現場を担う自治体担当者の悲哀と愛と希望

こうして事前合宿地には、内閣官房が新型コロナウイルス対策の厳しい掟を定めた。

が、定められた方は、本当大変だ。冒頭に紹介した黒部市の極限までのバブル対策を始め、お話を伺った区市町村の担当者たちは、戦々恐々としているように見受けられた。

コロナ対策は次々に追加されるわ、予算配分は不明だわ、「バブル方式といっても陽気な選手団が本当にじっとホテルからの外出禁止を守ってくれるんだろうか」、「そもそも契約書を読み込んでくれるのか」、「契約書の翻訳のニュアンスが違って現地でトラブルになるんじゃないか」、何より「先方に確認しなければいけない内容が決まってなくて事前の相談もできない」。そして「万が一感染者が出た場合、地元の保健所が担当するのだが、その時医療が逼迫していたら大変だ」と、不安は募るばかりだ。

それでも彼らは健気にいうのだ。

「こんな時期にも関わらず来日するのだから、選手の皆さんには少しでも良い思い出を残していただきたい。制限が厳しい中では楽しみは食べること。だからせめて食事に気を遣いたいと思っています」(都内某区担当者)

それにしたって遥かなる異国の食文化の上に一流アスリートを支える特別な栄養食だ。選手らが自分で食事量を調整できるビッフェ形式もコロナ禍では難しく、こちらもなかなかにハードルは高い。

まあ、IOCのバッハ会長がいうには「来日する選手は75~80%がワクチン接種済みか接種の用意がある」とのこと。安心材料ではある。

「元気な選手団をお迎えして、元気にお帰りいただく」。たったそれだけのことがどれほど大変なことか。

「でもホストタウンは大会で終わるわけではないんです。コロナ感染が落ち着いたらまた、選手の皆さんやその国の方々と交流を再開したいですね」と、担当者たちは口を揃える。どんな形になるにせよ、オリンピック・パラリンピックというきっかけがあったからこそのご縁で国際交流ができることが、地元のこどもたちへの大きなレガシーとなるのだから。

そして6月1日、事前合宿第1弾のオーストラリアソフトボール選手団が、群馬県太田市にやってきた。こりゃまた長いが担当者の皆さんには本当に頑張っていただきたい!

聖火リレー以外に、聖火トーチ本体も静かに各地自治体の役所などを巡回展示している。

アロエとアリンコ

「アスリートファースト」とよく言われるが、もしかしたら選手らと同年代の自治体担当者たちもまた、何年も何年もオリンピックに向けて努力を積み重ねてきた。時には崩れ、また積んで、とにかくコツコツコツコツコツコツ。

なーんて考えつつ記事執筆の合間に庭いじりをしていたら、先日のバッハIOC会長の言葉をふと思い出した。

「大会が可能になるのは、日本人のユニークな粘り強さという精神と、逆境に耐え抜く能力を持っているから」

そして、大きく育ち過ぎたアロエを移植しようと植木鉢を持ち上げたそのとき、真下の地面にいた大量のアリンコたちが、わちゃわちゃと焦りまくっていたのが見えた。

なんだか既視感あるなあ……この光景。

取材・文=眞鍋じゅんこ
撮影=鴇田康則