猫飛伝説とは

昔、上練馬村の住民である男が中村橋付近の川で練馬大根を洗っていたところ、上流から溺れかけている猫が流されてきました。

男は咄嗟に練馬大根を猫に差し出し、猫を救助。

家において「猫飛(にゃんぴー)」という名前をつけ、大変可愛がって暮らしました。

しかしある時、元の飼い主のもとに戻ったのか、猫は突然姿を消してしまいます。

猫がいなくなって数年後、男は足の怪我で仕事ができず、生活に困っていました。

するとある朝、納屋の前に一枚の小判が置いてあったのです。

周りにあったのが猫の足跡であったことから、男は猫が恩返しをしてくれたのだと察し、思わず涙を流したのでした。

フィールドワーク①中村橋駅と千川通り

まずはお話の中でにゃんぴーが流されてきたとされる千川上水を探してみましょう。

西武池袋線・中村橋駅の南口からスタート。

中村橋駅南口から歩いてすぐの距離に「千川通り」という、かつての千川上水が暗渠となった通りがありました。

千川上水は文豪・太宰治の終焉の地でもある「玉川上水」を分水した江戸の上水で、かつては「桜上水」とも呼ばれていたそうです。

現在の千川上水は大部分が暗渠(あんきょ)化し、東京都道439号として存在しています。

道路沿いには桜が植えられ、練馬区の春のお花見スポットとしても人気の場所だそう。

フィールドワーク②2つの「にゃんぴー像」を探す

さて、ここからは周辺にあるにゃんぴー像を探してみましょう。

地図で調べてみると、にゃんぴー像は中村橋駅の南口と北口にそれぞれ一体ずつあるようです。

こちらが南口を出たすぐの場所にあるにゃんぴー像です。

柵があったため近くには寄れず。しかし遠くから見ても、なんとも味のある顔をしています。

再度地図を確認すると、北口側のにゃんぴー像は中村橋商店街にあるようです。早速行ってみます。

中村橋商店街入り口「猫飛夕市」の横断幕にもにゃんぴーが。

にぎわう商店街を進んでいくと、西日を受け輝くにゃんぴー像がいました!

こちらは柵もなく、銅像に触れることができます。

この連載「週末民話研究」では、取り上げる民話について下調べをしてから現地に行っているのですが、今回の猫飛伝説は極端に情報が少なく、参考文献もほぼないことを不思議に思っていました。

中村橋駅の近くの練馬区立貫井図書館にて地域資料をあたってみたところ、なんとにゃんぴーはサンツ中村橋商店街のキャラクターとして2000年に生まれたらしいのです。

にゃんぴー誕生にあわせて作られた民話。
にゃんぴー誕生にあわせて作られた民話。

商店街のキャラクターにふさわしく、縁起がいい招き猫をモチーフにしているのだそう。

なお「猫飛」と書いて「にゃんぴー」と読む名前は当て字と思われ、にゃんぴーのぴーは「ハッピー」のピーに由来しているとか。

中村橋商店街ののぼりやチラシに登場するだけではなく、商店街にある各店舗では様々なにゃんぴーグッズも販売しているそうです(参考資料:練馬区フリーマガジン「nerimaga 中村橋」)。

調査を終えて

今回は珍しい2000年生まれの現代民話のご紹介となりました。

定義としてはまだ「民話」ではないのかもしれませんが、こういったものが世代を超えて語り継がれるうちに、「置いてけ堀」や「化けむじなの偽汽車」「大宮宿の人魂伝説」のように有名な民話になっていくのかもしれません。

なお「にゃんぴーのしっぽをさわるといいことが起こる」という噂もあるそう(参考資料:地域誌「Bonjour!中村橋 てくてくArt街歩き」)。

去り際にそっとにゃんぴーのしっぽに触れると、なんとも言えない表情がなんだか可愛らしいものに思えてきたのでした。

取材・文・撮影=望月柚花