西新井の人気トラットリアが2018年、北千住に移転オープン
北千住駅から歩くこと8分ほどのところにある。ナビ通りに歩いて行くと旧日光街道から細い路地に入れと指示されるが、人とすれ違うのもやっとというくらいの道だ。半信半疑に進んでいくと、まさか! 『Cafe Dining SI/NO』が確かにあった。
かつては同区内の西新井の駅ビルで30数年「Trattoria SI/NO」として経営してきたが、駅周辺の再開発による駅ビルの閉鎖にともない閉店。2018年にここ北千住で『Cafe Dining SI/NO』としてオープンした。
小さなドアを開けるとアンティークのような空間に包まれていて温かみがある。筆者のハートにズバンとハマるシチュエーションだ。テーブルは女性で埋め尽くされ、めいめいに会話と食事を楽しんでいる。
迎えてくれたのはオーナーシェフの阿部恭之さんと奥さまの真由実さん。もともと恭之さんの実家が西新井で洋品店を営んでおり、その飲食部門として「Trattoria SI/NO」を開店。店長として働きながら、そのときにいたシェフたちに料理を習って徐々に技術を身につけたそうだ。「うちには腕のいいシェフがいましたから、基礎からいろいろ教えていただきました。店を長年経営していたので、フレンチやイタリアンなどさまざまなジャンルのシェフからたくさんのことを学びました。カレーとかパスタが人気だったんですよ」と話す。
「移転することになって足立区以外の物件も見たのですが、北千住は大きな町だし、なんといっても西新井から東武線で一本なので、常連のみなさまが『北千住だったら行けるわ』と言ってくださったのが大きかったですね」と真由実さん。
お2人とも西新井出身で、慣れ親しんだ街を離れるのは多少不安があったそうだが、「地元の方はごひいきにしてくださり、今も西新井からたくさんの方がいらっしゃいます。店内の広さは以前の半分になりましたが、かえってお客様との距離が近くなってよくお話しするようになりました」とほほえむ。
西新井からの常連はもちろん、近隣に暮らす人たちにもすっかり“おなじみ”となり、店がオープンすると毎日たくさんの人でにぎわっている。
DIY好きの奥さまが可能な限りカスタムした温かみのある店内
「店の内装はね、うちの奥さんが壁を塗ったりしたんですよ」と恭之さんが言うので、思わず2度聞き返した。だって、とても女性ひとりでできるクオリティではないと思ったから。DIY好きの奥さんが内装のデザインを担当し、水回りなど専門業者でないとできないところ以外、壁やドアにクロスを張るなども担当したのだそう。
アイスミントとホワイトのカラーリングもいいし、おっしゃれー! 真由実さんはちょっと恥ずかしそうにこう言う。「壁は珪藻土を塗ってからペンキを塗りました。それからベンチの背板やトイレのドアも自分で付けたんですよ」。すごい! 器用ですねえ。
「ランプや壁掛け時計は西新井の旧店から持ってきたものです。うちのオヤジが持ってたアンティークで、船用なんですよ」。
「たとえば壁掛け時計は八点鍾というんですけど。昔の船乗りは4時間ごとに当直を交代することになっていました。交代して30分後に1回鐘を鳴らし、1時間後になると2回。4時間後には8回鳴り、交代の合図を知らせていたんですよ」。
なんで船のものかというと、西新井で店を開いた時にシーフードレストランにしようと思っていたからだそう。「でも、結果的にシーフードにするのはやめたんですけどね」と恭之さんは笑う。
見た目も美しい、ポテトとチキンとビーフが重なり合うアンブルジョア
フレンチ・イタリアンをベースとし、旬を意識したメニューが自慢の『Cafe Dining SI/NO』。ちゃんとした食事がしたいけれど肩肘を張らないカジュアルさがいい。ランチは、半月に1度変わるパスタや肉または魚がメインのランチと、副菜が多くボリューム満点のワンプレートランチ。ワンプレートランチはSNSによく投稿されている。
そこでふとメニューに目を留めた。このアンブルジョア1300円とやらが気になる。「チキン、牛ミンチ、ポテトの重ね焼きです。これも人気ですよ」と真由実さん。わっ、コレを食べてみたいです!
表面がクリスピーに仕上がるようにパン粉にハーブをミックスしたものとポテトを重ね、次に鶏肉、牛ミンチ、再びポテトを重ねてオーブンで焼いているそう。デミグラスソースにはミックスベリーを加え、甘酸っぱさとフルーティーな香りで爽やかなテイストに。さて、どんなお味かいただいてみよう。
テーブルに運ばれてくるとふわ〜っとハーブの香り。とくにローズマリーが強く感じる。これはおいしそうだ。
上から下まで層を崩さずいただくのがベストなのだろうが、どうしてもうまくいかない。「いやいや、ほかのお客さんも苦労されているみたいです。面倒な料理ですみませんねぇ。ぐちゃぐちゃにしなければある程度おいしく召し上がれるので」と恭之さん。
外はパリッとしており、中の具材はジューシー。それぞれのおいしさが相まって濃厚な旨味になっている。個人的にはお皿を彩る茹で野菜も最高においしかった。発色も良く、いい塩加減で火の通り具合も好み。濃い味付けのアンブルジョアとの相性ももちろん最高だった。
『Cafe Dining SI/NO』は、北千住のお店とコラボしているところも面白い。ランチのパンは『ichika Bakery』のもの。メニューに合うようにオリジナルのフランスパンを焼いてもらっている。
そしてランチではプラス100円で飲めるコーヒーは、『TAMAコーヒーロースター』によるもの。『Cafe Dining SI/NO』オリジナルをブレンドしてもらっている。
コラボを提案したのは真由実さんから。「西新井にいるときはあまり店舗同士のつながりがなかったのですが、やっぱり下町ですから地元のお店と支えあっていきたくて。私の方からそれぞれのお店にお声かけをしたところ快く受け入れてくださいました。私たちもすごく気に入っています」。
ランチデザートがおトクに食べられる。ほかのテーブルを見渡すとそういえば、みんなランチにデザートつけてるなあ。ちなみにこの日はなめらかプリン250円だった。ランチのデザートをはじめ、店内のケーキやキッシュもすべて真由実さんが焼いているという。
食後のコーヒーと楽しいおしゃべりでパワーチャージ。阿部さんちに遊びに来たみたいで楽しかったから今度は友達を連れてこよう。さて、1日の後半戦も頑張りますか。
構成=アート・サプライ 取材・文・撮影=パンチ広沢