駒込『御菓子司 中里』。珍しさにワクワク!揚げ最中と南蛮焼。

JR駒込駅の東口を出て飲食店の建ち並ぶアザレア通りを1分ほど歩いたところにある『御菓子司 中里』。明治6年(1873)に日本橋で三河屋安兵衛の屋号で創業し、大正12年(1923)からは駒込で店を営む。5代目鈴木俊さんとみゆきさん夫妻、息子の武さん、娘さんの家族4人で菓子作りから販売、配達までの全てを担っている。

現在通年で作っているのは、揚最中と南蛮焼の2種類という潔さ。

揚最中はごま油で5秒くらい揚げてから塩をふり、自家製の粒餡を挟んでいる。ごま油の香りとパリパリの食感、伊豆大島産の焼き塩の旨味が際立つ。北海道産小豆の粒餡は、甘さを抑えて固めに煉り上げられていて皮とのバランスが絶妙だ。

南蛮焼は一見どら焼きのようだが、皮の材料は国内産の小麦粉と膨張剤、黒蜜だけ。これらを合わせて水で溶き、銅板に流して蒸し焼きにすることで、ふっくらむっちりとした独特の食感になる。北海道産小豆の自家製の粒餡は最中の餡よりみずみずしい。

経木におさまった姿は粋で絵になる。珍しい手土産として喜ばれる。

左は揚最中。右は南蛮焼。
左は揚最中。右は南蛮焼。
パリッと香ばしい揚最中。
パリッと香ばしい揚最中。
包装紙は里芋の葉の下で蛙が踊る、愛らしいデザイン。
包装紙は里芋の葉の下で蛙が踊る、愛らしいデザイン。

日暮里『羽二重団子』。最中のモデルは夏目漱石の『吾輩は猫である』!?

JR・京成電鉄京成日暮里駅近くの「芋坂」にある『羽二重団子』の創業は文政2年(1819)。夏目漱石の『吾輩は猫である』や正岡子規の『道灌山』などに“芋坂の団子”として登場する老舗だ。初代澤野庄五郎氏が現在地に開いた「藤の木茶屋」がはじまりで、団子のキメが細かく絹織物の羽二重のようだと評判になり、それがやがて菓名となり屋号となった。現在の店主は7代目の澤野修一さん。

名物の羽二重団子は、焼きと餡の2種類。滑らかで粘りがありシコシコとした歯触りが特徴だ。北海道産小豆の渋抜きこし餡で包んだ餡だんごは甘さ控えめでさらりとした舌触り。生醤油を付けて焼き上げる焼きだんごは、餡団子の生地よりもやや固めで適度な歯応えが楽しめる。ミニサイズの団子もあり、ちょっとした差し入れにもぴったりだ。

本店の新しい名物は、『吾輩は猫である』にちなむ猫の形の漱石もなか。2019年の本店リニューアル後に誕生したもので、中には餡団子を一滴のしずくに見立てた「しづくあん」が3粒挟まれている。パリッと香ばしい最中の皮と滑らかな団子の対比が癖になる。

羽二重だんご。手前は焼き。奥は餡。
羽二重だんご。手前は焼き。奥は餡。
同店の常連だった夏目漱石の『吾輩は猫である』にちなむ漱石もなか。
同店の常連だった夏目漱石の『吾輩は猫である』にちなむ漱石もなか。
善性寺門前と谷中墓地を結ぶ「芋坂」にある『羽二重団子』。
善性寺門前と谷中墓地を結ぶ「芋坂」にある『羽二重団子』。
住所:東京都荒川区東日暮里5-54-3/営業時間:9:30〜16:15LO(土・日・祝は10:00~16:15LO)/定休日:無/アクセス:JR・私鉄日暮里駅から徒歩3分

東向島『志゛満ん草餅(じまんくさもち)』。2種類の草餅はよもぎの香りが濃厚!

明治2年(1869)に創業した墨堤通り沿いにある『志゛満ん草餅(じまんくさもち)』。隅田川の渡船場横で茶店としてはじまった同店の名物は草餅だ。草餅は「あんいり」と「あんなし」の2種類あり、俵型の「あんいり」には北海道十勝産小豆の自家製のこし餡が入る。4代目店主の鈴木健志さんによれば、餅7に対して餡3とやや少ないのは、主役の草餅を楽しんでほしいから。渋きりせずに炊く餡は、よもぎの香りに負けない力強い風味だ。

真ん中をくぼませた「あんなし」は、「渡し船を模したのでは」という常連客もいるそうだが、鈴木さんは渡し船の客が食べ歩きしやすいよう工夫した形だろうと話す。大きなくぼみが白みつときな粉を受け止めるので、確かに手づかみでも食べやすい。

草餅の日持ちは当日限りなので遠方への手土産にするのは難しい。代わりに手土産として人気なのが、5日ほど日持ちがする栗きんとんどら焼きだ。えんどう豆餡とバター、さらに栗の甘煮も挟んだ贅沢などら焼き。餡とバターは滑らかでコクがあり、皮はふんわりしっとり。全体の甘さはあっさりしている。

左は「あんいり」。右は「あんなし」。
左は「あんいり」。右は「あんなし」。
墨堤の桜が散りばめられた草餅色のパッケージ。
墨堤の桜が散りばめられた草餅色のパッケージ。
栗きんとんどら焼き。塩味とコクが癖になる!
栗きんとんどら焼き。塩味とコクが癖になる!
住所:東京都墨田区堤通1-5-9/営業時間:9:00~17:00(売り切れ次第閉店)/定休日:水/アクセス:東武スカイツリーライン東向島駅から徒歩11分

浅草『小桜』。老舗料亭の手土産からはじまった粋なかりんとう!

地下鉄浅草駅から浅草寺を抜けた観音裏と呼ばれるエリアにある『小桜』。同店の前身は、明治3年(1870)創業の老舗料亭「福し満」だ。料亭の6代目女将、井田滝子さんが1950年前後に料亭の手土産として考案したかりんとうが人気を博し、平成元年(1989)に息子の井田健爾さんが料亭の隣にかりんとう専門店『小桜』を開いた。

同店を代表するかりんとうは細口の「ゆめじ」だ。プレーン、青海苔、パプリカの3色からなり、甘さは控えめ。歯を当てるとサクサクほろりと砕けてほんのりと胡麻が香る。明治から昭和初期に活躍した画家で詩人の竹久夢二の描く女性をイメージしたそうで、華奢で繊細なかりんとうは、独特の儚さと情感ある夢二の絵と、たしかにどこか重なる。

着物地をイメージして女将がデザインしたというなす紺地に桜の花の散りばめられた包装紙も魅力のひとつ。濃紺の包装紙は丁寧に1枚1枚洗濯ばさみで挟んで干して、1ヶ月もの間乾かしてから納品されるという。

『小桜』を代表するかりんとう「ゆめじ」。
『小桜』を代表するかりんとう「ゆめじ」。
なす紺地に桜の花の舞う粋な包装。
なす紺地に桜の花の舞う粋な包装。
左は詰め合わせ「きさかた(中)」、右は「ゆめじ」と「きなこ」の二種詰め合わせ。
左は詰め合わせ「きさかた(中)」、右は「ゆめじ」と「きなこ」の二種詰め合わせ。
住所:東京都台東区浅草4-14-10/営業時間:10:00-17:30/定休日:日/アクセス:地下鉄浅草駅より徒歩12分

飯田橋『いいだばし萬年堂』。赤飯そっくりの御目出糖って?

JR飯田橋駅・東口を出て左手に進み、大久保通りを100mほど歩いたところにある『いいだばし萬年堂』。江戸時代前期に京都で創業し、明治5年(1872)に東京へ移転した銀座『萬年堂本店』11代目の次男、樋口悠治さんが1993年に独立開業し、現在は息子の秀徳さんと店を守る。

『いいだばし萬年堂』といえばお赤飯そっくりな蒸し菓子「御目出糖(おめでとう)」。脈々と受け継がれてきた伝統の味だ。こし餡に数種類の米粉を混ぜ合わせたものをそぼろ状にして、蜜漬けの小豆をのせて蒸し上げる。甘さは控えめで、もっちりとした食感と小豆の風味がたまらない。

お菓子を贈るときに、「おめでとう」よりも「ありがとう」という言葉の方がしっくりくるシーンは少なくない。そんなときには姉妹品の「ありが糖う」を選びたい。白金時豆の白あんに数種類の米粉を混ぜてそぼろ状にして、小豆の蜜煮を挟み、大福豆の鹿の子をのせて蒸したもの。白あんなので御目出糖よりもあっさりしている。

赤飯にそっくりな蒸し菓子「御目出糖」。
赤飯にそっくりな蒸し菓子「御目出糖」。
ほんのり桃色の「ありが糖う」。
ほんのり桃色の「ありが糖う」。
元和3年(1617)創業の京都「亀屋和泉」の流れをくむ『いいだばし萬年堂』。
元和3年(1617)創業の京都「亀屋和泉」の流れをくむ『いいだばし萬年堂』。
住所:東京都新宿区揚場町2-19/営業時間:10:00~19:00(土は~17:00)/定休日:日・祝(不定あり)/アクセス:JR・地下鉄飯田橋駅から徒歩3分

日本橋『榮太樓總本鋪(えいたろうそうほんぽ)』。本店限定わさびの餅菓子!

日本橋の袂にある和菓子店『榮太樓總本鋪(えいたろうそうほんぽ)』の歴史は、埼玉県で菓子商を営んでいた細田徳兵衛氏が、文政元年(1818)に東京・九段坂に「井筒屋」を開いたことに遡る。日本橋での歴史は、徳兵衛氏の曾孫の3代目細田安兵衛氏が日本橋の袂で屋台店を使って菓子を販売したのがはじまりだ。安政4年(1857)には現在地の旧日本橋西河岸町に店舗を構え、その数年後に安兵衛氏の幼名「栄太郎」にちなみ屋号を「榮太樓」と改めた。

本店限定の「玉だれ」は、明治10年代に誕生した餅菓子で、味の要はなんと「わさび」。伊豆の本わさびを目の細かい銅製のおろし金ですりおろし、砂糖や焼みじん粉(蒸して乾燥させたもち米でつくる)、大和芋を合わせたものを芯にして、求肥でくるりと巻いている。通好みなのでお茶をたしなむ人への手土産におすすめだ。

本店と日本橋にある百貨店数店舗だけで購入できる手焼きのきんつば「名代 金鍔(なだいきんつば)」や、同店を代表する榮太樓飴などは、気取りのない手土産としておすすめだ。

本店限定のわさびの餅菓子「玉だれ」。
本店限定のわさびの餅菓子「玉だれ」。
刀の鍔(つば)を模した「名代 金鍔(なだいきんつば)」。
刀の鍔(つば)を模した「名代 金鍔(なだいきんつば)」。
榮太樓飴(えいたろうあめ)「梅ぼ志飴(うめぼしあめ)」。
榮太樓飴(えいたろうあめ)「梅ぼ志飴(うめぼしあめ)」。
住所:東京都中央区日本橋1−2−5/営業時間:10:00~18:00/定休日:日・祝/アクセス:地下鉄日本橋駅・地下鉄三越前駅から徒歩2分

取材・文・撮影=原亜樹子