だと確信した。お話を聞いたのは、世が世なら通常どおり店内飲食についての取材をしたかった大好きな店『とおるちゃん』。どこの街にでもありそうな小さな店の、誰もが同じように抱えているかもしれない苦悩。そんな状況を持ち前の明るさで吹き飛ばし、前を向いて歩んでいく。その姿に勇気をもらえるような話が次々と飛びだした。

地元の愛され酒場で、当連載では「テイクアウト」にかける熱い想いを聞かせてくれた『とおるちゃん』。最近はテイクアウトと合わせ、ランチ営業をする日も増えた。情報は、LINEのオフィシャルアカウントから常時発信中。

ランチの内容は、魚も肉もうまい店なので、刺身定食や海鮮バラチラシ、ミックスフライ定食など多彩。そのなかから僕が選んだのがチャーシュー定食だ。

チャーシュー定食1000円。

さっき僕が、「食事として純粋に味わう大好きな店の料理たちが、驚くほどに美味しい」と書いたが、初めにそのことに気づかせてくれたのが、このチャーシュー定食だった。

そもそも僕は、『とおるちゃん』の人気おつまみ「イベリコ豚のとろとろチャーシュー」が大好きだ。いつもはそれをつまみに酒を飲んでいたわけで、ごはんと一緒に食べるという発想がなかった。が、こうしてノンアルコールで向き合ってみると、甘めの濃厚ダレの絡んだとろとろで香りの良いイベリコ豚と白米のハーモニーが、涙が出るくらい美味しい!  そうか、僕はこんな絶品料理で酒を飲んでいたのか、と、けっこうな衝撃を受けた。

チャーシューをアップで。

そもそもこのチャーシュー、おつまみ単品で950円と、お店のなかでは高級品の部類。ところがそこに、角切りの生ハムがゴロゴロとのったサラダ、小鉢2種、具沢山のあら汁に、ごはんがついて、1000円。お酒で利益を上げられるわけでもないこのご時世に、どう考えてもサービスが良すぎだろう。まぁ、だから地元民たちから愛されるんだけど。

牛タンカレー メンチカツのせ1000円。

チャーシュー定食を食べた日、隣のお客さんが頼んでいるのを見て、たまらず再訪して食べたカレー。これまた、僕は“アタマ”単品で頼んでつまみにすることが多い人気メニュー「牛タンカレー」に、肉汁あふれる巨大な揚げたてメンチがのり、サラダ、玉こん、あら汁。さらにどう考えてもやりすぎなのが、おかずはすでにじゅうぶんすぎるのに、すき煮風の牛肉までたっぷりついてくるところ!

やっぱり、酒場の底力はすごい。

『加賀山』のもつカレーライスランチ

新型コロナウィルスの影響で、いまだに外出や外食には不安がつきまとう。とはいえ、飲食店の多くは営業しているし、それぞれに試行錯誤しながら、できるかぎりの対策をとってくれている店も多い。むやみに遠出することははばかられるけれど、家の近所や歩いて行ける範囲の店で、慎重に対策しつつ1、2杯飲むくらいは、日々の小さな息抜きとして許容範囲なんじゃないか? 考え方は人それぞれだろうし、今は正解もわからないけど、少なくとも僕はそう思う。そこで今回は特別編「飛びこめ“ご近所”名酒場」と題して、我が家から徒歩圏内の名酒場をご紹介したい。幸いなことに、この特別編が2~3年続いたって紹介しきれないくらい、僕の住んでいる東京都練馬区の石神井、大泉界隈には、大好きな名店がたくさんあるんだよな~。

わが街石神井に、絶品のもつ焼きと煮込みをもたらしてくれた名店『加賀山』。現在は一時的に完全営業休止中だが、最新情報はオフィシャルブログで常に発信中。

実は店主の加山さんとはFacebookでもつながっていて、日々新しい情報が入ってくる。その『加賀山』がランチを始め、さらにそのために開発した「もつカレーライス」が食べられると知り、たまらず足を運んだ。

さっそくもつカレーライスランチ800円を注文。それから、ノンアルドリンクとして提供中だった梅サワーのソトだけ300円も。

セットのマカロニサラダと、ノンアル梅サワー。

ちょっとおもしろいからと頼んでみたものの、ノンアルのサワーなんて寂しいな、と思いつつも飲んでみる。すると意外や意外、マカロニサラダと一緒に飲んでると、けっこうお酒気分が味わえるものだ。まぁ、ここにほんの1cmでもいいから、焼酎をたらしたいのが本音ではあるけど!

そしてもつカレーも到着。

ご覧のとおり、なんとも独創的な見た目のカレーライス。この日は昼どきをちょっと過ぎていたため、客が僕ひとりだったこともあり、運良くこのカレーの誕生秘話を加山さんに聞かせてもらうことができた。

『加賀山』がランチの提供を始めたのは、東京都が「まん延防止等重点措置」から4度目の「緊急事態宣言」へと移行した2021年の7月12日から。その目玉メニューのひとつとして、テイクアウトメニュー用に仕入れていたシロモツの、普段は「シロ串」に使っている厚い部位を使ってカレーを作ってみようと思い立ったのだとか。

『加賀山』のシロ串といえば、初めて食べた時、「石神井でこんなシロが食べられる時代がくるなんて!」と大感動した一品。それをカレーに使ってしまうなんて、こんなに贅沢なことはない。実際、モツならではの深〜いうまみがたっぷり溶け出し、とろとろと濃厚、えも言われぬ未体験のカレーで、ひと口食べ、そのあまりの美味しさにしばらく黙りこんでしまった。

こんなカレー、食べたことない!

ちなみに、この独特の盛りつけスタイルについては、まずごはんは、店名である『加賀山』の「山」を意識してカップで成形。そこに、通常営業用に仕入れて在庫豊富だったあらびきウインナーをトッピングしようと、最初は鬼のツノのようにごはんに刺そうとした。が、なかなかうまくいかない。そこであきらめて上にのせてみたところ、偶然にもコロナの直前に夫婦旅行で訪れたシンガポールのホテル「マリーナベイ・サンズ」に見えなくもない。「だから、お客さんに聞かれたら、思い出のマリーナベイサンズホテルを意識して盛りつけたって答えるようにしてるんですよ」と笑う加山さん。あぁ、そんなおもしろい話、本来なら酒の肴にさせてもらいたかった!

『加賀山』では他にも、人気の煮込みを使った「にこみ定食」に「うどんにこみ定食」、「もつカレーうどん定食」、串焼きの肉をごはんにのせた「加賀山丼」など、豊富なメニューを提供中。

お話のなかで加山さんは「酒類の提供ができない営業をいつまで続けなきゃいけないのかと不安で、早く美味しい生ビールともつ焼がある生活を取り戻したいですよ。それと、定食屋やお弁当屋さんって、仕込みも時間がかかる割には単価が低いから、たくさん売らなければ成り立たない。やってみてわかりましたが、本当に大変だと思うし、尊敬します」とも語ってくれた。

それでも酒場の店主たちは、今できることを考え、自分の店の運命を背負って行動している。

今だけしか食べることのできない(そしてそう願いたい)、幻の居酒屋ランチ。そこには、確かに絶品でありながら、どこか切ない、酒場の人々の想いまでもが込められていた。

住所:東京都練馬区石神井町3-25-21 ライオンズプラザ B1F/営業時間:17:00~23:00/定休日:日・月/アクセス:西武池袋線石神井公園駅から徒歩3分
住所:東京都練馬区石神井町3丁目28−4/営業時間:17:00~22:00LO/定休日:月・第2日/アクセス:西武池袋線石神井公園駅から徒歩5分

取材・撮影・文=パリッコ