宮造り、番台式の昔ながらの銭湯
京急本線雑色駅から雑色商店街を抜け、しばらく歩くと住宅街の中に『太平湯』はある。『太平湯』が開業したのは昭和31年(1956)のこと。この地にあった銭湯を先代が引き継いだのだという。現在の建物は昭和41年(1966)の建築。銭湯特有の宮造り建築が歴史を感じさせる。
のれんをくぐると、下足箱が男女左右に分かれ、入り口が二手に分かれている。これを見ただけで、銭湯好きなら番台式の受付であることがわかる。近年主流になっているフロント式は下足箱が男女共用になっていることが多いからだ。
昭和レトロ感満載の脱衣所。ここにいるだけでほっこり和む
脱衣所は古い銭湯でよく見かける格天井(ごうてんじょう)ではないが、天井が高く開放感がある。建物は古いが清掃が行き届いているので、清潔感がありきれいだ。番台は低いので、女性や子供でも楽に利用できそうだ。
男湯の脱衣所は長椅子とマッサージ器があり、ぶら下がり健康器具が置かれている。湯上りにぶら下がったら気持ちがよいだろう。
脱衣場と浴室の間の上部の窓には、地元の風景が描かれている。描いたのは、銭湯を手伝いながら作業療法士として病院でリハビリ職に従事している息子の渡邉大和(ひろかず)さん。
以前は季節の風景だったが、地元の風景を描いたところ評判がよかったので、以来、地元の風景を描くようになったとのこと。現在は、蒲田東急プラザの名物になっている屋上観覧車が描かれている。数カ月ごとに描き直すというから、次回訪れたときは何になっているか楽しみだ。
富士山のペンキ絵がある浴室。「森林浴サウナ」って何?
浴室は男女対称の造り。浴槽上部の壁面には銭湯絵師・中島盛夫さんが描いたペンキ絵があり、男湯は富士山、女湯は桜と湖の風景が描かれている。浴室に入った瞬間に広がるペンキ絵のある空間。昔ながらの銭湯の風情が感じられるほのぼのとした雰囲気がある。
大きな浴槽は、麦飯石を使った人工温泉のバイタル温泉、電気風呂、天然鉱石を使った石板タイルを敷いた岩盤泉、ボディジェット、寝湯に仕切られている。
無料で利用できるスチームサウナは、「森林浴サウナ」と名付けられている。霧状のフィトンチットを噴射し、森林浴と同じ効果が得られるという。かなり熱いので2~3分で汗をかく。
洗い場の一画に、広いスペースに座りやすい少し高めの椅子を置き、手すりやハンドシャワーを備えたコーナーがある。2007年の改修の際、“誰もが使いやすい席”という考えで設けたものだ。身体が不自由な人や高齢者に喜ばれているのはもちろんだが、若い人の利用も多いという。
湯は水道水を使っている。「以前、井戸を掘り、地下水を使ったこともあったんですが、鉄分が多くて水が赤みを帯びることと、パイプなどのメンテナンスが大変なので水道にしたんです」と渡邉さんが教えてくれた。
近年はガスボイラーで沸かすところが大半だが、太平湯では薪釜を使っている。工務店などが解体した家屋の木材を持ち込んでくれるので、これだけで十分に足りるのだという。
取材・文・撮影=塙 広明