そもそも「ホストタウン」って何?

ところで「ホストタウン」っていったい何? 簡単におさらいしておこう。

簡単に言えば、内閣官房が登録し、東京オリンピックをきっかけに各自治体が諸外国と事前にスポーツ・文化交流などをしながら大会に向けてその国の選手団を応援したり学校給食で相手国の料理を食べたり、事前合宿を受け入れたり、大会後は地元で文化交流をしたり、という楽しそうな国の事業だ。

平成27年度に始まり、現在全国456件、528自治体が登録されて交付税の優遇措置もある。

昔からよくある姉妹都市とちょっと似ているが、姉妹都市は相手も日本も多くが市町村レベルの市民交流なのに対し、ホストタウンは東京オリンピック・パラリンピックを軸にした相手国と自治体との契約なので、もう少し大掛かりな感じだ。そして相手国探しも契約も、合宿辞退の話し合いも自治体が自分たちでしなければならない。

つまりあなたの町の役場職員が、日々相手国と交渉しているのだ。

お隣、埼玉県の事前合宿事情

東京の隣、埼玉県はどうだろう。以前、ホストタウンについて取材をお願いしたよしみで、お話を伺ってみた。

県の担当者によれば、交通の便がよく外国人が喜びそうな見どころも多い。市民体育館など練習場や大学生との練習などアスリートの受け入れ体制も充実しているため、ホストタウン・事前合宿の受け入れ自治体は多いという。

それぞれの自治体がホストタウンになったきっかけを、埼玉県を例に聞いてみた。

・前出の国体で競技場が造られてからその競技が盛んになった例のほか、
・川越市とタイ国空手選手のように地元にその国の方が長く市内在住でご縁があった例
・鶴ヶ島市とミャンマーにみる、第二次世界対戦で当時のビルマにお世話になった地元篤家が私財を投げ打って交流を続けている例
・大学が選手の練習場&合宿場所と学生による練習相手を提供する例
・前オリンピック会場のボート場があるため、戸田市がオーストラリアカヌー選手団を受け入れる例
などがある。

中にはオーストラリア柔道選手団のように上尾市と伊奈町の2自治体が受け入れるところも。全国ホストタウンの件数と自治体数が違うのはこうした例があるからだ。ただし、「選手がそもそもアジア枠代表選手になれそうになく来ないかも」とか「日本が定めた厳しい感染対策のために日本人選手と体を直接触れあう練習ができないので先方から断念」など、今回は事前キャンプが難しそうな自治体もあった。断念の理由は必ずしも「コロナ感染が怖いから」というだけではないのだと知った。

かと思えば、戸田市では「最近ルーマニアのボート選手が事前合宿に来ることが決まりました」と、新たな出会いも生まれている。

え、ちょっとまった!

だって最近は、感染拡大が原因で事前合宿が減少しているような報道ばかりではないか。なぜ、この場に及んで増えるのか。それは事前合宿と併せて行いたい「ホストタウン」交流は、あくまでもオリパラをきっかけに始める事業であり、大会終了後では認定されないからだ。(ちなみに戸田市とルーマニアはこの時点では事前合宿のみ※後述)。

実際、後日内閣官房の担当者にインタビューすると、

「あ、今日も1件増えました、ホストタウン」と、普通ですよって声で教えてくれた。

埼玉県戸田市の戸田漕艇場では、オーストラリアとルーマニアの選手団が事前合宿で練習に励む予定だ。
戸田漕艇場は1964年東京オリンピックでボート競技が行われた。その時の聖火台。

誰もわからなかった事前合宿の実態

でもなぜ、事前合宿やホストタウンが始まったのだろう。内閣官房担当者によれば2002年の日韓ワールドカップがきっかけだったという。

「あの時、大分県中津江村がカメルーン選手団の事前合宿を受け入れて評判になりましたよね」。あれいいんじゃない、ということで2020大会でも、という気風になり、ホストタウンの着想の基になったのだそうだ。外国から一流選手がおらが村に滞在してくれれば村の子どもたちへのいい刺激になる。ちょっとした国際交流もできそうだ、と。

そんなわけで、ホストタウンの自治体もこぞって事前合宿を取り入れたのだ。

と、ここまでしたり顔で書いておいて何だが、埼玉県担当者と話しているとき、思い切り誤解を指摘された。曰く、「ホストタウンは確かに内閣官房が担当する国の事業ですが、事前合宿は違うんです」

え、何それ?

私はこれまで漠然とホストタウンの一環に事前合宿があるのだと勘違いしていた。では事前合宿を取りまとめているのはどこなのか。これは誰に聞いてもなぜかうやむや。

違うかな?と思いつつ、思い切ってホストタウンを管轄する内閣官房に聞いてみた。そこで私は衝撃の事実を知る。

「事前合宿の実情は誰も把握していなかったんですよ。自治体や大学、企業が、いわばそれぞれに選手団を呼んでいるんです」

えっ!

だから誰も自治体数も相手国数も人数も知らなかったのだった。えっえっ!!

事前合宿をしないホストタウンもあれば、大会後に選手に数日滞在してもらって交流する自治体もある。だからホストタウン数=事前合宿数でもない。

そして事前合宿断念が増えたとしても、ホストタウン自体は全然減っておらず、むしろじわじわ増えているのだ。

やっとわかってきた事前合宿地の数と競技数

しかし何だかゆるい感じの事前合宿事情も、このコロナ禍では国も「わからないわ」では済ませられなくなった。同じ外国人選手を受け入れるホストタウンと同様の、厳しい対策をしてもらわなければならないとなったのだ。でも誰が数えるのか?

そこで白羽の矢が立ったのが、内閣官房のオリパラ担当者だった。ま、確かにホストタウンと事前合宿地は重なる自治体は多いしね。

「そこから苦労の日々が始まりました」と担当者は語る。47都道府県を通じて全1718市町村に事前合宿地を調べ上げてもらったのだ。中には大学や企業独自の合宿場所もあって、最終的にはそれも自治体の管轄にしなければならないという決まりがあるので、洗い出しは難航を極めた。

そしてわかったのは「およそ900の競技団体・個人選手が、約300自治体で事前合宿するということです。人数は……よくわかりません。選手自体が代表予選落ちということもありますし」と内閣官房担当者は苦笑した(5月31日時点)。それでもようやく事前合宿地の実態が把握できてちょっとほっとした声だった。

つまりこれが今、ニュースで辞退が続くと騒がれている「事前合宿」なのだった。(ちなみに6月1日、丸川オリンピック担当大臣が105の自治体で事前合宿を取りやめたと発表したが、もとが400以上なのだ!)

ふぅ〜、やっとわかった。でも疲れたわい。

 

 

それではまとめに入ります。

組織委が管轄するバブル対策は
「空港試合5日前から選手村試合―48時間以内に選手村退去帰国」

一方、ホストタウンや事前合宿を担う自治体が管轄する選手団へのバブル対策期間は
「空港数日〜1カ月程度事前合宿試合5日前から選手村試合―48時間以内に選手村退去事後交流2〜7日ほど滞在して地元住民たちとおにぎり作りやそば打ちなど文化交流・競技練習見学や指導帰国」

つまりホストタウン交流や事前合宿をすれば、ぐんと日本への滞在日程を増やすことができるのだ

その他、例えばアジア諸国など時差や気候風土にそれほど差がなく、日本での移動が多いとかえって感染拡大につながるとして、事前合宿を辞退、あるいは元々考えておらず組織委バブルだけを享受する選手団もある。そもそも選手村に入らず独自にホテルを予約する選手団もあるらしい。

だからバブルの大きさは、私たちが報道を聞いて想像するよりずっと変幻自在なのだった。