都内のラーメン店で店長を務め、入念に準備して独立
都内でラーメン激戦区として知られる中野エリアでは、新旧さまざまなラーメン店が日々しのぎを削っている。開店前から行列ができるラーメン店『麺や 晴心』があるのは、中野区と新宿区の境界あたり。最寄りの落合駅から徒歩1、2分、東中野駅からは徒歩8分の場所だ。
店主の髙野将弘(たかのまさひろ)さんいわく、店名には「一杯で心が晴れるように」という意味が込められている。言われてみれば店名が書かれた看板は、雲ひとつない空のような青色だった。
「ラーメン屋として独立・開業したかった」と語る髙野さん。まず2020年に亀戸の有名店『亀戸煮干中華蕎麦 つきひ』で店長を務め、2022年からは北千住にできた2号店『北千住煮干中華蕎麦 かれん』の店長を任された。そして2024年11月に念願だった独立を果たし、現在に至る。
「絶対に失敗したくなかったので、お店を出して大成功している人の話をたくさん聞きましたね。店長をやって、先輩や横とのつながりを大事にするとか、お金の管理とか、マネジメントの仕方を学びました。ぼくはビジネスがしたかったので、数字には結構うるさいほうだと思います」
開業時の物件選びにも抜かりはなく「行列ができてもいいように大通り沿いで、1階の路面店」にしたそうだ。「最初から行列ができる想定だったのは、ちょっと調子に乗っていますけど」と髙野さんは快活に笑う。
入念な準備の甲斐あって、首都圏のラーメン店を対象とした年間アワード「第26回 TRYラーメン大賞 2025-2026」では新店大賞の3部門で第1位を受賞した。しかし髙野さんは「まだ油断できない」と堅実な姿勢を崩さない。
流行も意識してつくられた特製手揉み中華そばに感服
初来店の人には、特製手揉み中華そば(醤油)1550円と、炭火つるし焼豚丼500円がおすすめだという。それらを注文すると、髙野さんはスープを沸かしつつ麺を揉む作業に取り掛かる。
麺は「菅野製麺所」のものを使用しており、原材料は「餅姫」と呼ばれる国産もち小麦100%なのが特徴。また番手(麺の太さを表す規格)は8番で、うどんのように太い。
「ぼく自身、こういう麺が好きなのもあるんですけど、もち小麦が流行っているのも、この麺を選んだ理由です。トレンドは意識していますね」
醤油ダレは、生揚げ醤油をはじめ、たまり醤油や白醤油などをブレンドしている。
「生揚げ醤油は簡単に言うと、加熱処理をしていない生の醤油のこと。醤油って普通は加熱するんですけど、加熱しないほうが香り高いんです。うちは色も重視しているので、6種類の醤油を使って、今っぽい濃い色にしています」
ベースとなるスープには、動物系と魚介系の2つを合わせており、材料は約30種類にのぼる。動物系スープの主な材料は、地鶏の長州黒かしわ、豚ガラやゲンコツといった豚骨、7種類の香味野菜。魚介系スープは、本枯れ節と呼ばれるかつお節、煮干し、昆布、シイタケなどからとったものだ。
スープの味に関して、髙野さんは「時代とともに変えていくべき」だと考えている。
「ラーメン業界は流行り廃りが激しいので、味は開業してからだいぶ変えていますね。『よくわかんないけどおいしい』みたいな、複雑な味を目指しています」
具材は焼豚(チャーシュー)2種類、鶏チャーシューのほか、長ネギ、九条ネギ、穂先メンマ、味玉、海苔。焼豚2種類は、岩手県の銘柄豚「岩中豚」の肩ロースと、茨城県の銘柄豚「梅里豚」のバラだ。「岩中豚もトレンドですね。流行っているものを入れたいので」とのこと。
特製手揉み中華そばの盛り付け完了後、炭火つるし焼豚丼の用意もできたので、さっそく中華そばから味わってみる。
スープをひと口すすると、醤油の上品な風味とともに、かつお節や煮干しなどの出汁が香る。あとから豚骨系のパンチも感じられて飽きがこない。
太めの縮れ麺はモッチリしていて適度なコシもある。口の中にほんのり広がる小麦の香りが、重層な醤油スープと絡み合い、絶妙な相乗効果を生む。
岩中豚の肩ロース焼豚と梅里豚のバラ焼豚は、どちらも1日以上タレに漬け込んでから当日に吊るし釜の炭火で調理している。銘柄豚の柔らかい肉質と、旨味が濃縮されたような味わいに思わずほれぼれ。また鶏チャーシューのジューシーな食感は、低温調理ならではだ。
焼豚丼には、中華そばの具材と同じ焼豚2種類が使われている。ただし焼豚丼の肉は、焼豚をカットした際に出る端っこを刻んだもの。そのため味が濃くてカリカリした食感に仕上がっている。中華そばに入っている焼豚とはひと味違うので、ぜひ食べてみてほしい。
中華そばと焼豚丼を完食し、セルフサービスのお水を飲みながら、しみじみと思った。「TRYラーメン大賞」新店大賞1位の実力は伊達ではない、と。
成功するためには味だけでなく人が大事
取材当日は営業開始前にお時間をいただいた。11時オープンにもかかわらず、10時過ぎからお客さんが並び始める。粛々と開店を待つ様子から、みんな常連さんなのだろうと察しが付く。それでも髙野さんは「リピーターをつくらないと、飲食店は潰れちゃうんです」と慎重だ。
「10年以上残るラーメン屋は3割しかないと言われています。おいしいだけじゃ売れないんですよ。もちろん味も重要だし、常においしいものをつくる努力はしますけど、根幹は味じゃなくて人だと思います」
いまはSNSの時代だが、たとえ「1000いいね」付いたとしても、一見さんがリピーターになるとは限らない。ラーメン店の成功につながるのは「SNSはあげないけど週1で来るお客さん」の存在なのだ。そこで髙野さんに心掛けていることを聞くと「ギバー(与える人)になる」という答えが返ってきた。
「モテる男はギバー、って言いますよね。ギブアンドテイクの関係で、奪う人はダメ、先に与える人になるみたいな。それはお客さんも従業員も業者さんも、家族との関係だって全部そうです。『情けは人の為ならず』の本当の意味は、巡り巡って自分に返ってくるってことなので。商売は絶対にそうだと思いますね」
今後の目標は「2号店をオープンすること」だが「まずはこの店を続けることが大事」だと髙野さんは言う。続けて「自分だけの店ではなくなっているから、みんながハッピーになれたらいいな」と、いまの思いを語った。
料理人としての腕前と、経営者としての手腕を兼ね備え、決して勉強と努力を惜しまない。『麺や 晴心』の成功の陰には、そんな髙野さんのひたむきな人柄がある。
取材・文・撮影=上原 純








