フロアが替わると異なる宇宙が広がる

ビル1棟まるごと書店という楽園。
ビル1棟まるごと書店という楽園。

専門書を大事にすることが、品揃えの指針です。来店した方に、探していた本がないという残念な思いをさせたくない。マニアックな本でも必要とされているのであれば揃えておくというこだわりは、スタッフみんながもっていると思います。

そうはいっても、専門書を仕入れるのは簡単なことではないので、先輩たちの情報収集術の共有に加えて、自分たちの努力も必要。かつて人文書を担当していたときは、学問全般について広く知っておかないと棚をつくることができなかったので、図書館に行ったり、その分野の概論が書かれた本に目を通して全体像をつかもうと日々勉強でした。棚をつくるときは、誰を対象にして書かれた本なのかをくみ取ることが大事なんです。専門書のフロアは、棚を見ることで体系的なものが感じられるように心がけています。

4階は人文・教育・心理。見応えのあるフェアを開催。
4階は人文・教育・心理。見応えのあるフェアを開催。
著者別で探しやすい工夫も。
著者別で探しやすい工夫も。
7階は理工書。自然科学、農業、生物学など。フロアごとに風景と空気感が変わるのも楽しい。
7階は理工書。自然科学、農業、生物学など。フロアごとに風景と空気感が変わるのも楽しい。

1階に“ツインタワー”という売り場があります。毎日入荷する新刊から、ご来店くださる方が関心のありそうな本を選んで並べています。近隣の大学や専門学校などに通う学生さんや教育関係者に関心を持ってもらえそうなアカデミックタワー、豊島区は漫画カルチャーで街づくりをしていることもあり、その需要に応えるカルチャータワーの二本柱が池袋本店らしいですね。

ツインタワーの品揃えは、毎日すこしずつ変わる。旬の本が揃っている。「『発見の場』になるような棚づくりを心がけています!」。
ツインタワーの品揃えは、毎日すこしずつ変わる。旬の本が揃っている。「『発見の場』になるような棚づくりを心がけています!」。

この店舗が開店したのは1997年。当時の東通りは閑散としていたそうです。ここ10年くらいで、こだわりのある飲食店が増えてきたし、近くの南池袋公園も様変わりして明るくなりました。池袋はターミナル駅のなかでも、どこかあかぬけない部分があって、その名残がある西口や北口と、再開発された東口が共存して、不思議なまじわり具合になっているところに魅力を感じています。

池袋本店のすぐ横を走る東(あずま)通りはにぎやかだ。
池袋本店のすぐ横を走る東(あずま)通りはにぎやかだ。
南池袋公園。芝生が敷き詰められ陽当たり良好な憩いの場。
南池袋公園。芝生が敷き詰められ陽当たり良好な憩いの場。
西口にはガチ中華の店多数。
西口にはガチ中華の店多数。

私は新卒で2001年に入社しました。最初は池袋本店に1年半、次に大宮ロフト店(閉店)に2011年まで、その年の2月に池袋本店に戻って今に至ります。大宮時代に人文書担当になり、池袋でも哲学、思想、歴史、宗教、心理、教育などの棚をつくりました。学問のベースとなる分野なので、仕事とはいえ学べるのがすごく楽しかった。勉強して得た知識を棚に反映させるとそれが売り上げにもつながるので、自分のモチベーションにもなりました。

今は、イベントや話題書を担当しています。書籍をいかに販促できるか考える役目ですね。新刊が出るタイミングでイベントを組むことが多く、発売したという認知につながって、本を買うきっかけになってくれればと。

1階リトルプレス売り場。
1階リトルプレス売り場。

1階の雑誌売り場にリトルプレスの棚があるんですが、以前、「人文系リトルプレス市」という即売会をイベントスペースで開催しました。諸事情から、常設の棚ではお取り扱いできないものもあって、ご自身が来て販売する場を設けることで、市場には乗らないものを直接買える機会をつくることができたんです。本を選びに来た人の発見の場になるようなイベントを、これからもやっていきたいと思ってます。

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森さんイチオシ本

『ルポ 池袋アンダーワールド』中村淳彦、花房観音/大洋図書

「池袋に残っているちょっとダークな部分が魅力的でおもしろいと思います」

住所:東京都豊島区南池袋2-15-5/営業時間:10:00~22:00/定休日:無/アクセス:JR・私鉄・地下鉄池袋駅から徒歩2分

取材・文=屋敷直子 撮影=逢坂 聡
『散歩の達人』2025年11月号より

専門書店が立ち並ぶ神保町界隈(かいわい)にあって、作家たちもネタ探しに立ち寄るのが大型の新刊書店だ。フェアやイベントも多々。独自目線でセレクトした、他の街とちょっと違うラインアップにも心が躍る。
いま、チェーン店ではない、少人数で運営し、店主自らの意思で本を並べる本屋さんが着実に増え続けている。扱うのは本だけではない。雑貨類はもちろん、イベントスペースがあったり、カフェが併設されていたり。ひと口に「本屋さん」といっても枠にとらわれない気ままな形で、穏やかな雰囲気の店ばかりだ。店主も十人十色。ある店主は編集者として、ある店主はバンドマンとして、またある店主は縁起熊手の職人として活躍した過去を持つ。自由自在な空間は、彼らが紡いできた物語の先で、確かに作られているのだ。今回紹介するのは、移転オープンを含む2021年以降に扉を開いた都内の本屋さんたち。楽しみ方は無限大。さて、どこから巡る?