揚げ蒲鉾の具材として用いられるおでんのイカ
イカは日本人にとって身近な存在だ。日本近海には140種類ほど生息しており、そのうち30種類ほどが食用されている。
代表的なのはスルメイカ、ヤリイカ、ケンサキイカ、コウイカ、ホタルイカなどで、刺し身や干物、焼き物や炒め物などあらゆる料理に使用されている。
おでんでは揚げ蒲鉾の具材として用いられることがほとんどだ。代表的なのはゲソ(イカの足)を使ったげそ巻、胴体を細く切って巻いたイカ巻、細かく刻んですり身に混ぜたイカ揚やイカ天だが、すりつぶして団子状にするイカつみれ(イカ団子)にも利用される。
お店ではあまり見かけることはないが、イカを切ってそのまま煮ることもある。東北などでは魚介類をおでんに加えることがあるが、その中にイカが含まれる場合がある。
タコに比べて登場する機会が少ないのは、すぐに味が染み込まず、長く煮ると身が縮んでしまうからだろうか。理由は判然としないが、味の組み合わせとしては相性がいい。
意外に簡単! イカのさばき方
ここからはおでんにおけるイカの調理方法を紹介したいと思う。まずはイカをさばいていこう。
魚に比べてイカをさばくのは簡単だが、鮮魚店では煮物用にさばいてくれるところが多いので、そちらを利用してもいい。
どの種類を選んでもかまわないが、スルメイカ(マイカ)は比較的容易に手に入り、煮物にしてもおいしいのでおすすめだ。写真は刺し身用の白イカ(ケンサキイカ)となる。
イカの胴体に指を入れ、頭と繋がっている部分を探り当てたら丁寧に分離する。顔の上あたり2cm程度を切り離し、ゲソとエンペラ(耳・ヒレ)をつかんでゆっくり引っ張っていく。
目の上あたりに包丁を入れて、ワタと頭(ゲソ)を切り離す。目は包丁で切ってしまってかまわないが、切れ込みを入れてから指でえぐり出してもいい。
ワタは今回使わないが、炒め物のたれなどに使用するとコクが出ておいしい。使用する際は墨袋を取り除いておく。ゲソ側から指でつまむと綺麗に剥がすことができる。
ゲソの付け根中央をめくってクチバシを取り出す。「イカトンビ」と呼ばれるこの部位は、煮ても焼いてもおいしい珍味とされている。筆者は赤提灯のお店でよく味わっている。
ゲソの付け根に包丁を入れて2本ずつ切り分けていく。長い2本の脚は短いほうの長さに切り揃え、先端部は食べるのに適さないので捨ててしまおう。
脚には細かな吸盤が付いているので、包丁を使ってこそぎ落とす。塩を振って指でこすり落としてもいい。
胴体の中にある軟骨を取り出してから、流水をかけながら残っているワタを指で丁寧に掻き出す。リングにしないのであれば包丁で開いてしまおう。そのほうが内側を洗いやすい。すべて綺麗に洗い流したら、キッチンペーパーなどで水気を切っておく。
胴体からエンペラを取り外す。付け根に指を押し込んだら、皮と一緒にぐっと引っ張る。包丁を使わなくても取れるので、焦らずに行おう。
これで大方のさばきは完了だ。皮を剥いてもいいが、煮物であれば食感は気にならないためそのままにしておいてもいい。
胴体やエンペラは、さらに食べやすい大きさに切り分けていく。リングにしたり、平たく切ったり、串に刺しても雰囲気が出る。最終的な仕上がりを想像しながら進めていこう。
これでイカの下ごしらえは完了だ。イカの身はつるつるして弾力があるので、魚をさばくよりも簡単だと思う。おでん以外の料理に応用できるので覚えておくといいだろう。
おでんとしてイカを煮る
イカが綺麗にさばけたら、あとはおでん汁で煮るだけだ。イカを煮る方法はふたつほどある。
ひとつはさっと煮る方法だ。イカは長時間煮ると味が染みるが、かなり収縮してしまう。これを避けるために弱火で3〜5分程度温める。
収縮も抑えられ、弾力のある食感を保っているが、おでん汁は染み込まないため少し味気ない。この場合はつけだれを用意するといいだろう。
おすすめは北海道や東北地方のおでんのつけだれで有名な生姜味噌だ。この地方のおでんは魚介類が入っていることが多く、イカとの相性も抜群だ。作り方は酒を煮切ってアルコールを飛ばし、赤味噌(津軽味噌)とみりん、出汁を加えて沸騰させる。あら熱を取ったら皮付きのまますり下ろした生姜を加えて完成だ。
身が小さくなってしまうが、じっくり煮る方法はしっかり味が染み込んで王道のおいしさとなる。時間は30〜40分程度、弱火で煮ればいい。ほかのおでん種に色が移るので、気になる方は別鍋で調理してもいいだろう。
身は口の中でほろりと溶けるように柔らかく、出汁の深みとイカのうまみが見事に融合して極上の味わいとなる。ふたつの調理法を試してみていただき、好みにあったものを探り当ててみてほしい。
取材・文・撮影=東京おでんだね