変わらぬ街の魅力を残す蒲田へ
東京のどの街が好きかと問われれば、好きなところだらけでしぼりきれないものの、はじめのほうに名前をあげたくなるのが、蒲田。どんどんピカピカになってゆく東京にあって、人の暮らしが付けた年輪のようなものが、まだまだあちこちに感じられる街だからだ。駅前アーケード商店街も活気があり、しみじみとした色合いになった、こぶりな昭和ビルもちらほら残っていて、街に味をつけている。
まず、駅ビルの『東急プラザ蒲田』からしてそうだ。この商業ビルが昭和43年(1968)に開業して以来営業し続けている喫茶店へと本日は向かう。
――今日、おじさんはここで、ホットケーキ食べるよ。パンケーキじゃないよ、ホットケーキだよ。
そう、ここ『シビタス』を訪れる人の、
「9割……いや、全員が頼むかな」
店長の黒川義正さんがほほえむほどの名物なのである。
引き継いだ味を素材にこだわって作る
昭和初期に創業、皇室とも取引のあった果物店・神田須田町「万惣フルーツパーラー」の蒲田支店が、この店の前身なのだ。最上の小麦粉をはじめ、卵、牛乳、砂糖、バターに至るまで、高品質なものを使って焼き上げたホットケーキは「万惣」の代名詞だったが、店は惜しまれつつ閉店、その味を引き継ぐのは、もはや、『シビタス』のみ。
とはいってもこのご時世、そんなに素材にこだわっては、仕入れは大変なんではないだろうか。
「材料費は高いですよ(笑)。でもこの店の親会社は青果の卸をやって千疋屋さんにも卸しているくらいですから、果物などは特に質のいいものを安く入れられますし、なるべく店内で手作りして、良いものをお出ししていますよ」
黒川さんは話しながら早速ホットケーキ作りにかかる。その作業を見つめていたら、おもむろに冷蔵庫から取り出した牛乳からして低温殺菌牛乳だった(これ、スーパーで買っても、ふつうの牛乳よりちょっとお高い)。
こうした材料もチラ見できるのはもとより、調理場全体がカウンター席から見渡せるような造りになっている。これは、自信の表れだと私には思えた。ホットケーキを焼き上げる銅板の焼き台も丸見え。どこもかしこも、ピカピカだ。
余談となるが、私は古びた店に惹(ひ)かれる者のひとりだけれど、汚い店にはそうではない。似ているが違う。おいしいお店の多くは、年季の入ったしつらえであっても、手入れが行き届いている。
手作りの甘味でひといきつける幸せ
黒川さんは材料を手元にそろえると、ボウルからおたまですくった生地を、手早く、まあるく鉄板に落とし広げ、じっくりと焼いていく。
「土日には250食でることもありますよ」
まとまった休憩をとらずに夕方16時頃の完売まで、毎日焼き続ける。万惣以来の製法で焼けるスタッフは、もはや、黒川さん含め二人しかいない。
さあ、運ばれてまいりましたホットケーキ。まずはそのままバターだけをすこし付けてひと口。もう、間違いない。うまい! サックリとした表面と、中面のふんわり感。
「実は、中心部は『半生』状態なんですよ」
もちろん火は通っているのだが、ほんのわずかな層を皮一枚、やわらかく残すのだそうだ。これが独自の口当たりを生む。
続いてメイプルシロップを回しかけてひと口。これよこれ。そして、ブラックコーヒーを熱いうちにずずとすする。最高、以外言葉がない。駅前一等地に、この穏やかな雰囲気の空間で、手作りの甘味でひといきつけるというのは、蒲田住民はほんとうに幸せなことだと思う。
取材・文・撮影=フリート横田








