モノトーンの垢(あか)抜けた自転車屋台が停まっている。幌(ほろ)に「COFFEE」の文字。近付いてみたら、ゴリゴリと豆を挽く音が聞こえた。ドリッパーにお湯が注がれると、そよ風にあおられて香りが誘うようにふわっ。そうなるともう気持ちが高まり、自分も一杯お願いせずにはいられない。
自家焙煎したスペシャルティコーヒーがウリの『COFFEE POST』は、現在、三輪自転車の屋台2台と固定店舗が営業。代表の川島崇嘉さん曰く「この屋台が始まりなので、固定店舗ではなくあくまでここが本店」。本店がまさかの「住所不定(笑)」だ。市内の商店街や観光スポット、郊外にも出向き、屋台の前は束の間、憩いの場に。店名には「人の思いをつなぐポストのように、人と人、地域と人を結ぶ空間を作りたい」との思いを込めた。
鐘つき通りに屋台を出せば、テイクアウトグルメを片手に多くの観光客が身を寄せ、渇いた喉を潤す。通りの先に目をやるとランドマークの「時の鐘」がそびえ、その景色を眺めながらコーヒーを飲むのは気分がいい。百貨店やテナントビルが軒を連ねる駅前のクレアモールに出店すれば、地元の買い物客の割合が増加。
「初めてのお客様も、そこから常連になってくださる方が多いです」と副代表でバリスタの関原洋文さん。さらに、利便性の高い本川越駅前の固定店舗は1坪のコーヒースタンドで、川越散策のスタート地点にもぴったり。「夕方以降は仕事帰りの人など、地元の方が立ち寄ってくれます」と店長の長谷川さんが言う通り、「いつもの」とお気に入りを注文するやりとりも珍しくない。
コーヒーの自転車屋台が今や川越の新名所に
川島さんと関原さんが店を立ち上げたのが、2018年。2人は福島県出身の旧友で、少年時代に「いつか一緒に仕事をしよう」と誓い合った仲だ。『COFFEE POST』を立ち上げる場所に何のゆかりもない川越を選んだのは、「人が温かいから」。自転車屋台がある街角は、昔からの住民にとってもすでになじみのある風景となっている。
焙煎は川島さんの担当。浅煎りから深煎りまで、それぞれの豆が持つ甘みを生かして仕上げる。今秋、成田山川越別院のそばに満を持して焙煎所がオープン予定。豆売りを柱に、また違う角度からコーヒーの魅力を届ける。乞うご期待!
三輪自転車
青空の下、コーヒー談議も弾む
注文を受けてから豆を挽き、一杯ずつ丁寧にハンドドリップ。待ち時間にはぜひコーヒー談議を。カジュアルな屋台の親近感と、香り高い本格コーヒーとのギャップにグッとテンションが上がる。月・火休、出店場所など詳細はSNSで確認。
COFFEE POST Honkawagoe
店舗限定のオリジナルドリンクも
エスプレッソマシンを設置する本川越駅前の店では、ミルクやアルコールを使った固定店舗ならではのメニューが人気。カフェラテは、コーヒー豆の果実味を生かしたすっきりした甘みが魅力だ。腹持ちのいい濃厚バナナジュースなどアザードリンクも選べる。
『COFFEE POST Honkawagoe』店舗詳細
取材・文=信藤舞子 撮影=金井塚太郎
『散歩の達人』2020年10月号より