後日、チェックをすると、大概は看板に店名が映っているが、稀にまったく情報が映っていない場合があるから困る。写真を見ながら「そもそも、ここは酒場なのか?」と疑ってしまうようなボロさで、結局何なのか分からずに破棄した写真も数多くある。

もちろん、後から見たときに「うっそ……なんて素敵な外観!」と、自分で撮っておきながら歓喜することもある。

そのごく一部を紹介しよう。

これは、川崎駅から浜川崎駅へはしご酒をしているときに撮ったもの。相当“ド渋い”ので、なかなか入るのに勇気が必要だろうが、いずれ訪れてみよう。

これも川崎か……そうそう、“ここが酒場だったらよかったのに”みたいな建物も写真に収めることにしている。ここもそう思って撮ったのだろうが……さすがに厳しい。建物の強度的な怖さもあるが、気がついたら幽霊と相席しかねない雰囲気だ。

ここは高円寺を散歩しているときに見つけたのだが、旗竿地の奥にある割烹風がたまらずパシャリ。ただ、後で調べてみると結構お高級だったので、ここはお金持ちの読者にでも奢ってもらおう。

すばらしい! これは確か……そう、埼玉の大宮だ! 蔦の外壁、色褪せたテント屋根、モルタルとレンガ模様の外壁の組み合わせが最高。酔っ払いながら、よくぞ撮っていた。ここは間違いなく行こう。

続いては……

!?

ちょっと遠いが、いい外観だ! ただ……こんなの、どこで撮ったかしら? 道路の対岸から撮影しているようだが……うーん……思い出した! 錦糸町から両国まではしご酒をしているときに見つけた『酒蔵 駒忠』じゃないか。駒忠といえば都内にいくつかあるローカルチェーンで、私も中野店と阿佐ヶ谷店にはよく行く。

そういえば、荻窪店はビル解体で休業中だったはず。コスパとメニューの多さ、あとはいつ行っても入れるという安定感でいったら、ローカルチェーンでは一番かもしれない。しかし、この外観は他の店とはちょっと違って、かなり“好み”だ。私の行ったことがある駒忠は、ビルの地下か二階にあって外観に面白みがないところばかりだ。

よし決めた。この宿題、すぐに片付けに行こう!

 

 

数日後、前回と同じように錦糸町から歩いて向かう。一応“両国店”らしいが、両国駅からでも錦糸町駅からでも、歩いて10分はかかるという、地元民以外からしたらまあまあアクセスが悪い。

しかし、私からしたらどうでもいいこと。早く“ひと目惚れ”したあの外観に会いたい……お、見えてきた。

おおっ! 今日は看板も点いているから、より私の好みに仕上がっているではないか。“駒忠カラー”のマッドイエローの屋根看板、その下には瓦屋根、軒下は民芸風の木製引き戸で、そこに短い藍暖簾が掛かる。

いや、もうね、これは完璧にLOVEですよ。まったく文句の付けようがない。となると、早く中に入るしかないのだ。短暖簾をポロンと引いて中へと入る。

 

 

「いらっしゃいませー」

あんらまぁぁぁぁ素敵ぃぃぃぃ! 角の丸くなった柱、テーブル、イス。照明も統一されていて店内は茶色メイン。他の店舗に比べると、しっかりとコンセプトが成り立っている。

まだ口開けすぐだったので他に客はおらず、美人女将さんと厨房のマスターの二人で、仕込み途中といった雰囲気。やっほい、これは貸し切りで楽しませていただきましょう。選び放題のテーブルのひとつに座り、まずはアレからだ。

直ちにホッピー(アレ)がやってきた。キンキンのジョッキにビッシリICE。そこにズボリと突き刺さるステンレスマドラーを見ていると、ますます喉が渇いてきた。

コツン(ICEが前歯に当たる音)……ごくんっ……ごくんっ……、ウマチューコマチューッ!! やはり茶色メインの店には茶色の酒が合う。口の中がタンサンでスプラッシュした後は、いよいよ料理だ。メニューの多さで定評のある駒忠なので、今回は料理を強めに紹介したい。

まずは大衆酒場の安定のモブキャラ「赤ウインナー炒め」だ。親の敵ほどに切り刻まれた赤ウインナーと、ざく切りのピーマンがうれしい。

ムチンッと弾ける赤ウインナーと、軽めに焼いたピーマンが相性GOOD。隠し味の如し、細切りの玉ねぎの甘味がまたいい塩梅だ。

出ました「駒忠サラダ」!“店名が付いている料理は必ず頼め”と諸先輩方の格言通り、この家庭感満載の大皿盛りが既によし。レタス、トマト、キュウリにキャベツ、和風ドレッシングがかかった仕上げは、強めのニンニクチップというパンチ&スティミュレイト。

それら全部を鷲掴み、ガッツリと食らいつく。シャクシャクシャク……野菜の歯ごたえに、ニンニクチップのカリカリがたまらな~い。

完全に“飲(や)りスイッチ”が入ったところに、「牛カルビ焼き」が襲い掛かってきた。なんですか、このワンパク大将なビジュアルは?

「べらーん」と肉汁滴り落ちるところを、下から一気に食らいつく。焼けた牛肉のミルキーな香りと、阿部寛ばりの“濃い”ステーキタレが相まって、ウマさタマりませんっ!

ふぅ……、さすがは駒忠コスパっていう感じだ。まだまだイケる。

酒場BGMは、音量を下げたテレビの音だけ……いや、細かく言えばこれからやってくるであろう地元の呑兵衛たちのために、女将さんは掃除や調味料の補充、厨房のマスターはトントントンと包丁を鳴らす音だけだ。いつも行く駒忠はいつもにぎやかなのだが、こんなユルリと飲(や)る駒忠もまたいい……いや、これこそがいい。

さてさて、大好物の「刺身盛り合わせ」が仕上がったようだ。舟盛りを模した長皿には、マグロ、ハマチ、タイ、ホタルイカ……それ以上も、それ以下でもない、お見事なラインナップ。それに、この店のある都東部は魚がウマいことは分かっている。

無論、この店も例外ではない。マグロやハマチの脂のノリっぷり、タイはサクリと新鮮で、ホタルイカもプリリと弾けるおいしさ。刺身の盛り合わせは、魚のチョイスと盛り付けの演出が、酒場によって全く違うから楽しい。

さっきからずっとおいしい匂いがすると思ったら、やはり「ホルモン炒め」だったか。ホルモン炒めは“シンプルイズベスト”が至高で、モツを辛めの醤油でババッと炒めて、ネギをババッと散らすでいいのだ。

食感も、これくらいがベストですよ。硬すぎず、柔らかすぎずのモツは、表面をちょいと焦がした香ばし仕上げ。タレの染みた長ネギのトロトロも、良き相棒となっている。

まだまだ食います。だって「海鮮ユッケ」なんてものもあるから、うれしくなっちゃうじゃない。肉ではなく“海鮮”という楽しさよ。マグロとハマチが、肉ユッケとまるで違わない。ポロンと乗った黄身を箸で潰してぐーるぐる。

箸でモッサリと持ち上げ、ガバリとひと口……うめぇぇぇぇっ!! ひんやりとした舌ざわりにマグロとハマチの脂の旨味が最高。なんだろう、この短冊切りがいいのだろうか、黄身とも滑らかに絡み合って病みつきになる。ワタクシ、こっちの海鮮ユッケの方が好きかもしれない。

腹はパンパン、心もパンパン。駒忠……店舗は違えど、相変わらず料理達者でなんでも揃っていますね。間違いなく、この宿題の答え合わせは“満点合格”であった。これからも、こんな宿題づくりを続けていこうと誓った。

 

 

「ありがとうございましたー」

「ごちそうさまでした!」

 

間もなくすれば、地元客も集まってくるであろう。宿題を終わらせれば、長居は無用だ。まだ外は明るいので、近くの亀戸天神、それか湯島天満宮にでも寄ってから、次の酒場へ行くことにしよう。

そうそう、私はお寺や神社も大好きで、こちらも散歩中によく写真に収めるのだが……これも後から見返して、いつも思うのだ。

“こんな渋いところが酒場だったらなぁ……”

 

ある意味、本当の理想であり、

なんとも、罰当たりな呑兵衛なのである。

『酒蔵 駒忠(さかぐら こまちゅう)』

住所: 東京都墨田区緑2-15-17
TEL: 03-3633-6760
営業時間: [火~土]15:00~02:00[日・祝]15:00~00:00
定休日: 月曜日
※文章や写真は著者が取材をした当時の内容ですので、最新の情報とは異なる可能性があります。

取材・文・撮影=味論(酒場ナビ)