昭和生まれの団地前にオープンしたカフェ
柏駅から離れた大津ヶ丘は、手賀沼の南側に広がる住宅地。1970年代に、都心で働く人たちのベッドタウンとして整備された大津ヶ丘団地の入り口に『FLEHMEN COFFEE』はある。
昭和ののどかな面影を残す商店街の一角を、ブラブラ歩いてみるのも楽しい。朝7時から開店しているから、おいしいコーヒーで1日を始められる。
この場所で店を開くことになったきっかけについて、オーナーの北木理恵さんは「漠然と“カフェができたらいいね”というところからでした」と話す。
理恵さんが前職を辞めるタイミングと、夫の洋平さんがコーヒーに打ち込んでいた時期が重なり、店作りが動き出した。
洋平さんは柏市高柳のスペシャルティ自家焙煎珈琲店『ease coffee (イーズコーヒー) 』で約2年間、ハンドドリップから焙煎まで学んだ。本業の傍ら店に立つが、その腕前は「Chiba Brewers Cup 2025」で優勝したほどだ。
「本業があるので、店の営業はできる範囲で。好きでやっている部分が大きいですね」。
そして2026年1月、元新聞販売店だった建物を改装し、自宅から近いこの場所にオープンした。物件を見つけたのは前年の夏だというから、“初めての店”にしては急ピッチでの開店。しかしながら、レトロな雰囲気をそのまま生かした店づくりはこの街にピッタリとハマっている。
オープン当初は「ここで本当にやっていけるかな」と心配していた理恵さんだったが、開店から間もなく常連客がつき、現在はモーニングやランチに加え、ティラミスやバスクチーズケーキなどのスイーツもそろいメニューも安定してきた。
現在は1Fのみで展開しているが、「いずれは2Fをワークショップができる場所として解放したい」と理恵さんは展望を語る。
果実味のある浅煎りコーヒーと王道のピザトースト
コーヒー豆はその時々で状態のいい豆を選りすぐり、店内で自家焙煎する。スペシャルティコーヒーでありながら、看板のフレーメンコーヒーは400円。構えずに楽しめる価格もうれしいではないか。
さっそくフレーメンコーヒー400円とピザトースト400円をオーダー。コーヒーとフードをオーダーすると100円引きになる。
この日のフレーメンコーヒーは浅煎り。豆にお湯を注ぐとたちまちやわらかな香りが立ち込める。洋平さんがドリッパーに向かう姿は、競技会のような集中力を思わせる。
洋平さんのコーヒーは、苦みの強さで飲ませるのではなく、豆の個性を引き出して香りや後味の軽やかさを楽しませる一杯だ。
「最初は砂糖やミルクを入れていた方が、だんだんブラックでも飲めるようになったりして」と話す洋平さんの表情はどこかうれしそうだ。
豆の販売も行っており、今後は30gほどの少量から試せる形も検討中だ。自宅でも気軽に淹れられるように、コーヒー講座や飲み方の提案も視野に入れている。
フードを担当するのは理恵さん。「本当は、お菓子作りはあまり得意じゃないんです」と言いながらも、何度も試作を重ねてきた。ピザトーストやスイーツには、そんな地道な工夫がにじんでいる。
「本当はフォカッチャやベーグルもやりたいんですけど、まだそこまでは手が回らないんです」と、理恵さん。
できることを少しずつ。そんな積み重ねが今の形になっている。
まずはフレーメンコーヒーをひとくち。口に広がるフルーツのような甘酸っぱさと爽やかな酸味が口の中でふわり。ほどよい苦みと酸味、飲んだ後のキレがいい。
ピザトーストは、甘めのピザソースとタマネギ、ピーマン、ハム、たっぷりのチーズ。ふんわりした食パンに食材のコクが重なり、コーヒーの爽やかさがよく合う。
団地の暮らしに溶け込むコーヒー時間
常連客の中には、団地に住む人たちも多い。朝7時の開店と同時に、新聞を持って訪れる人もいれば、近くの病院で受付を済ませ、診療までの時間に立ち寄る人もいる。
幼稚園や小学校が近く、子供の行き来も多いこの場所。団地の住民がふらりと入ってくる一方で、週末には遠方から訪れる客もいる。
店を始めるまでは意識していなかったが、店を構えたことで、この場所を行き交う人の流れがはっきりと見えてきたという。
毎朝コーヒーを飲みに来る団地の常連、病院帰りの人、幼稚園や小学校の行事のあとに立ち寄る母親たち。駅前のようなにぎわいはなくても、店の前の道には人の流れがある。
その様子を眺めながらコーヒーを飲んでいると、『FLEHMEN COFFEE』がこの街の日常にすでに溶け込んでいることがわかる。団地の入り口にあるこのカフェは、暮らしの途中でふと立ち寄れる、頼もしい居場所になっている。
取材・文・撮影=パンチ広沢






