昭和のスナックの香りが残る定食屋『コペ』
吉祥寺駅からすぐ。平日でもにぎわうサンロード商店街を脇に入って、飲食店のひしめくプチロードへ。扉には定食のメニュー写真が貼られていて、入り口は狭く店内の様子はわかりにくいが、躊躇せず足を踏み入れよう。
店内は昭和の香りが残っており、女性が3人で忙しく店を回している。「もともと私がスナックをやっていたの。お店で定食を出していたら、それが評判になって定食屋に変えたの。今どきの時代の流れもあってね」とお母さん。スナックらしい店構えも納得、長くこの地で店を守ってきたのだ。
750円で食べられるおふくろの味
毎日のように利用するビジネスマンも多く、ハムエッグ定食やニラ玉定食は、常連の要望から生まれたメニューだという。皆、いつもの食卓として店を利用しているのだ。
ご飯は麦飯と白米が選べ、プラス200円でとろろもつけられる。「麦とろ定食を出しているから、サービスで選べるようにしたの。7割以上のお客さんは麦飯。栄養も豊富だから体にもいいよね」とお母さん。
一番人気の生姜焼き定食に後ろ髪を引かれながらも、他の店ではあまり見かけないメンチ玉子とじ定食を注文する。もちろんご飯は麦飯で。お盆に乗せられてやってきたのは、ご飯、味噌汁、メンチ玉子とじ、副菜にスパゲッティサラダ、もやしの和え物、おからとひじきの炒り煮、納豆と漬物。定食のど直球とも言いたくなる小鉢のラインナップがうれしく、これだけの品数で750円という良心価格に頭がさがる。
左手にお茶碗を持ってかきこむメンチ玉子とじ
メンチ玉子とじは、「熱いのでお気をつけて」の言葉とともに、グツグツと音を立てて運ばれてくる。もうもうとあがる湯気とプルプルの半熟たまごの艶やかなビジュアルに食欲がこみ上げ、脇目もふらずに箸をつける。
メンチカツは衣がつゆでしみしみになっていて、ご飯にワンバウンドさせながらいただく。口に広がるのは気取らないおふくろの味。お茶碗を左手に持ちながら、メンチ玉子とじとご飯を交互にかきこんでいく。
カウンターの向こうにあるテレビを流し見しながら、味噌汁をすする、漬物を食べる。少しセピアがかった店内で過ごす時間が心地よく、『コペ』で食べるご飯は、日常の心がほどかれる束の間のセラピーのようだ。
『コペ』店舗詳細
取材・文・撮影=福井 晶