事故を防いで危険から人を護るガードパイプ

道路沿いに設置されたパイプ製の柵、通称「ガードパイプ」。岡元大さんは、10年以上、ガードパイプの鑑賞を続けている。

「もともと路上観察が好きで、同僚と一緒によく自転車で、団地や給水塔、廃線、廃道などを見に繰り出していました。道中も色々と気になったものの写真を撮る過程で、自然とガードパイプが写り込むことがありました」

「ある時、府中の団地を見に行く途中で偶然、市の鳥のヒバリがモチーフになったガードパイプを見かけて、『色のついたガードパイプがあるんだな』と写真を撮りました。これが、はじめてガードパイプを意識した最初の1枚です。それ以来、ガードパイプを見かけるたびに写真を撮るようになりました」

どんな街でも、道路沿いを歩いていれば、必ずと言っていいほど見かけるガードパイプ。そもそも、どのような目的で設置されるものなのだろうか。

「道路に設置されている様々な種類の柵は、『防護柵』と総称されます。防護柵は、車に対する『車両用防護柵』と、人に対する『歩行者(自転車)用防護柵』の2種類に分けられます。『ガードレール』と呼ばれる白い鉄板が波打った柵は、『車両用防護柵』です。車が歩道や路肩、対向車線に逸脱するのを防ぐために設置されるものです。

一方、鑑賞の対象にしている​​『ガードパイプ』は、正式には、歩行者の道路横断を防止する『横断防止柵』と呼ばれるものです。

便宜上、パイプ製のフレームワークで意匠が施された柵を『ガードパイプ』と総称して、鑑賞しています」

自転車の車輪に文字。バリエーション豊かなデザイン

ひとくちに「ガードパイプ」と言っても、よくよく着目してみると、デザインのバリエーションが豊富だ。

「日本の道路には、国が管理する国道、都道府県が管理する県道、市区町村が管理する市道、個人や法人が管理する私道などがあります。そのため、どこが道路を管理しているかで、ガードパイプのデザインが変わってくるんです。例えば、いわゆる『目型』と呼ばれるガードパイプは、国道に設置されているものです。先ほどご紹介したヒバリのガードパイプは、府中市が管理する市道に設置されたものなんです」

これまで3000点以上ものガードパイプを写真に収めてきた、岡元さん。本来のガードパイプは、歩行者の横断防止。そのため、人口が多く、人が道路を渡る機会の多い地域ほど、様々なデザインが見られるという。

「特に東京や千葉、神奈川、埼玉といった首都圏は、バリエーション豊富ですね。地方の中心都市も面白かったです。特に福岡をはじめ九州は、ユニークなガードパイプがたくさんありました」

「写真は、熊本の市街地にある市道で見かけたものです。熊本独自の花である『肥後六花』をモチーフにした、きれいなステンドグラスがはめ込まれていました。冷静に考えると、ガラスにぶつかったら割れてしまいそうですが、交通量の少ない通りだったので実現したんでしょうね」

「写真は、福岡の久留米市で見かけた、自転車の車輪がモチーフになったガードパイプです。久留米は、ブリヂストンの城下町。久留米に行くことになった時、『自転車のガードパイプがあったらいいな』と思っていて、実際に行ってみたらあったので、うれしかったですね。

久留米は他にも織物をモチーフにしたガードパイプなど、ユニークなガードパイプがたくさんある“ガードパイプ王国”でした」

ガードパイプのデザインにはこのように、地域を象徴する名産品のほか、動植物や文字などがモチーフになったもの、幾何学模様のタイプなど、様々な種類がある。

「市の花木や鳥、市章などが描かれたプレートがはめ込まれたものもあります。東京の多摩地区でよく見かけるので、勝手に『多摩地区型』と呼んでいます」

「写真は、江戸川区にあったガードパイプ。『川』の字がモチーフになっています」

「写真は、杉並区で見かけた、チューリップのガードパイプ。並ぶとお花畑みたいになるんです。お気に入りで、事あるごとに紹介していますね。

新しく設置されるガードパイプは、条例もあって基本的に白や茶、黒など、街の景観に馴染む色が主流ですが、バブル期など少し前の時代に作られたものは、割と華美なデザインが多かったようです。このチューリップのガードパイプも、おそらくバブル期の頃に作られたものだと思います。

車がぶつかったりして歪んでしまうと、最新のものに交換されてしまうので、誰もぶつからないでほしいですね。通行止めにしてほしいくらいです(笑)」

「このフレームワークと材料でよく表現したな」

岡元さんが2023年12月に上梓した書籍『まちかどガードパイプ図鑑』(創元社)では、これまで撮影したガードパイプがたくさん紹介されていて、楽しい。

「過去に撮影したガードパイプ約300点を図鑑形式で紹介した本です。花や木、文字、動物など約190種類のモチーフ別に分類しています。日本の主たる鉄鋼会社が参加する鋼製防護柵協会の皆さんや、『境界協会』を主宰する小林政能さんなど、有識者との対談も掲載されています」

あらためて岡元さんが思う、ガードパイプの魅力を伺ってみた。

「ガードパイプは基本的に量産品です。限られた材料やシンプルなフレームワークの中で、モチーフとなったものがぎりぎり表現されているところが魅力です。区章やピクトグラム、団地などのデザインにも通ずるかもしれません。

デザインからちゃんと地域の特色が見えると、『このフレームワークと材料で、よくこれを表したな』と、ものすごくグッときますね。ガードパイプを見て、デザインのモチーフとなっているものを読み解いて気づく瞬間も、気持ちいいです」

無駄な要素が削ぎ落とされ、限られたシンプルな線の中でギュッと特色が凝縮された、ガードパイプのデザイン。

どんな地域でも気軽に見つけられる対象物だからこそ、岡元さんの著書を通して解像度が上がれば、普段過ごす街や旅先など、場所を問わず楽しめるようになるだろう。

 

取材・構成=村田あやこ

※記事内の写真はすべて岡元大さん提供