埼玉県北の郊外出身の私にとって、東京のちょっと郊外、というのはいつも気になってしまうエリアでありテーマ。行きやすいのにこのコロナ禍で気軽に出かけられないので、うずうずしてしまうあたりである。
まず思い出したのは村上龍の『昭和歌謡大全集』。個人的な思い込みだが、2~3時間で書き上げてしまったのではないかと思われるほどのいい意味の適当さと、テンポのよさ。有名昭和歌謡の曲とともにニートの若者グループvsおばさんグループの殺し合いが描かれるが、印象的だったのが、調布に住む主人公のニートたちがなぜかトカレフ(!)を埼玉と群馬の県境に買いに出かけた際の描写。ノリのよさの中に郊外ならではの鬱屈さや退廃さなどが浮かび上がって、リアルに自分の故郷を突き付けられた気分だった。
宮本常一『民俗のふるさと』は最初の章が「都会の中の田舎者」。県人会のことや東京の中に残っている古い東京の話もあり、東京をはじめとする社会のなりたちが民俗学者目線で語られるのがわかりやすく、たまに開いてしまう。
牧秀彦『剣豪全史』は書名で買ってしまった一冊。関東周辺には、最古の剣技といわれる古墳時代後期の鹿島の太刀も関東なら、新当流の塚原卜伝(茨城県)や新陰流の上泉伊勢守信綱(群馬県)もちょっと郊外が出身地なのだ。町道場の章には、新選組の天然理心流にも言及。剣豪というテーマで関東郊外の誇りを感じることができる。
それぞれ方向性は違うものの、郊外の文化や風俗を感じに出かけてしまいたくなる3冊だ。
『昭和歌謡大全集』村上龍 著
調布、熊谷などちょっと郊外が舞台
孤独なコンピューターおたくの6人グループと、全員ミドリという名前の「ミドリ会」というおばさんグループの殺しの報復合戦なのだが、東京郊外の各地で仕入れたトカレフ、ロケットランチャーなどの武器を使用する荒唐無稽さと、言葉遊びの多用でテンポよく読める。1997年/集英社文庫
『民俗のふるさと』宮本常一 著
村や町の成り立ちと習俗の深い関係
実態調査を元に、村や町がどのように発達してきたかをまとめたコミュニティ論であり日本社会史。他地方から東京に移り住んだ人の中で一番多かったのはどこか(じつは千葉県)とか、平城京や平安京などの都も地方から人口を集めてきたことにも言及。2012年/河出文庫(1964年初版)
『剣豪全史』牧 秀彦 著
ざっくり知りたい剣豪の系譜
伝説やエピソードが独り歩きし、バラバラに捉えられやすい剣豪たちを、歴史的に彼らが果たした役割を軸に整理した一冊。古墳時代から江戸時代前期までの流派の系譜や最後の剣豪全史のチャート図もあり。欲をいえば幕末までの流派の年表も見たかった。2003年/光文社新書
ついでにもう一冊!『山を下りたら山麓酒場』清野 明 著
登山後こそ、その店の本当の魅力がわかるのです
山歩きの後のお酒の旨さを味わうべく、東京周辺の山を下りた後のお店にこだわってまとめた一冊だが、編集担当の私もこの中の10軒以上を著者とこの本の制作も兼ねて?行っている。中でも『一福食堂』のかつ煮&ワイン、また食べに行きたいな~。
文・撮影=土屋広道