フロアが替わると異なる宇宙が広がる
専門書を大事にすることが、品揃えの指針です。来店した方に、探していた本がないという残念な思いをさせたくない。マニアックな本でも必要とされているのであれば揃えておくというこだわりは、スタッフみんながもっていると思います。
そうはいっても、専門書を仕入れるのは簡単なことではないので、先輩たちの情報収集術の共有に加えて、自分たちの努力も必要。かつて人文書を担当していたときは、学問全般について広く知っておかないと棚をつくることができなかったので、図書館に行ったり、その分野の概論が書かれた本に目を通して全体像をつかもうと日々勉強でした。棚をつくるときは、誰を対象にして書かれた本なのかをくみ取ることが大事なんです。専門書のフロアは、棚を見ることで体系的なものが感じられるように心がけています。
1階に“ツインタワー”という売り場があります。毎日入荷する新刊から、ご来店くださる方が関心のありそうな本を選んで並べています。近隣の大学や専門学校などに通う学生さんや教育関係者に関心を持ってもらえそうなアカデミックタワー、豊島区は漫画カルチャーで街づくりをしていることもあり、その需要に応えるカルチャータワーの二本柱が池袋本店らしいですね。
この店舗が開店したのは1997年。当時の東通りは閑散としていたそうです。ここ10年くらいで、こだわりのある飲食店が増えてきたし、近くの南池袋公園も様変わりして明るくなりました。池袋はターミナル駅のなかでも、どこかあかぬけない部分があって、その名残がある西口や北口と、再開発された東口が共存して、不思議なまじわり具合になっているところに魅力を感じています。
私は新卒で2001年に入社しました。最初は池袋本店に1年半、次に大宮ロフト店(閉店)に2011年まで、その年の2月に池袋本店に戻って今に至ります。大宮時代に人文書担当になり、池袋でも哲学、思想、歴史、宗教、心理、教育などの棚をつくりました。学問のベースとなる分野なので、仕事とはいえ学べるのがすごく楽しかった。勉強して得た知識を棚に反映させるとそれが売り上げにもつながるので、自分のモチベーションにもなりました。
今は、イベントや話題書を担当しています。書籍をいかに販促できるか考える役目ですね。新刊が出るタイミングでイベントを組むことが多く、発売したという認知につながって、本を買うきっかけになってくれればと。
1階の雑誌売り場にリトルプレスの棚があるんですが、以前、「人文系リトルプレス市」という即売会をイベントスペースで開催しました。諸事情から、常設の棚ではお取り扱いできないものもあって、ご自身が来て販売する場を設けることで、市場には乗らないものを直接買える機会をつくることができたんです。本を選びに来た人の発見の場になるようなイベントを、これからもやっていきたいと思ってます。
森さんイチオシ本
『ルポ 池袋アンダーワールド』中村淳彦、花房観音/大洋図書
「池袋に残っているちょっとダークな部分が魅力的でおもしろいと思います」
取材・文=屋敷直子 撮影=逢坂 聡
『散歩の達人』2025年11月号より





