シャッターの閉まったお店の横で使われなくなったお知らせ掲示板です。インフォメーションと記された英字だけが取り残されているのがなんとも無情、というかこの場合は文字通りの無情報。この類いの看板をNo information board〈無情報板〉と呼ぶことにします。
茶色に塗られたベニヤ板が一部剥がれたあとから生木が露出しているのがやっぱり無情、というか、皮肉にもそこから絵画的な風合いが生まれつつあります。
エレベーターに乗って行き先階のボタンを押そうとすると目前にまた〈無情報板〉が。これもインフォメーションの文字だけが残されていますが、当初はいったい何が言いたかったのでしょう。「3階には止まりません」とか? いえいえ、実はこれ2階建ての建物の昇降機なので行き先ボタンは1階と2階のふたつしかないのです。
定期点検のお知らせを掲示するためだけにこの掲示板があるとも思えず……謎は深まります。
地下鉄の改札口の傍にお知らせ掲示板が置かれています。列車の運行状況に異変があったときにここに何かが掲示されるのでしょう。
何も情報がないのは平常通り運転中ということですね。どうぞ安心して行ってらっしゃい。
ポスターの貼られていない広告掲示板ですが、上の欄外にわざわざ洒落た筆記体で「アド・ボード」と書かれているのが虚しく目に映りました。
でも、ここは発想を変えてポジティブ・シンキングをしたいところ。何も掲示しないことで「無」を広告しているのだとしたら……。無のキャンペーン広告は禅問答かコンセプチュアル・アートの域に達しています。
私鉄の駅のホームにあったお知らせボードですが、これは思いがけない秀逸な物件です。
というのも、列車の到着時刻などを流れる文字列で表示する電気仕掛けの案内板もいつの間にかLEDドットの電光文字から液晶表示に変わっていたんですね。ふだん黒地に白の文字が表示されている状態ではまったく気に留めていなかったのですが、ある日この写真のように真っ白になっているのを見て、一瞬こちらの頭も真っ白になりました。え、これは何? 一体どういうこと?
「このページは表示できません」の下には「webアドレスが正しいか確認してください/検索エンジンでそのページを探してください」との表示が……ってこれ見えたらあかんやつでしょう。他のメディアなら印刷ミスとか放送事故級のエラーです。
身のまわりのデジタルサイネージが実はインターネット接続で一括制御されているというのはよくよく考えたら当たり前のことだったのかもしれませんが、この状態はまるで人間そっくりのロボットの皮膚の裂け目から基板やネジが露出しているような奇怪さではありませんか。
目に映るこの世界の多くがじつはこんな風に実体を失い情報化しているのだとしたら……。思わずゴクリと息を飲み込んだところで、いつもの電車がホームに入ってきました。
文・写真=楠見清